第11話 ラッシュブルック王国

 三枚目の扉の先でエマが手を取ったのはラッシュブルック王国のユージーン第二王子。すらっと背の高い黒髪のイケメンで、どんな物語でも主人公としてやっていけそうなキャラ。外見から想像できる通りちょっとキザでナルシスト気味なんだけど、そのブルーの瞳に見つめられたらその辺の女性ならイチコロだろう。恋愛経験皆無のエマも例外ではなかった。


「私を選んで頂き光栄です、姫様。今宵のあなたは誰よりも美しい」

「まあ、お上手ね」


と、言いつつ、片膝を付いて自分の手の甲にキスをしているユージーン王子にドキドキして落ちかけていたエマ。その後のダンスでのリードも完璧で、ダンスが終わる頃には彼に夢中になる自分を押さえるのに必死だった。そんな彼女の気持ちを分かっているかの様にユージーン王子はダンスの後もエマと二人の時間を巧みに演出し、出会ってから数時間後であるにも拘わらず人目のないバルコニーでキスを交わしていた。ゲーム内でのユージーン王子もとても積極的で、エマが攻略していると言うより『攻略されている』感じなのよね。


 エマがそんな状態だったので、ユージーン王子が数日間イグレシアスに滞在した後自国に戻る際、彼の誘いに応える形でエマもラッシュブルックに同行することに。王子と同じ馬車に乗り込むと、中では王子の真面目な一面も垣間見ることができた。


「俺は第二王子だが兄のことはとても尊敬している。兄が国王になった暁には彼を支えて国のために働きたいと思っているんだ」

「それはとても大事なことですわね。具体的には何かお考えが?」

「そうだな、ラッシュブルックは海外との交易も盛んだし、他の三国との関係もある。できれば今後は外交のことを学んでみたい」


 真剣な表情で語るユージーン王子にはいつものキザでナルシストな雰囲気はなく、そんな一面もあるのだとエマは更に彼に惹かれていくのを感じていた。自分も彼の役に立てれば……そんなことを考えていた。


 ラッシュブルック王都は他のストーリーの時の様に大歓迎ムードと言うわけではなかったけど、王宮では温かく迎えられたエマ。王と王子とは道中ずっと一緒だったので謁見はパスして、王妃や国の役人たちに一通り挨拶を済ませる。その後王子に紹介されたのはエマと歳の近い女性で、この女性こそゲームのパッケージに姿があった最後の一人、カーラ・グッドールだった。彼女はラッシュブルックの宰相の娘らしくエマや王子より二つ年上。王子の姉の様な存在で家族同然だと紹介された。


 翌日からは王都の街並みや港などを視察し、自国であるイグレシアスとの違いに驚くエマ。女性の扱いに慣れた雰囲気のユージーン王子のエスコートもあって、エマはもう骨抜きにされていた。


 数日間の訪問を終えイグレシアスに戻った後もユージーン王子は頻繁にイグレシアスまで足を運んでくれ二人はどんどん親密になり、ユージーン王子から婚約を申し込まれてエマが速攻でオーケーするまで、あまり時間は掛からなかった。そして婚約の報告をするために二人で再びラッシュブルックへ。


 ラッシュブルック王も王妃も二人の婚約を歓迎してくれたが、ただ一人、あまり歓迎していない様子の人物が……そう、カーラ・グッドールだ。他国の王女相手なので露骨に嫌そうな顔をしたり文句を言ったりはしなかったが、王子にメロメロのエマでなければ直ぐに彼女の嫌悪感にも似た感情に気がついたに違いない。そしてそれは殺意と変わり、一番近々に体験したあのシーンへと繋がるのよ。


「王配になど、させはしないわ!」

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