フウ・ドリットの場合③


 それから一ヵ月後。


 場所はミアプラキドゥス平原。前に霰虎を追いかけた場所だ。


 今回は、その討伐した虎の子供たちを保護するというクエストで、“オリーブの鱗”総員で対処している。


 子供は全部で七匹。



「スキル【廟】使用!」


 ヒッツがドームを広げ、手早く三匹を生け捕る。小柄であるためきょうだいの下から三匹だろうか。


「スキル【獵神の運命】使用」


 リョーは一番大柄な――恐らく長子に立ち向かう。親の三分の一くらいのサイズは既にあり少しばかり手強いと思われたが、まだ経験の浅い子供だからか、決着はあっさりついた。


「スキル【不屈】使用!」


 フウは三番目と四番目を担当した。地面を削ってそこに脚を引っかけるという単純な策だが、すぐ捕獲できた。


「『人は集う――集うは空気』」


 ゲンは上から二番目を任された。長子ほどではないがゲンよりは大きい体躯。相手の突進に対

し、彼はそう詠唱する。


「『空気はす――圧すは』――ッ!?」虎はゲンの思ったより速く、彼に突撃した。空気による防御が遅れる。ゲンは吹っ飛ばされ――リョーが受け止める。虎はフウが足下に剣を投げ、怯んだところをヒッツがドームに閉じ込める。


 これにて子虎七匹の捕獲クエスト完了である。



「す、すみません、詠唱が間に合わなくて」


 ヒッツが報酬を受け取りにいっている間、ゲンはリョーに謝る。


「貸し借り的なのはなしって言ったでしょ。頭上げて」リョーは言いながらゲンの頭を撫でる。「それに、詠唱速度はそこまで問題じゃない。どちらかというと深刻なのは」


HPヒットポイントだな」


 フウが続きを受けた。


「?」


「私が受け止めてなかったら――比喩じゃなく、全身の骨が砕けてたと思う」


 リョーの言葉に、ゲンは冷や汗を流す。


「HPはそのままどれだけ相手の攻撃を受けられるかに直結する。防御が間に合えばHPは減らされないが、逆に防御が間に合わなくても、HPが高ければ攻撃は耐えられる」フウは言った。「お前の場合、HPが低いから迂闊に攻撃を受けられない。常に防御し続けるくらいじゃないとな」


「常に――」


 彼としては、特に自分のHPが低いという認識はなかった。これまでを思い返しても、ひどい怪我をしたり他のパーティメンバーと比べ戦闘の傷が大きかったりした憶えはない。それだけ、羆は今まで倒してきた相手と格が違うということか。


「まあさっきのも、避ければ当たらなかったし、いろいろ練習あるのみだよ」ヒッツが戻ってきて言った。「とりあえず新しい装備、買いに行こうか」


「……ありがとうございます」


 ゲンはそう応じる。



  *



「実際どうなんだ? ヒッツ」


「試算してみたけど――防げなかった場合、羆の攻撃一発で死亡するだろうね」


「…………」


「リーダーのサポートってポジションだと、自分を護りにくいからもらっちゃう攻撃はあるだろうね。かといって陣形を変える――つまりオレとゲンを入れ替えるとしても、羆の攻撃は防御を貫通するんでしょ」


「…………」


「私が位置に気をつければ――」


「そうすると攻撃頻度が下がって戦闘が余計に長引く。ただでさえ体力勝負なんだ」


「じゃあ、どうするの?」


「――前のパーティの詠唱手キャスターも、HPが低くて、羆に殺された。同じことを繰り返すのは――」


「一度仲間に裏切られ、傷を負ったゲンに」


「…………」


「また、傷を負わせるつもりなの?」


「オレだって、したくてする訳じゃ」


「まあまだ決まってないことだから」


「策はあるはず」


「リョー――」


「話は終わり」


 彼女は言って、部屋に戻った。

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