第8話 回想1

「うーむ」


 白い空間の四枚目の扉の前。かりんの姿で胡座をかき、一つ目の扉の向こうで起こったことを思い出す。案内人はニコニコしながらこちらの様子を伺っていた。


「なんでエマは殺されてしまったんだろう。しかも王妃に……あなた、理由を知ってるんじゃないの?」

「もちろん知っているさ」

「ホント!? じゃあ教えて!」

「それは条件だったヒントってことでいいかな?」

「うっ……」


 そうだった。『ヒントを一つ』って言ったんだった。どうせなら三つぐらいにしておけば良かったなあ。いや、しかし、ここでヘルプのカードを使ってしまうのは時期尚早。


「うーん、じゃああの後……エマが殺された後に世界がどうなったか教えて」

「まあ、それはヒントではないから良しとしようか。あの後……」


 案内人の話ではインファンテでエマが暗殺されたことで、イグレシアスとインファンテの間で戦争になり、他の二国も巻き込んで戦乱の世になったらしい。そして二枚目の扉の先でも三枚目の扉の先でも、エマが殺された後は同じ様にカオスな状態になったとか。つまり、どの世界線でもバッドエンドの先は戦乱の世に収束しているみたいね。ゲームではどの王子とも婚約が成立すればハッピーエンドだったんだけどなあ。


「それにしても、なんで四国入り乱れての戦争に? イグレシアスとインファンテの二国間ならまだ分かるんだけど」

「この世界はそれだけ不安定ということだよ。何かのきっかけで簡単に均衡が崩れてしまう。かりん君をこの世界に召喚したのも、そんな結末を打破してもらうためだったんだけどね」

「そりゃどうも、お役に立てずにすみませんでしたね」


 いや、どの扉の先でも王子と恋仲になるまではすんなり事が運んだんだから、ちゃんとやるべきことはやったはず。大体ゲームはそこまでで終わってるんだし、その後に殺されるなんて今回始めて知ったんだからね! レジナルド王子との仲だってアナスタシア王妃は知っていただろうし、エマと彼女の関係も悪くなかったんだから。養○酒だって渡してたし、少しずつ健康になってるってレジナルド王子も言ってた。


 そうなるとますます殺された理由が不明よね。もう世界線がそうなる強制力を持ってるんじゃないの? とすら思えてくる。しかしそれが本当ならわざわざ私を召喚したりはしないか。穿った見方をすれば、きっと何かしらの正解があるんだわ。


 殺された理由は分からないままだけど、こうやって回想して良かったこともある。プロポーズされた後レジナルド王子に抱きしめられるシーンはあのシナリオで一番の推しシーンなんだけど、実際抱きしめられるとあんな感じなんんだ。若干マザコンなところはあるけれど明るい筋肉キャラ。抱きしめられると守られてる感が半端なかったなあ。かと言ってキスも強引な感じでなくていい! エマの記憶を共有しているからか、あの恋愛している時間は今思い返してもドキドキしてしまう。ゲームでは絶対体験できないことだわ。


「ムフフッ」

「思い出し笑いをしている場合ではないよ。そろそろ扉を開ける気になったかい?」

「おっと、失礼。扉を開けるのはもうちょっと待って。まだ他の二枚の扉について反省してないんだから」

「……」


 どうやら案内人は早い所私を送り出したいみたいだけど、そうはいかないわ。でもまあ、あまり待たせても悪いから、急いで次の扉の中のことを整理しましょうか。

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