第15話 レオ

 三人の王子たちと話した後は全員とダンスを踊る。誰か一人と踊っていれば注目を集めたのだろうけど、三人の王子を取っ替え引っ替えしながら踊っている王女の姿は、それはそれで注目を集めていた様子。つつがなくパーティーは終えたものの、心配した様子の王に呼び出されてしまった。


「エマよ、婚約者候補は決めなかったのか?」

「はい、お父様。全員とお話はさせて頂きましたが、私に結婚はまだ早いと思いますのでどなたか一人を決めることは致しませんでした」


 そしてその代わりにアカデミーに入学したいことを告げると、王も王妃もちょっとホッとした表情。やはり親としては娘の結婚は遅ければ遅いほど良いのかも知れないわね。


 アカデミーが始まるのは九月なのであと二ヶ月ほどある。王子たちは一旦自国に戻って調整し、入学する人数が決まれば連絡を寄越すと言っていた。私の考えどおり、この世界がゲームとある程度同期しているとすれば、レジナルド王子以外は従者と一緒に入学してくるはず。レジナルド王子の母君であるアナスタシア妃がこちらに来るのかどうかは不明だけど、まあそれは運次第と言うことにしておこう。


 そして私も従者を一人入学させる必要がある。と、言ってもアカデミーに入ると決めた時点でその相手はもう決まっていた。パーティー用のドレスから普段着のドレスに着替えて一息吐いてから専属騎士の一人であるレオを部屋に呼び、人払い。


「姫様、お呼びでしょうか?」

「二人きりなんだからそんなに改まらなくてもいいわよ」

「そうか? お前が俺を呼び出すなんて珍しいな」


 レオ・アシュクロフト。彼はエマの幼馴染で、父親は現騎士団長だ。子供の頃は良く一緒に遊んでいて、王宮の庭を一緒に駆け回ったり剣術を習ったりしていた。少しだけ早く成人したレオは騎士団に入り、私の護衛として務めてくれている。最近のエマは王女としての立ち振舞を優先してお淑やかに振る舞うことが多いけれど、本当はお転婆であることを一番良く知っているのはレオかも知れない。


「今日も護衛、ご苦労さま」

「まあ、それが仕事だからな。これだけ多くの要人が集まることも珍しいから、騎士団も大忙しだったよ」

「フフフ、そうね。私も無事成人したことだし、これで大人の仲間入りってところかしら」

「どうだか。お前は根がお転婆だからな。いつ化けの皮が剥がれてもおかしくないぜ」


 そんなことを言い合いつつ笑える仲。うむ、なかなかいい! 本当の兄弟の様な感覚よね。おっと、本題、本題。


「それで、お願いがあるんだけど」

「お願い?」

「ええ。私は九月からアカデミーに入ることにしました。そして三国の王子たちも恐らく入学することになります。なので、レオにも一緒に入学して欲しいんです」

「俺が!? いや、そんなこと急に言われても、俺、アカデミーで学ぶことなんて何もないぜ!」

「ないことはないでしょう。色々学問を学べば良いじゃないですか」

「いやいや、俺が勉強嫌いなことは知ってるよな!? 勉強が好きなら騎士になんてなってないぜ」


 別に騎士が勉強好きでもいいとは思うんだけど、まあ確かに騎士には体育会系の、要はマッチョな男たちが多い。


「あなただってアシュクロフト伯爵家の御曹司なんですから、それなりの教育は受けてきたわけですし、問題ないわ。それに武術や剣術の授業はあなたにとっても役に立つと思うけど」

「まあ、そう言うのは興味あるけど、また急な話だなあ」


 だって急に決めたんですもの。扉を潜ってパーティーが始まるまでの二時間弱、必死で考えた策なんですからね。結局ゲームのパッケージ画像を思い出してアカデミーに入ることにしたんだけど。


「入学はしてもらうけど主な目的は私の護衛よ。それと、もう一つお願いしたいことがあるんだけど」

「まだあるのかよ……」

「これは急ぎではないけど、あなたの知り合いに他国の人間を調査してくれる人とかいないかしら?」

「他国の人間の調査? スパイ活動ってことか?」

「うーん、スパイってほどではないけど、探偵みたいな?」

「俺の知り合いにはいないけど、親父なら知ってると思う」

「そう。ではおじ様に聞いておいてもらえるかしら? 相手は周辺三国にそれぞれ一人ずついるの」

「おう。じゃあ、俺はもう戻るぜ。あ、入学の話は両親にも聞いてみるけど、ダメと言われたらナシだからな」

「フフフ、おじ様がそんなことおっしゃるわけないじゃない」


 昔からエマのことを可愛がってくれたアシュクロフト伯爵。私の護衛目的での入学なら、あっさり了承してくれるのは計算済みよ。


 少し不満そうな面持ちで部屋を出ていくレオと、それと入れ違いに入ってくるメイドのバーバラ。


「姫様がレオ様とお話されるのは久しぶりですね」

「そうね、レオも最近は仕事が忙しいみたいだったから。私たちアカデミーに入ることになったから、バーバラも準備、手伝ってね」

「かしこまりました」


 さあ、取り敢えずこれで婚約は先延ばしにして且つ時間も稼ぐことができた。アカデミーに入ってから何が起こるのかはまったく予想できないけれど、今まで三枚の扉の中で経験してきたことを考慮すれば何が起こってもおかしくない。入学までにできることは全部やっておかないと。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る