第五話:聖女様の立ちんぼ


 ここはユーベルトの繁華街。

 にぎやかな光の中、ちょっと裏通りに行けば女性たちが壁際に立ってタバコなどを吸っている。



「あの、リーリアここは?」


「ここは個人娼婦が客を取る場所です。本来娼館などに行かないと女を買えないのですが訳ありの女性たちは個人的にこう言う所で客を取って宿などに行くわけです。ですからここでエマリアル様の初めての相手を選定するつもりです。交渉は私に任せてください」


 かなり扇情的な服装にローブをかぶって街に出て、この場所についてからそのローブを脱ぎ去りリーリアに言われる通り壁際に立つ。

 これからバージンを捨て経験を積み、そして念願の自分好みの年下の旦那様を捕まえる為にエマリアルはやる気満々だった。


 

 と、すぐにエマリアルの容姿に引かれて男がやって来た。



「すげえ美人だな? いくらだ??」


「あなたはだめです。この方はバージンなんですから金貨百枚の価値がありますよ?」


「ひゃ、百枚だって!? 冗談じゃない、高級娼婦だってそこまで高くねえぞ!」


「ではお引き取りを」



 男は舌打ちをしながら残念そうにエマリアルを見ながら去って行った。



「あの、今の方が私の初めてはダメなのですか?」


「エマリアル様、せめて初めての時くらい条件のいい男にしないと」


 そう言いながらリーリヤは来る客来る客に条件をぶつける。

 おかげで商談成立はせずにだいぶ時間が経った。



「あのぉ~リーリヤ、もしかして私が年増なので皆さん見向いてもくれないのでしょうか?」


「いやいやいや、あんな安値ふざけすぎです。エマリアル様は私に任せてそこで堂々としていてください!」


 しかし美しく豊満な身体を持つエマリアルに引かれ男たちはどんどんとやって来る。

 最後には行列ができ、リーリアも交渉が忙しすぎるほど。

 交渉に失敗した男たちはそれでも物欲しそうにこちらを見ている。

 

 なんだかその様子にエマリアルは可愛そうな子犬を連想して声を掛ける。



「あの、あなたたち……」



 まあ話をするだけならいいかとリーリヤはエマリアルを放っておいたがしばらくすると清々しい顔の男たちが帰って行く。

 何が起きたのか振り向いてみると、男たちがエマリアルの説法に心打たれいやらしい顔はまるで賢者になったかのように清々しい表情へと変わって行く。



「なぁ、あの女性にお布施するのはここでいいんだよな?」


「まるで聖女、いや女神だ!」


「ああ、あのお方の話を聞いているだけでよこしまな考えを持っていた自分が恥ずかしい!」



 男たちは何時の間にこの裏路地に集まりひざまづき熱心にエマリアルの話を聞いている。

 何故かそこだけ空気がキラキラと輝いてさえ見える。



「あ、え~っとこれはぁ……」


「ふむ、どちらに出かけられたか心配になって探していたが、なるほど聖女様はすさんだ心の者たちを救済に来られていたか! 流石聖女様だ!!」


「ケ、ケルス!? 何時の間に!!」


「いや、この裏通りで心洗われる事が起こっていると聞いてな。不幸な娼婦たちも心洗われ帰っていくので何があったか見に来たのだよ」




 そうこうしているうちに更に人は集まって来てエマリアルの説法はますます人々を癒していくのであった。  


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る