世界一の女子サッカー選手になれ――えっ球技? いやいやサッカーといえば……スーパーとかで買い物袋に商品を詰め込む人のコトに決まってるでしょうがァァァ!
第28話 完全決着――会場の中心で、《サッカーの女王》が叫ぶのは――!
第28話 完全決着――会場の中心で、《サッカーの女王》が叫ぶのは――!
それぞれ二つずつのレジ袋を抱え、繰り広げられた、デッドヒートは。
提出台の目前に、先に到達したのは――
「はっ、はあっ……ぜえっ、ぜえっ……――っ!」
後ろには、いまだに、悲鳴交じりの怒号が響くが。
『お、おいどんの最後の一押しを……グ、グワアアアでごわーっす!』
『せ、せめて最後に卵をッ……ファラオギャーーー!』
『―――地獄車ァァァァ!』
今、晃一が投げ技で《鉄壁の守護者》を弾の如く飛ばし、《激情の大門》にぶつけることで二人まとめて打ち倒す(助っ人を)。
もはや、後は提出台に置くだけ――この最終局面で、観客たちの興奮も異様な昂りを見せていた。
『いけっ……いけっ! ダークホースだった美少女・女子高生~~~っ!』
『頼む……どうか《魔王》を倒して、世界に……光を取り戻してくれ……!』
『神様……お願いっ……サッカーの神様(
「ぜえ……ふっ―――ッ!」
提出台の上に乗せるべく、レジ袋を持つ両手を思い切り振り上げた奈子が――!
「ッ………よいしょ、っと………」
……途中で勢いを弱め、ゆっくりと……中の商品が壊れないよう、ぽすっ、と二つのレジ袋を丁寧に置く。
即ち。
審判が、思い切り振り上げた手を、鋭き手刀の如く振り下ろし――
『栄海奈子選手―――ゴォォォォォォォォォォッル!!』
――――決着の、瞬間である――――
対戦相手たる《魔王》一味も、もはや提出台の目前にまで迫っていた、が。
『!? ば、バカなっ……こここの我が、《魔王》が敗北っ、はっ、敗北する、とわっ……あ、わ……あわわわわわ』
『!? おいバカ急に震えだすな……っつか振動してんじゃねーよ《魔王》!』
『ちょまっ……ば、バランスが、崩れて……う、うわわわわ』
二つのレジ袋を三人で並んで持っていたこともあり、《魔王》の調子が著しく崩れると、それが原因となり。
体勢が崩れ、足がもつれ、ツルッと三人そろってスッ転び――二つのレジ袋が宙を舞うと。
『ば、ばっ……バカなぁぁぁぁ!? ……あっ、うげーーーっ!?』
『あ、ああーっ二つのレジ袋が《魔王》の顔面と鳩尾に直撃した――!?』
『大丈夫か《魔王》――っ!? しっかりしろぉぉぉぉ!!』
『《魔王》とその他二名、レジ袋の破壊と場外のため失格! ……他に言うこと? 無い。乱入した挙句に自滅する無様にくれてやる言葉など、何もな』
公正なる審判の容赦ないジャッジにより、完全敗北が決まった《魔王》。
あえて述べておこう。奈子の対戦相手、結局全員、自滅したと。
……いや、これがサッカー(袋詰めする方)という神聖なる競技であることを踏まえれば、あるいはレジ袋という〝聖剣〟が《魔王》にトドメを刺した、と言えるだろう。
間違いない。
逆説的に、恐るべき逆境にもめげず、仲間たちや助っ人たちの協力も得て、提出台にきちんとレジ袋という〝聖剣〟を納めた奈子は、《魔王》を打ち滅ぼせし〝勇者〟と呼んだとて、過言ではないだろう。
間違いない。
そんな完全勝者たる奈子が、レジ袋を提出した勢いそのままに、提出台へと前のめりにもたれかかるようにして、身を預けつつ。
「ぜ、ぜえっ……はっ……ケホッ。ぜっ……ぜえっ……」
激戦の影響か、息切れが収まらぬ中――実況が、涙ながらの
『な、なんということでしょうっ……なんという激戦、なんという素晴らしきドラマでケホッしょうかっ……! 今大会、最後の最後に、クライマックスを超えたゲホゲホ展開が訪れようとはっ……ワタシ実況のジュン、不覚にもっ、不覚にも涙が止まらず上手く叫べませんゲッホゲホ……か、解説の
『何か言い残したければ、今の内じゃないですかねぇ』
『ま、まだです、ワタシは最後までやれるっ……! ゲホゲホッ』
感動が極まっているためか、咳き込むのを止められない実況。
代わりとばかりに、大声を上げて盛り上げるのは、この誇り高きサッカー大会(袋詰めする方)を最後まで見届けた、観客たち。
『ブラボー……ブラァボーッ……最高だ、最高の試合……最高の袋詰めだったぜ……!』
『最高と言えば、この最終決戦前の決勝戦で使用された冷凍食品に、シェフが手を加えて提供したメニューも最高だったぜ。冷凍食品と侮るなかれ、ちょっとしたひと手間を加えるだけで味はいくらでも生まれ変わる。たとえば冷凍餃子に胡麻油を加えて調理するだけでも風味が一変するんだ。是非とも皆様にもお試し頂きたいんだぜ』
『けれどそれは、もちろん元々の食品が美味しいという確かな下地、そしてより良い商品を提供しようという企業努力があるからこそ成り立つことなんだぜ。常の生活では忘れがちだけど、当たり前のようでいて当たり前ではない、それを忘れては……あっ。……そう、こういうサッカー大会(袋詰めする方)ってのは、それを思い出させてくれる、とても有意義なスポーツなんだぜ!』
「ぜえ、ぜえ……は、はあっ……っ、ケホッ。……」
何か言いたそうな奈子だが、持久走を終えた直後の如く、まだ息は整わず――その間に、彼女を救った仲間や助っ人たちの動向が。
『ほっほ、さすが奈子ちゃん、成し遂げたのう♪
『いや終わったんならもうアイダダダダ!! すっスイマセンっしたァァァ! もう生意気ブッこきません、変な口調も改めますからギャアアア!!』
頑なに関節を
更に《
「奈子! おめでとう、さすがね……さすが、アタシの最強のライバルにして……さ、さっ……最高の、親友ねっ!」
「奈子お姉様、お疲れ様ァ~ん♡ あら? 奈子お姉様~?」
「ぜえ、ぜえ。……………」
氷雨とイロカに
更に、奈子のコーチたる晃一が、教え子に語り掛ける。
「フッ……奈子、どうだ。言った通りだったろう? キミなら、やれると――未来の《サッカーの女王》にさえ、なれるのだと。……どうだ、見たか?」
「………………」
「〝新しい世界〟を―――その感想は、どうだ? 奈子――奈子?」
「………………………………」
晃一の問いには答えず、すっ、と奈子が会場の中央に立つ……と、観客たちが。
『オオッオー♪ オオッ……んっ!?』
『ちょーっと待って! 栄海奈子選手が何か言おうとしてる!』
『ちょっと男子~! 静かにしなさいよ~! 奈子ちゃんが今、なんか喋ろうとしてるでしょ~!?』
『大会の覇者は、何を言おうとしているのでしょうか……』
『Hey奈子! ガンバレー! ガンバッテ喋るンだヨ奈子~♪』
『ドキドキ』『ワクワク』
「……………………………………」
内気で気弱ならば、思わず〝待って何か言おうとしてる!〟とか〝静かにしなさいよ~!〟とか、本当にやめろ、と思うかもしれない、そんな空気で。
けれど、今や大会を制した
最後の隠しボスのようですらあった《魔王》を含め――打ち倒されている《鉄壁の守護者》や《激情の大門》、《卑劣なる蛇助》など(助っ人たち)。
まさに死屍累々の、戦場の跡地を見回して。
「…………………………………………」
強敵たち、ライバルたち、延いては戦友たち――仲間と出会い。
コーチたる木郷晃一に導かれ、足を踏み入れた、サッカーの世界(袋詰めする方の)。
即ち〝新たなる世界〟に飛び込んで、今、頂点に立ち。
万感を
「――――ば~~~~~~~~~~~かっ!!!」
『! さ、さっ、栄海奈子選手のっ……勝利の雄叫びだァァァァァ! 今、産声を上げました! 新たなる王者がっ、未来の……いえ! もはや現在進行形の《サッカーの女王》が、爆誕しました~~~!! ワタシ実況のジュン、興奮が、興奮が限界突破して……ウッ、ぐ……グワアァァァァ!』
『ちょうど実況の喉も終わりましたねぇ』
ダウンする実況、淡々と告げる解説。
会場内の観客たちも、この新たなる女王の誕生に、ボルテージ上がりっぱなしである。
『栄海奈子選手! 優勝おめでとう、栄海奈子選手~~~!』
『
『オオッオー♪ オオッオー♪ ニッポ……ンンッ! オーオオオー♪』
『感動を……感動を、ありがとう!』『アリガトォォォーーーッ!!』
『果たして、これは戦いの終わりだろうか。否、これは始まり――新たなる伝説の幕が開き、初めの一歩を踏み出したに過ぎないのだ。サッカー(袋詰めする方)の道は長く、そして険しい。終わりなき旅路の果て、それはさながら人生の如く、あるいは覇王の道行きの如く。戦え、栄海奈子選手! 進め、挑め、栄海奈子選手―――!』
「うるせーーーーーーーっ!!」
いまだ勝利の昂ぶりが収まらないのだろう、内気で気弱ながら更なる大声を響かせる奈子に――コーチたる晃一も、拍手しつつ労いに近寄る。
「フッ……見事な勝利の咆哮だ、奈子! キミの高揚と歓喜が伝わってくるようだぞ! おめでとう奈子、ハッピーバースデー《サッカーの女王》! 俺はコーチ、サッカー選手(袋詰めする方)としてのキミの道を、心の底から応援する者で―――」
「オラァーーーーーッ!!」
「ぐわぁーーーーーっ!? なぜだ奈子、なぜなんだ奈子―――ッ!!?」
寄ってきた晃一の横っ面に、とうとう平手打ちをかます奈子、飛ぶサングラス――とはいえグーでいかなかった辺り、まだギリギリ冷静だったかもしれない。惜しい。
とにかく、こうして、大熱狂と興奮の
優勝者にして、《魔王》すら打ち破った、彼女の名と共に。
《サッカーの女王》栄海奈子の名と共に―――伝説に刻まれることとなるだろう。
間違いない。
―――――――――――――――――――――――
▼ちょっぴりあとがき♡
もう地の文も敵。
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