柳生十兵衛を待ちながら

上面

序文

 本当に一番はじめの出来事を語るならば、混沌よりこの世界が創造されたことについてから記述するべきだと思う。しかしこれは俺という個人の話であるため、それは不適当だ。

 柳生一族は最初から現在のような人外の一族ではなかった。

 ある決定的な出来事を境にして首と胴体を切断しなければ死なないような理外の怪物に変わった。血液感染で増え、感染源を親とし、子は絶対に逆らえないというような絶対の法則を有する怪物ではなかった。今では到底考えられないことだが。

 俺は柳生宗矩ヤギュウ・ムネノリの末の息子として生まれた。長兄にして柳生の最高傑作である柳生十兵衛三厳ヤギュウ・ジュウベエ・ミツヨシの影となるために生まれた。そして父である宗矩の言われるままに妻を娶り、殺した。

 だが、今となっては全てのことがどうでもいい。俺の人生はただただ掌から零れ落ちていくものだった。

 

 


 

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