【覇王の料理番】ただの料理好き女子高生が異世界召喚転移をさせられたので家族を捜し出してのんびりスローライフを楽しもうとしたら、冷酷無慈悲なくせに甘党なイケメン皇帝の専属料理人に任命されちゃいました!
第2話 覇王様にお礼をしなくちゃ! 出会いのプリン
第2話 覇王様にお礼をしなくちゃ! 出会いのプリン
私は名前を耳元で囁かれた。
「弥生、弥生」
「うーん。……おばあちゃん。お母さ〜ん、お姉ちゃん。もう朝〜?」
耳に心地良い、それは落ち着いた低めで優しい
あれ?
誰の声?
おばあちゃんでもお母さんでも、お姉ちゃんの声でもない。
お父さん? おじいちゃん?
――違う。
亡くなったお父さんもおじいちゃんの記憶の声とも違う、たぶん。
「わわっ!」
「やっと目を覚ましたか。弥生、起きろ。お前にしておきたい話がある」
すぐそばに美しい顔の男の人がいて、ちょーびっくりした!
「きゃあっ! フリード様? 同じベッドで寝てるってどういうことですかっ!?」
「あー、うるせえなあ。弥生、あまり騒ぐな。頭に響くだろうが。朝だが、まだ日の出前だなんだ。従臣が来たら説明が面倒くせえんだぞ。魔物討伐の野営のテントにいるんだから、簡易ベッドは数に限りがあって仕方ねえの」
「そっ、それにしたって! 私、嫁入り前なんですよ? っていうか、誰ともお付き合いしたことすらないんです。それが初対面の男の人と一つのベッドに寝るだなんて」
ぷっと、フリード様は吹き出した。
それからハッハッハと笑ってる。
「色気ねえ女は抱けないし、寝てる女に手を出す気もない。それにお前、子供じゃんか」
「子供じゃないですぅ! 16才ですぅ」
「俺からしたら、お前なんかまだまだ子供だね。育つとこ育ってもいない子供を相手にするほど、飢えても困ってもねえよ」
「そうですね。……フリード様、モテそうだもん。私なんかを相手にしなくっても不自由がないですよね〜」
「まあ、な。……それよりもお前さ」
フリード様は急に真顔になった。
「はい? なんですか、フリード様。急に真剣モードで」
「さっきから俺を煽って軽口叩いて。いっちょ前にからかってんのか? いい度胸だな。俺と顔を会わせる人間はたいがい無口で震えてるぞ。とくに俺と初めて逢う女はな。……炎帝の俺にそんな遠慮ない態度はお前とセイロンぐらいだ」
「
「あとで会うことになる。俺の
……あれ? 部屋が真っ暗だから気づかなかったけど、目が慣れてきたらフリード様の髪の色が黒に見える。
出会った時は蜂蜜みたいにまばゆい黄金色してなかったけ?
瞳は濡れた漆黒、黒曜石の輝き……。
そのフリード様の瞳が私を射抜くように見つめている。
「弥生お前、家族を捜してあっちの世界に帰りたいんだろ?」
「えっ? 私、家族のことフリード様に言いましたっけ?」
「うなされながら寝言で言ってたぞ。それに異世界召喚の詳細の報告が夜中に入って来たからな。辻褄が合うさ」
「……そうですか」
その時。
ぐ〜っ、きゅるるっ! って凄い音がした。
真剣な話をしているのに、私とフリード様のお腹の虫が鳴っちゃったの。
フリード様がクスクス笑う。
「笑いすぎですよ? だってこっちに来てから一度も水分補給も食事してないんですもん。……あれ? 喉は渇いてない」
「ああ、俺がお前が寝てる間に回復ポーションを匙で飲ませた。気を失っていても、水分は本能が欲しがるんだろうな。弥生はまるで乳を飲む可愛い赤子みたいな
えっ、えっと……。
皇国の炎帝フリード様みずから?
「……ありがとうございます」
「急にしおらしくなったな。お前は騒がしいぐらいが似合うぞ。弥生、腹が減ってるならこっそり何か食うか? 給仕係には内緒でな」
先にフリード様がベッドを降りた。
「きゃっ……」
私を抱き上げて、そっと下に下ろす。
な、なんか恥ずかしいな。
どこぞのお姫様扱いしてくれてるの?
「弥生、足の怪我は痛むか?」
「あっ、忘れてました。すっかり痛くなくなりました」
「そっか、それは良かった。ポーションと回復魔法が効いたか」
「ポーション、良いですねえ。私も作れるようになりたいな」
「薬学から学ばないとならんが? ああ、お前は高等料理人鑑定スキルがあるから下地の学びはある。基礎があるわけだし、わりと早くポーションを一人で作れるかもしれんな」
「薬学、か。料理も食材を知ることから始まりますからね。私、高校で栄養学もちょっと習っていて。専攻しといて良かったかも」
「コウコウ? なんだそれは?」
「ふふっ、今度ゆっくりと教えますね、フリード様に。……私の生まれた世界のこともいっぱい」
「うん、興味深いな。互いの世界は違うがこうして縁が出来たのだし、知らないことを探求するのは面白い。弥生、お前のことがもっと知りたい」
「はいっ。私もフリード様のこと、知りたいです。面白そう」
フリード様が微笑んだ。
出会ってからまだちょっとだけど、私の知る限りいちばん柔らかい笑みだった。
二人でそっと天蓋の幕を抜け出し、野営テントを出る。
その時もフリード様が幕を手で押さえてくれてかからないよう、私がテントから出やすいように……。
ちょっ、ドキッとする。
炎帝フリード様って、紳士だな〜。
魔物とかにはおっかなくても、女性には優しくするタイプなのかしら?
大きなテントを出て、軽く振り仰いだ天には数え切れないほどの星々が宵闇の大空を埋め尽くしていた。
「わあ〜っ! すごい星空っ!」
「……初めて見るような反応だな。お前の世界では見える星が少ないのか?」
「そうですね。場所によるのですが、私の住むところでは年々星が見える数が減っている気がします」
「弥生、星は好きか?」
「ええ。綺麗です。星、好きです」
「そうか。いつかここよりもっと美しく見えるとっておきの場所に連れて行ってやるよ」
「本当ですか!?」
「ああ。俺は約束はな、まあ守るタイプだ」
まあって。それ、絶対じゃないんだ。
「死んだら、すまない。その時は約束は守れんが、周りのやつに伝言しておくから。自分の世界に帰る前に他の誰かに連れて行ってもらえ」
「そんな不吉なこと……」
フリード様の表情が刹那翳った。
死んだら守れないって。そりゃあそうだろうけれど……。
「なんでそう、ネガティブ思考なんですか!」
「あのな。俺達、王族将軍には死は常にそばにある。お前には縁遠いだろうが、強い魔物に襲われたり謀反の逆賊が出れば、簡単に殺されることだってあり得るんだ。……悪い。お前の嫌う『不吉な話』を語りすぎた。調子が狂うぜ。どうもお前は俺をお喋りにさせてしまうようだな」
私は身長の高いフリード様の背中を見上げていた。
彼が野営の調理場に連れて行ってくれる。
「ねえ、フリード様」
「うん? なんだ?」
やっぱ、髪色変わったよね?
「髪の毛、短時間で染めたんですか?」
「あっ? ああ、ふふっ。……俺、闘気を呼び起こすと髪の色が変わるんだ。魔物を祓う紋章の力だな」
「トウキ? モンショウ?」
「お前の世界にはないのか? 紋章継承とか」
私は食材管理の棚に行き、箱を覗く。
魔法かしら?
冷蔵庫のように冷えた箱があって、名前の分からない魚や肉に卵などなどが入っている。
魔法で冷やして収納出来るとは……、便利ではないですかっ!!
しかも、食材に手をかざすと私、その食材名やおすすめの食べ方なんかが見えるんだよ。
料理人鑑定スキル、ありがとー。助かる。
けっこう私の世界の食材と似てるものってあるんだな。
これはラッキー!
「聞いてんのか? 弥生。紋章継承だ」
「モンショウケイショウ? そんな物騒な感じのもの、ありません。……ああっ! うんっ、作れそう。材料揃ってる〜。私、プリン作りますね。フリード様、魔法って氷とか出せるんですよね?」
「ぷりん? ああ、俺の魔法で氷は出せるぞ。弥生、……ぷりんってやつは美味いのか?」
「美味いですよ〜。とびっきり美味しくって甘いんですから。ほっぺた落ちちゃうかもですね」
ふーんと言って、フリード様は私のすぐ横に立った。
「あの! 作業がしづらいのでそちらに座っていて下さい。寝ていても構いません。冷やす段階になったら呼びますから」
「どんな風に作るのか見ていたかったのだ。もう眠くはない」
「もしかして私がプリンに毒をいれるのではと、警戒されてます?」
「毒? ハハハハッ! 弥生が『ぷりん』ってやつに毒を入れて、食った俺が死んだらお前は即刻斬首刑だ」
「プリンに対する
「うむ、本気だな。皇帝や王族貴族に対して粗相があれば死で償うのがこの国の流儀だ。安心しろ、お前が毒を入れないのは軍人の勘で分かる。信用してやる。直感とか気配? お前みたいに隙だらけで殺気のしない女、なかなか居んぞ。まあその前にな、多少の毒なら俺は耐性があるので滅多な毒じゃ簡単には死なん」
異世界ってけっこう、住みづらそうだな。
早く、お母さんとお姉ちゃんを捜して家に帰りたい。
――元の世界に帰りたいよぉ。
私は半泣きでプリンを作り始めた。
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