第6話 激戦の決着……《鉄壁の守護者》、その脅威の防御力……(第一試合後編)

 《ピラミッド》――そう名付けられた技により完成せしレジ袋を、アラオはもはや勝利を確信しているのか、悠々とした足取りで自陣側の提出台まで持っていく。


 ファラオ(卵1パック)を守るべく積み上げられた商品のためか、見るからに重量感のあるレジ袋を掲げ――ニヤリ、笑みを深めたアラオが叫び。



「これで―――フィニッシュファラオ―――!!」



 勢いよく、提出台の上にレジ袋を叩き付けると――!



 ――――パキンッ、と卵の割れる音が会場内に響いた。



「バッ――――バカなでファラオーーーーッ!!!」


 アラオの悲鳴が断末魔の如く響くと共に、審判がレジ袋を観測すべく中身を凝視し――勢いよく握り拳を振り上げた。



『ファラオ(卵1パック)、死亡確認ッ―――印藤いんどう荒生あらお、失格ーーーーッ!!』


「ぐわあああああああああ!!! でファラオ」


 アラオがもんどり打って倒れると、実況と解説が今の事態について言及する。


『今のプレーは……卵を底に入れていたがゆえに、下からの衝撃には弱く……だからこそ置く際の〝衝撃インパクト〟に耐え切れなかった、名付けるなら〝深き衝撃ディープ・インパクト〟が敗因、というところでしょうか、解説の澤北さん?』


『大体そんな感じでしょうね』


『なるほど、ありがとうございます』


 実況と解説がというか実況が言及し、まあとにかく。

 こうしてアラオは敗退しました。


 ……さて、それはそうと、奈子はどうなったのか。


 今までアラオの戦いぶりに注目していた会場中の人間が、美少女女子高生(そこが最大の注目ポイントらしい)の姿を探すも――サッカー台の前には影も形もなく。


 もしや緊張に耐えかねて、逃げ出したのか――いいや、違う。


 既に奈子は、自陣側の提出台の傍らに立っていた――それも。



 ――――!?



 この事態に実況が、ゴクリと生唾を飲み込みながら解説に問いかける。


『こ、これは一体、どうしたことでしょうっ……か、解説の澤北さん!?』


『すみません。見てませんでした』


『なるほど』


 さて、何やら居心地の悪すぎる注目が集まる中――奈子が恐る恐る口にしたのは。


「……えっ? いえあの、そっちの鉄壁のなんとかさんとかがワチャワチャしてる間に、普通に商品をレジ袋に詰め込んで、普通に提出台の上に置きましたけど……」


『……………………』


 奈子の答えに、水を打ったような静寂――そして、実況が叫ぶのは。


『―――――栄海奈子選手の勝利イィィィィィエィ!』


「こんなんでいいんですか!? え、待っ……えっ本当にこんなんで!? 私の勝ちってことになっちゃったんですか!?」


『なんという、なんという展開! まさかの大番狂わせだァァァァ! こんな……あっ。そう、ジャイアントキリングが起こりましたァァァァァ!!』


『今日は熱い一日になりそうですねぇ』


「いいんですね!? ああもぉっ、意味分からないです~~~!」


 勝った奈子の方が、何やら困惑する――いや、彼女は未来の《サッカーの女王》。この程度の勝ち方では納得できないという、上昇志向の表れだろう。


 そんな奈子に、彼女のコーチたる晃一が、フッ、と笑みを深めながら言った。


「フッ……だから言ったろう? 普通に、好きにやってこい、と――奈子、キミならそれで充分、勝てると信じていたからな――!」


「やかましいですよ!? そもそも相手が勝手に自滅しただけだと思うんですけど!? ていうか誰も私を見てなかったみたいですし、何の達成感もない――」


「? そんなコトはない。俺はキミしか見えなかった」


「あっう。だ、ぅ……う、ううう~……!」


 特に深い意味はないのだろう、晃一のそのままの発言に、けれど奈子は出足払いを喰らった気分になり――そして。



「ああ、もおおっ……勝手にしてくださ~~~い!!」


「おお、そうか、では頑張って《サッカーの女王》になろうな」


「うるせー!」



 さ、最後の一言は、勢いだから……奈子は気弱で大人しいんだから、いつもはこんなんじゃないから!


 兎にも角にも、こうして。



 ――栄海奈子、第一回戦突破、と相成ったのである――


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