第7話 ギャル美少女・長岡ルルの場合(その1)
火曜日の放課後。
長岡ルルはベランダからグラウンドを眺めていた。
彼女の視線の先には、この学校のスーパースターにして生徒会長でもある桜花院翔がいた。
彼は毎週火曜日の放課後は、陸上部の副部長としてグラウンドにいる事がおおい。
バスケ部・バレー部・陸上部・演劇部の副部長を兼任しているため、各部の練習には週に一回しか参加できないのだ。
(はぁ~、やっぱカッコイイな。ショウ君)
ルルがそう思っていると、同じギャル仲間のアンリがやって来た。
「あ、またルルッチ、黄昏てるでしょ」
ルルは不満そうな口調で答える。
「別に黄昏てなんかないし」
だがアンリが笑いながら右手を振った。
「いやいや、バレバレだって。火曜のこの時間、ルルがグラウンドにいる第一王子を眺めている事は!」
第一王子とは、この学校で最も人気のある四人の男子の中で、その中でもトップであるショウの事だ。
アンリの言った事は図星だ。
だからこそルルは何も答えない事にした。
ベランダの柵の上に両手を組み、その上に顎を乗せてショウを見つめていた。
その隣にアンリがやってきて、同じようなポーズを取った。
「ホント、カッコイイよね。ショウ君は。ああやってただ走っているだけで、映画の1シーンみたいだもん。あんなに絵になる男は、そうはいないよね」
「アンリもショウ君を狙ってんの?」
ルルがそう聞くと、アンリはニヤついた笑いを浮かべた。
「狙ってるっちゃあ狙ってるけど、アタシの場合はチャンスがあったら、って感じかな。具体的にどうやって落とそうとかは考えてないよ」
「やめてよ、ウチの方が先に目を付けてるんだから」
「そんなの先も後もないっしょ。それに狙っているって意味じゃあルルとアタシだけじゃなくて、学校中の女が狙っているとも言えるんじゃないの?」
「それもそうかもね~。中には『ショウ君なんて興味ない』って顔をしつつ本心は別、って女も多そうだもんね」
「ルックス良し、頭良し、スポーツ良し、家柄良し、とくりゃあ、狙わない訳にはいかないでしょ。女としては」
ルルは深く息を吐いた。
「でもウチらじゃ相手して貰えるか分からないよね。向こうは生徒会長だもん。ギャルは好みじゃなさそうだし」
「んじゃあギャルやめる? 髪も黒髪にして、清楚系にジョブチェンジとか?」
揶揄うように言うアンリに、ルルは自分の金髪をイジリながら答えた。
「今さらっしょ。それにウチはギャル好きだし。自分にも合ってると思うし」
アンリはクルリを身体を回転させて、背中から手すりに寄りかかった。
両手は手すりにかける。
「だよね~。だからさ、今日、合コンいかない? アタシと同中で男子校行ったヤツがさ、合コンしようってメッセが来たんだ」
「え~、ウチはいいよ」
「ルルはいっつも合コンを断るよね。見かけはギャルだけど実は固いんだよね」
アンリの言う通り、長岡ルルは見た目はギャルでかなり遊んでいるように見えるが、実は処女なのだ。
中学時代から何人かの男子と付き合った事はあるが、いずれもそういう関係になる前に彼女の方から別れている。
しかしその外見と一緒にいる仲間のため、口の悪い連中から「長岡ルルはヤリマン」という噂が立てられていた。
それは本人も知っていた。
「でもさぁ、ウチとか変な噂を立てられてるじゃん。それってショウ君の耳にも入っているよね?」
「たぶんそうだろうね」
ルルは腕に顔を埋めた。
「やだなぁ、ショウ君にそんな風に思われているの」
アンリがそんな彼女の肩を軽く二度ほど叩く。
「まぁ逆に言えば、それを武器に迫るって事もできるんじゃない? 男なんてヤレルと思ったら、そのチャンスは逃さないでしょ。それでルルが実は初めてだったって知ったら、ショウ君も感激して彼女にしてくれるんじゃない?」
そうして彼女は「じゃ、アタシは合コン行って来るわ」と言って教室に入っていった。
ルルは再びグラウンドのショウの姿を目で追う。
(そっか、逆にウチの方から誘って、それで初めてだって解ったら……ウチを彼女にしてくれるかもしれない。ショウ君は責任感が強いって聞くから)
そんな考えがルルの心の中に沸き起こっていた。
…………
その日は日曜日、俺は買い物に出かけていた。
特に深い意味はなかったが、ネットで昔の映画を見ていて古いMA-1のジャンバーが欲しくなったのだ。
渋谷駅から原宿の方に向かって歩けば、何軒ものヴィンテージショップがある。
俺はNHK側から散歩がてら歩いていた。
少し裏通りに入った所で小さな駐車場があり、そこで話し声が聞こえる。
「おい、大丈夫か? これ食べて元気出しなよ」
聞き覚えのある声だ。
俺は何気なく声がした駐車場を覗き込んでみた。
すると奥の方の角で、いかにもギャルって感じの女の子がしゃがみこんでいた。
(なにをしているんだろう?)
そう思っていたら「ミャア」という小さな鳴き声が聞こえて来た。
「猫がいるのか?」
思わずそう呟くと、それが聞こえたのかギャルが振り返った。
その顔には見覚えがある。
隣のクラスの長岡ルルさんだ。
「あ、ショウ君、じゃなくって桜花院君」
目を丸くして言い直した彼女に、俺は笑って言った。。
「別にショウでいいよ。みんなそう呼んでいるし。それより何をしてるんだ?」
俺が近づきながら尋ねると、彼女は赤い顔をして慌てたように答えた。
「じゃ、じゃあ、ショウ君……でも、どうして? あれ? いや、ウチ、別に何も悪い事なんてしてないよ」
「別に長岡さんが悪い事をしてるなんて言ってないけど……」
「え、あ、そ、そうだよね、アハハ、なんかパニックっちゃった」
彼女はそう言って誤魔化すように笑った。
俺が覗き込むと、そこにはダンボール箱に入った子猫が4匹いた。
だが三匹は既に箱の底で横になっている。
辛うじて身体を起こしているのはキジトラの一匹だけだ。
「捨て猫?」
俺が聞くと、彼女は悲しそうな顔をしてダンボールの猫を見つめた。
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この続きは、明日正午過ぎに公開予定です。
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