第19話 隣の女子校の生徒:精華理子の場合(その1)
山城女子学園2年B組の昼食の時間。
「ところで理子、今週の金曜の夜って空いてる?」
鈴木春香が玉子焼きを口にしながら尋ねて来た。
「今週の金曜? うん、空いてるよ。今週は生徒会の仕事もないし」
すると鈴木春香は我が意を得たりと、パチンと指を鳴らした。
「ヨシ! じゃあさ、合コン行かない?」
「合コン? でも春香が持ってくる話って、あんまりいい男がいないんだよなぁ」
理子が感心なさそうに、再びお弁当を口にする。
「それが今回は違うって。なにしろのアノ永田町学園との合コンなんだから!」
「永田町学園?!」
理子は思わず聞き返した。
「そ、アタシの小学校時代の同級生でさ、高校は永田町学園に行ったヤツがいるの。ソイツとこの前、偶然バッタリ合ってさ」
「本当に永田町学園なの?!」
理子が弾んだ声で再び確認する。
「こんな事で嘘なんか言わないって。永田町学園ってウチの学校とは距離は近いけど今まであんまり交流なかったじゃん。だからこれを機会に一度合コンでも、って言う話になったの」
鈴木春香の話に理子は身を乗り出した。
「そ、それって……」
理子の反応を見た鈴木春香がニヤリと笑う。
「イエ~ス、理子が前からお気に入りだった桜花院翔も来るかもしれないって事」
理子が椅子から立ち上がってさらに身を乗り出し、鈴木春香の手を両手で握った。
危うく机の上のお弁当をひっくり返しそうになる。
「それ本当? 本当に? 本当にショウ君が来るの? 私、期待しちゃっていいの?」
「本当」を連呼する理子を、鈴木春香は笑って宥める。
「まあまあ、落ち着いて。まだ確実じゃないけど、アタシの同級生、三浦京也って言うんだけど、ソイツがショウ君と仲がいいんだって。だからたぶん合コンに来ると思うよ」
「たぶんじゃなくて、絶対にして欲しい! ショウ君が来るなら、弟が交通事故に合っても行くから!」
「物騒な事を言うなぁ。わかったわかった、ソイツにショウ君を誘うように言っておくからさ」
「絶対に、絶対にだよ!」
「りょーかい。じゃあ金曜の夜、開けておいてね」
(憧れのショウ君に、現実で会える!)
精華理子の心は期待感で一杯になった。
彼女は雑誌でモデルをやっているショウを見てから、熱烈なファンになっていた。
いま通っている山城女子学園を選んだのも、永田町学園に近かったからだ。
(このビッグチャンスを逃したら、二度目はきっと無い!)
精華理子はそう思って闘志を燃やしていた。
…………
家に帰って休息の一時。
ウチは両親の帰りが遅い。
よって食事はどうしても遅くなりがちだ。
俺はソファに座って、ついているテレビの情報バラエティ番組を見ていた。
(なんか、いつも同じようなのをやっているなぁ)
そんな風に思いながら、見るともなしにボンヤリと見ている。
最近はガッツリ見るような番組より、BGM的に流しているような番組が多い気がする。
そういう番組の方が視聴率が良いのだろう。
背後にリビングへ誰か入って来る気配を感じた。
「お兄様、お先~」
言うまでもなく、義妹の雪華だ。
だいたい彼女が一番最初にお風呂に入る。
親が居る時は雪華の次に親が入るが、今日は遅いので俺が入る事になるが……
「俺はもう少し後でいいや」
そう答えた。
風呂は好きだが、なんかいま動く気にならない。
すると俺のすぐ隣にドスンという衝撃があった。
見ると雪華だ。
彼女はアイスキャンデーを手にしている……が、問題はそこではない。
なんと素肌の上にバスタオル一枚を巻いているだけの姿なのだ。
かろうじて大事な部分は隠れているが、それでも彼女の白く輝く白磁のような太腿に、思わず目が吸い寄せられる。
「あ~、なんか面白いテレビやってないね。チャンネル変えてもいい?」
雪華はそう言って身体を前に乗り出してリモコンを操作した。
彼女の白い背中が見える。
そしてその動きだけで、バスタオルから胸が弾け出しそうだ。
「雪華。いくら家だからって、その恰好は無いんじゃないか?」
俺は強引に彼女から視線を外しながら注意した。
「え~でもここは私とお兄様しかいないじゃない。問題ないと思うけど?」
雪華はあっけらかんとした口調でそう言った。
「いや、いくら兄妹でもその恰好はマズイって。おまえはもう15歳だろ。少しは女らしい恥じらいを持たなきゃ」
付け加えて言えば雪華は15歳でも、そこらの女性なんか問題にならない美貌とスタイルを持っている。
「恥じらいくらい持ってるよ! 雪華は学校では固くて有名なんだから。家の中なんだからいいじゃない」
「いくら家の中って言ってもだな、ここには俺だっている訳だし」
「いつもお兄様は『まだ中三』って言うくせに~」
雪華が俺にしなだれかかるように抱き着いて来た。
心地よい弾力が俺の腕に押し付けられる。
雪華の形の良いEカップのバストが、バスタオルから飛び出しそうだ。
「お、おい、雪華。おまえ、下着は付けてないんだろ」
俺が焦ってそう言うと、雪華は問題ないとばかりに答える。
「ちゃんとパンツは履いているよ」
「いや、パンツだけじゃなくって……その、ブラはしてないんだろ?」
それを聞いた途端、雪華の目が猫のように怪しく光った。
「なぁ~に、お兄様。もしかして雪華に興奮しちゃった?」
「お、おまっ、何を言って……」
「妹の可愛いスキンシップじゃな~い」
さらに雪華は俺に全身で抱き着いて来る。
今にもバスタオルが外れそうだ。
「ゆ、雪華、いくら何でも……俺たちは本当の兄妹じゃないんだから……」
「本当の兄妹じゃないからいいんじゃない? どんな事があっても……」
雪華が抱き着いたまま、俺の頬に軽いフレンチ・キスをする。
「ま、待てったら」
俺が雪華の顔を見ると、その目が怪しく光っている。
猫どころか獲物を狙う女豹だ。
「雪華は、お兄様さえその気ならいいんだよ。これ以上の事でも……」
彼女の囁くような声が、まるで催眠術のように脳に沁み込んで来る。
そして鼻孔をくすぐる風呂上りの美少女の匂い……
(マ、マズイ、これは本当にマズイ。なんとか雪華の攻勢を止めないと)
雪華がまるで圧し掛かるように、俺に抱き着いて来た。
その時、テーブルの上に置いてあったスマホが振動した。
俺も、そして雪華の動きも止まる。
「ほら、電話だ、電話! 出なくちゃ。ちょっと俺から離れろ」
そう言って俺は雪華を押しのけた。
「ん、もう!」
雪華の不機嫌そうな声を背後に、スマホを手にして「通話」にスライドさせた。
相手は母親からだ。
「ショウ? 今日は父さんも母さんも遅くなっちゃうのよ。だから晩御飯はピザでも取ってくれる? 母さんたちは外で食べるから」
俺はホッとしつつ答えた。
「わかった」
「それと……」
母親がまだ何か言いたそうだ。
「なに?」
「最近、雪華がやけにショウにくっついているみたいだけど、まだ一線を超えるんじゃありませんよ。雪華はまだ中三なんだから」
心臓がドキンとした。
冷や汗が流れて来る。
「わかってるよ、それじゃあ」
俺は自分の動揺を隠すため、素早く電話を切った。
ふと見ると雪華が恨めしそうにコッチを見ている。
(ところで「まだ」ってなんだよ、「まだ」って……)
俺は母親の言葉に疑問を感じつつ、出前のために電話番号を押した。
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この続きは、明日の正午過ぎに公開予定です。
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