第20話 隣の女子校の生徒:精華理子の場合(その2)

翌日、やはり学生食堂での話だ。

俺はいつもの通り、サッカー部の三浦京也、バレー部の川崎信、軽音部の小田原淳と一緒に昼飯を食っていた。

半分ほど食事が進んだ所で、三浦が口を開いた。


「今週の金曜の夜だけど、みんな予定ある?」


俺は「生徒会があるけど5時までには終わるな」と答えると、川崎が「俺も5時半には部活が終わる」と言い、小田原が「俺は部活は出たい時に出るから大丈夫だけど、何の用だ?」と聞き返した。

すると三浦が得意げに話した。


「ウチの高校の近くに山城女子学園ってあるじゃん。あそこに小学校時代の同級生が通っていてさ。この前、駅でバッタリ会ったんだよ。それで話してたら『合コンしよう』っていう話になって」


さっそく小田原が飛びついた。


「お、合コン? いいねぇ。あの山城女子にも可愛い子がけっこういるからな」


「じゃあ小田原は決定な? ショウと川崎は?」


川崎信が先に答えた。


「俺も参加するよ」


小田原が「なんだ、川崎は彼女一筋じゃなかったのか?」と言うと、少しムッとした感じで理由を話し始める。


「彼女のヤツがさ、他の男と遊びに行っているみたいなんだ。その事を言ったら『束縛しないで!』とか言いやがってさ」


「お~、それは彼女、ムカつくな」と三浦。


三浦にはムカつく権利は全くないと思うがな。


「だから固定の彼女なんか作らないで、適当に複数の女の子と遊ぶ方がいいんだよ」と自分の女性観を語る小田原。


それに対して川崎は神妙な顔つきで言った。


「俺は明日香一筋なのにさ。それって酷いと思わないか?」


それを聞きながら俺は「そうか、川崎くらい彼女を大切にしていても、そういう事もあるのか」と考えてしまった。

それならば小田原の言う事にも一理あるかもしれない。


「だから俺も他の女の子と遊ぶことにしたんだよ」


川崎が一大決心のようにそう言うと、三浦がいかにも嬉しそうな顔をする。


「おっしゃあ! これで川崎も俺たちの仲間入りだな。この世に女は約40億人、日本だけでも6千万人もいるんだ。出会いを楽しまなきゃ損だぜ!」


そう言った後で三浦が俺の方を見る


「ショウも行くだろ?」


「どうしようか……」


俺は悩んでいた。

なぜなら合コンに行けば、当然色んな女の子と会話する事になる。

その時にこの百戦錬磨の三浦と小田原を前に醜態を晒せば、実は俺が女性経験がない事がバレてしまうのではないか?

それを恐れていたのだ。


「ショウ、頼むよ。オマエには絶対に来てほしいんだよ。同級生にも『ショウ君は来るか?』って念を押されていてさ」


「なんで俺が?」


疑問を感じて尋ねると三浦は


「合コンに来る予定の娘に、ショウの熱烈なファンがいるんだよ。その娘はショウに会うために合コンに参加するんだってさ。だからここでショウが来てくれないと、俺の顔が潰れるし、同級生の娘も立つ瀬がないんだ。頼むよ」


と拝む様なポーズを見せる。


(そうだな……ここらで合コンで彼女を作るって言うのもいいかもな。今のままだと、いつか雪華の攻勢に押されそうだし……)


俺は昨夜の事を思い出していた。


「わかった。参加させて貰うよ。何時からだ?」


「サンキュー! 時間と場所は後でみんなにメッセージするから」


こうして俺は山城女子学園との合コンに参加する訳になったのだが……



金曜の夜7時。

俺たちは渋谷に集まった。

店は三浦たちがカラオケ店を予約してくれたのだ。

俺たちが部屋に入ると、すでに女子四人は中に居た。


「ゴメンな。遅くなって」


三浦がそう言うと金髪の女子が「ううん、いいよ。最初からソッチは部活とか生徒会があるって聞いていたし。アタシたちは部活とかはないから、その辺のお店で時間を潰してたから大丈夫」と答える。

どうやらこの娘が三浦の同級生らしい。


俺たちもドリンクを持って来た所で、最初の自己紹介が始まる。

一番最初が三浦に返事をしていた、金髪の女の子だ。


「今日はみんな来てくれてありがと~。アタシが鈴木春香。女子側の幹事で~っす」


その隣にいた左側だけ三つ編みにしたロングヘアの子が次に自己紹介をする。


「私は春香と同じクラスの精華せいか理子りこです。皆さんよろしく」


若干緊張しているような様子だ。


「ワタシは田中佳乃。二人と同じクラス。現在彼氏募集中でぇす!」


「ウチは斉藤加奈子。ウチだけクラス違うけど、三人とは仲がいいんだ。ヨロシク!」


「俺は……」


三浦がそう口を開きかけた時、女子幹事の鈴木春香が「ストップ!」と言って手を出した。


「言わなくても大体わかるよ。アタシらが当てて見せるね」


鈴木春香は三浦を指さした。


「サッカーやってるチャラ男の三浦京也。男子側の幹事!」


「オマエが俺を知っているのは当たり前だろうが」


三浦が苦笑した。

鈴木春香は「はい、次!」と言って、隣の精華理子を指し示した。

彼女は正面の俺を恥ずかしそうに見ながら


「桜花院翔くん。永田町学園の生徒会長で入学以来ずっと学年一位。クラブもいくつか兼部していて副部長。そして人気の雑誌モデル」


と口にする。

すると三浦が


「お~、詳しいねぇ。って事は、理子ちゃんがショウのファンなのかな?」


と冷やかし半分に言った。

すかさず鈴木春香が「三浦、そうやって人を茶化さない! まったく、そういう所は小学校から変わってないんだから」と説教する。

三浦が大げさに両手を広げて首を竦めた。


「はい、次!」


鈴木春香がそう言って三番目の田中佳乃の番になる。


「川崎信くん。バレー部のエースなんでしょ。さすが背が高いね。爽やか系スポーツマンって感じ!」


そう言われて川崎は「いやぁ、そんなことないよ」と照れてた。

四番目の斉藤加奈子は小田原を指さす。


「バンドやっている小田原淳くん。腕はセミプロ級で自分で作曲も手掛けてる」


小田原が嬉しそうな顔をする。


「お、加奈子ちゃんは俺に詳しいね。もしかして俺のファン?」


だが斉藤加奈子は首を左右に振った。


「まさか。ウチの友達が『小田原くんの彼女だ』って言ってるよ。それも何人もね」


「ゲッ!」


小田原のその反応に、斉藤加奈子はさらに厳しく突っ込んだ。


「有名だよ、『ヤリ捨ての小田原』って」


「誤解だよ~。俺は付き合っている時は一途なんだぜ。ただバンドのファンが多くって、それで誤解されているだけなんだよぉ」


小田原のその情けなさそうな言い方に、みんなが笑った。


それから俺たちは合コン的なゲーム(山手線ゲームとか、31とか、第一印象ゲームとか)で盛り上がった。

特に第一印象ゲームでは、女子がみんなズバズバ当てていくので、俺たちも腹を抱えて笑っていた。



******************************************************

この続きは、明日の正午過ぎに公開予定です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る