追放理由は行を跨がない ~スキル【限界突破】はこの先必要ないって、まだ突破の余地があるのに本気ですか? まあ僕もついこの間知ったんだけど、もう遅いったらもう遅い!~

烏合衆国

プロローグ

追放理由は


「ゲン、頼む」


「了解、ケン」


 彼は向かい合う少年の胸の前に手をかざす。



『スキル【劍神ケンシン導きミチビ 】 lv.90。

 スキルのレベルが最大です。

 スキルレベルの限界突破が可能です。

 スキル【限界突破ゲンカイトッパ 】を使用しますか?』



「使用!」



『スキル【限界突破】を使用。

 スキル【劍神の導き】のレベルの限界突破に成功しました。

 スキル【劍神の導き】はスキル【劍神の加護カゴ】に進化しました。』



「おおッ!」


「やったね」


 周りで見ていた二人が声を上げる。


「ありがとなゲン。これでこの先も旅を続けられる」ケンは言って、拳を目の前の旅仲間に突き出す。


「どういたしまして。そのために僕がいるんだから」ゲンはそれに応じて、ケンと拳をぶつけ合った。



 そうしてその四人パーティはまた道を進み始める。

 時に悩み、時にぶつかりながら、道を進み続ける。



  *



「お前、追放クビな」


 進んでいく、はずだったが。


 ある夜、会館の食堂でリーダーのケンは言った。彼の視線の先にいるのは、仲間の一人、ゲンである。


「……え? な、なんで?」


 ゲンは驚きを隠せない。これまで二年近く、この四人で、冒険者パーティ“剣 ツルギマイ”として活動してきたのである。素材を集めたり、護衛をしたり、魔物を倒したり、いろいろなことがあった。バランスの取れたいいパーティだと思っていたのだが、それは勘違いだったのか。


 周章するゲンに、ケンは尋ねる。


「お前のスキルは何だ?」


「――げ、【限界突破】」


「そう。そしてそれを俺のスキル【劍神の導き】に使用した。おかげでスキルは【劍神の加護】に進化した」ケンは淡々と言う。「オートのスキル【大砦】オオトリデ にも使用して、【要塞ヨウサイ】に進化。イーヤのスキル【イヤ】は今日レベル90になって限界突破させ、スキル【癒しヌシ】に進化した」


「う、うん」


 それは知っている。彼のスキル【限界突破】はそういうスキルだ。旅を経て溜まっていく経験値には上限があるが、【限界突破】を使用すればその上限を越えてレベルを上げることができるようになる。


 レベル90を境としてそれ以上と以下では全く違う。会館にて受けられるクエストの中でもレベル91以上がパーティにいることが条件のものが全体の一割ほどあり、それらは報酬が他のものと段違いなのである。


「俺たち三人のスキルは限界突破し終えた。敢えて理由を言ってほしいのか? まあ行も跨がず言えるが――




 




 リーダーは言い放つ。


「俺たちは他の奴を誘ってこれから活動するから。お前はまあ、そのスキルはあぶれはしないだろうから、どこかのパーティに拾ってもらえよ」


「今までありがとな」大男のオートはゲンの左肩を叩き、


「これからはそれぞれがんばろ」イーヤは握手を求める。


 呆然と応じながら、ゲンは頭の中でぐるぐると思いを巡らす。追放? 急にどうして。これからどうすれば。ケンのことは友人だと思っていた。名前が似てるからという理由で仲よくなったのだが、ケンは攻撃手アタッカーとして、ゲンは詠唱手キャスターとして、互いに切磋琢磨し高め合った。パーティを組もうという話になり、足りないポジションとしてオートとイーヤを採用し、会館に登録したのが二年前。


 【限界突破】がもう必要ないとはいえゲンはある程度の魔法を使うことができる。今までそれで切り抜けた場面がいくつかあるし、そもそもキャスターとしてはそちらが主である。


「ケン――」


 もう一度話し合おうと、ゲンは口を開くが、


「これが最後の報酬だ。それじゃあな」袋を一つ机の上に置いて、四人のうち三人は席を立った。袋の口から銅貨が少しこぼれる。一人を残し、彼らは歩いていった。彼らがゲンのほうを振り向くことはなかった。

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