第17話 占い

 店内は薄暗く、入った所には誰もいない。


「すみませーん」

「どうぞ、奥へ」


 黒いカーテンで仕切られた奥のスペースがから女性の声がして、どうやらすぐに占ってもらえそうだ。


 カーテンを潜ると更に暗くて薄っすらとランプの灯りだけ。蝋燭ではなく、魔法で光っているっぽいから、これイーサグラムかな?


「いらっしゃいませ。どちらの方を占いますか?」

「じゃあ、私で」

「こちらにどうぞ」


 ローブを着て深々とフードを被った、多分女性の占い師。彼女の前には大きな水晶が置かれていて、それ自体が少し光っているかの様に見える。おー、なんか異世界の占いっぽい!


「何を占いますか?」

「えーっと、そうだなあ。私たちもうすぐアカデミーに入学するんだけど、そこでの学生生活がどんな感じになるか占ってもらおうかしら?」

「承知しました。それでは、こちらの水晶に集中して……」


 水晶に吸い込まれそうな感覚に囚われつつ、ローブから伸びてきた白く美しい女性の手に一瞬心を奪われる。すると段々フワフワした気持ちになってきて、ちょっと意識が遠のいた様な……


「……」

「お客様、大丈夫ですか?」

「えっ!? あ、はい……」


 占い師の女性に話しかけられてハッとする。あれ? 私一体……何か女性に聞かされた様な気がする。レオの方を見ると二、三回頭を振っていて、どうやら彼も同じ様な状態の様子。えーっと、なんだっけ。今聞いたことは……あ、そうだ。学生生活は楽しいものになると言われたんだっけ。他にも色々と聞いた気がするが思い出せない。


「以上でございます。これは記念のお守りです。御学友の皆様にもぜひ」

「ありがとう。頂くわ」


 実際にはあんまり覚えてないけど。ここに長居するのはヤバい気がして、適当なことを言って切り上げることにした。


「またのお越しを」

「ええ。また、是非」


 代金を支払って外に出る。ふと店の入口にあった時計を見ると、一時間ぐらい経ってる!? 感覚的には十五分ぐらいかと思っていたのに!


「なんか、ヤバい雰囲気だったわね」

「そうか? 楽しい学生生活になるって言ってたし、いいんじゃないか? 占いだし、そんな真剣になる程のことでもないだろう?」

「それはそうだけど……」


 何か重要なことを聞かされた様な気がするんだけど思い出せない。いや、そもそもそんなことは聞かされてない? 考えようとすると頭の中がモヤモヤっとして不快な感じになるし、気にはなるけど考えないでおこう。


「あ、そうだ。お守り、あなたにも上げるわ」

「これ、なんか効果あんの?」

「さあ。気持ちの問題じゃないの? でもまあ折角もらったんだし」

「じゃあ、もらっとくか」


 お守りと言って渡されたのは赤い宝石のはまったイーサグラムのプレート。小さい革袋に入っているけど、熱を持ったり光ったりと言った目に見える効果はない。女性は『お守り』って言っていたから、イーサグラムの部分はでたらめなもので効果はないのかも知れない。でも、持っておかなければダメな気はする。うーん、思い出せない店内での事も相まって気持ち悪いけど、害はなさそうだから持っておくとしようか。革袋はもうちょっと綺麗なものに入れ替えて、アカデミーが始まったら皆に配ることにする。


 新たな味方は見つからなかったけど、久々の秘密の外出で気持ち的にはスッキリした。エマの記憶の中にあったイーサ関係の店も改めて確認できたし、折角こちらに私の記憶を持ってこれたんだから、入学後にイーサ研究をしてみよう。こっちでアカデミーを卒業したら、その分の単位を元の世界の大学に繰り越せたらいいんだけどなあ。


 自分の部屋にコソコソと戻って着替え。着替え終わって暫くすると、誰かがドアをノックする。


「どうぞ」

「失礼致します、姫様」

「ルシア様、ごきげんよう」


 合わない時は全く合わないのに、ここ最近良く訪ねてきてくれるな。前回はパーティーの直前だったかしら。


「姫様もアカデミーに入学されるとお聞きしましたので」

「ええ。私はまだまだ未熟ですので、色々と学んでから婚約しても遅くはないと思いまして。そう言えばお兄様とルシア様もアカデミーで出会われたんですよね?」

「はい。卒業してから少し時間は経ってしまいましたが、テレンス様との出会いは私にとってとても大切なもの。そのご縁もあって今もこうして王宮で働けているのですから」


 ルシア様ほどの才女だから、お兄様に出会わなくてもきっと役人になって出世していただろうとは思うけど、引きこもりの兄にはもったいないぐらいの女性だわ。


「いつもお兄様がご迷惑をかけてしまって……」

「いいえ。テレンス様はいずれこの国の王となられるお方。私は彼のお役に立てることが嬉しいのです」


 ええ人やなあ。こんないい女性に世話を焼いてもらってるのに引きこもりとは……いずれ私がお兄様に直接ピシャッと文句の一つも言ってやらねばって思うわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る