第22話 気の合う二人
「あ、あのー」
とりあえず、おずおずと手を上げてみる。
「本当に私、Vtuberなんて出来るのかな?」
「それは、問題ない」
私の質問は即座に解決、といった様子で千代にぶった切られる。
「でも、全然決まってないんだろ? そんなんで本当に出来るわけ?」
「うん、そう。だから、意見求む」
「まずはどんなキャラにするかも大事なんじゃねえの?」
「それだ!」
なんか、本人を差し置いてどんどん話が進んでる。気が合うんじゃないの? この二人。
「一応、適当なキャラなら作れると思うけど。あ、見た目の話。けど、決めてもらわないと方向性もわからない」
確かに、三島君の言うとおりだ。
「どうせなら天音っちに合うキャラにしたいよね。すごく可愛いやつ。んー、天音っち、紙とペンある?」
「ちょっと待って」
メモ用紙を千代に渡す。
「んー、んー。あー」
三島君と二人で、唸っている千代を思わず見守ってしまう。
千代が紙の上に何かを描こうとしている。
「んー!」
期待して見ていたのだが。
千代は紙の上にぐしゃぐしゃぐるぐると訳の分からない物を描いて、メモをちぎってポイッと投げた。
「がー! 私程度では思い付かない! こう、なんかモヤッと頭の中に可愛いキャラがいるんだけど、形にならないというか! 天音っちの可愛さを生かし切れるキャラが描ける気がしないというか!」
気に入った作品が出来ない陶芸家か何かかな?
私のことを可愛い可愛いとか連呼してるけど、声の話なんだよね?
「……わかる」
なにか今、三島君がぼそりと呟いた。何がわかるの?
三島君も何か作っている人みたいだから、産みの苦しみがわかるってことだろうか。三島君も千代のこと気になってたりとかするのかな。
「でしょ! わかるでしょ!」
「い、今の無し」
そう言いながら、三島君がちらりと私のことを見る。
「もー、恥ずかしがらなくてもいいのに~」
うひひ、と千代はにまにましている。
これ、私がここにいない方がいいんじゃないだろうか?
「私、お邪魔かな?」
「「なんで!?」」
口に出した途端、二人にツッコまれる。
「い、いや、だって。二人で楽しそうだから」
「どこが!」
「それは、無いから」
今度は二人から即座に否定されるけど、そんなに慌てなくてもいいのにと思ってしまう。
「とういうか、そもそも吉田って絵描けんの?」
「あ、うん。一応?」
「じゃあ、キャラは任せるでいいんじゃね?」
「確かにそうだね。ちーちゃん、めっちゃイラスト上手いんだよ」
「いやいやいや」
今度は千代がぶんぶんと手を横に振る。
「どしたの、ちーちゃん。謙遜することないのに」
「ほら、だって、さっきキャラは適当なのなら作れるって三島も言ってたでしょ。私のイラストなんていらなくない?」
「そんなことはない。ツールで作るとどうしても似たような感じになるから、出来れば元のイラストがあった方がいいよ」
「えー、そうなの? そんなのちゃちゃっとやっちゃえばいいのに。あ、あのさ! 私、模写は得意だけどオリジナルのなんて描いたことないよ? 描けない、というか……」
「ちーちゃーん」
「な、なんでしょう?」
「それ言ったら、私だってVtuberなんてやったことないし、何かに声を当てたこともないんだよ?」
「あー」
「私のことはさんざん持ち上げてたくせに、自分のことになったら一歩引くのはズルくない? ちーちゃんだって絵描くの上手いくせに。私には出来るとか言うくせに。自分は諦めるのかな~」
「う」
千代が言葉を詰まらせている。
さっきまで私にばっかりやらせようとして、困らされてたんだ。少しくらい困らせてもいいと思う。
「どうなのかな~」
「ううー。で、でも、どうしたらいいかわからないよー!」
「それ言ったら私もなんだけど。オリジナルの描くのってそんなに大変なの?」
「もちろんだよ! 私には自分の絵柄が無いし。だから、人のは真似しやすいんだけど。むぐうう。確かに、オリジナルですっごく素敵なキャラとか描けたら楽しいだろうな~とか思ったことは……ある、けど」
「あるんだ」
「あるけど、自信ないって言うか」
「誰でも最初はそうなんじゃないのかな」
自分で言いながら思った。なんだか立場が逆転してる。
千代もこういう気持ちなのかな。出来るのにやらないのが、もったいないって。
だって、本当に私は千代のイラストを見るとすごいと思う。私にはあんな風にさらさらと描いたり出来ないから。
何も無い白い紙に、何も無かったところに、何かが生まれていくのは魔法みたいだなって思う。
「そうかなあ。前に天音っちに見せたことあるイラスト、あるじゃん? 覚えてる? ウノ×シェニの」
私は頷く。
それ、私の母だわ!
「あの人なんて同じキャラ描いてても全然違うんだよ。オリジナリティがあるってかさ。それでいて、ちゃんとそのキャラに見えるんだよ! きっと、ああいう人は最初から上手かったんだろうな。私もあれくらい描けたら、こんなに悩まないんだけど。うー、羨ましい」
千代、そんな風に思ってたんだ。
私には千代も母もすごいな、くらいにしか思ってなかったのに。
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