第29話 天邪鬼 vs コメンテーター②

「……ではここで一旦議題を変えましょう。御三方、何か主張したいことはありますか? 最初に食べ終わったのは……なまはげさん?」

「ええ。やはり環境問題について、ここで一度腰を据えて議論すべきですね」

「なるほど環境問題」

「地球温暖化、人口問題、食糧問題……私たちの未来に危機が迫っています。危機は明白なのであります。私のオンラインサロンに入会すれば、月額5万円で、これらの問題について闊達な意見を聞くことができます。普段表に出てこない本物の専門家が、今までにない鋭い視点から議論を交わし……」

『いるよな、議論したがりの奴』

「……あ?」


「おっとユッケを食べ終わりました。こちらも早い。花子さんどうぞ」

『とにかく語りたがりで一切行動しようとしない奴な。議論することが目的になってる奴。SNSでベラベラ創作論は語るくせに、いつまで経っても現物は出来上がらない奴』

「何だテメェ。喧嘩売ってんのか?」

『今更気づいたかマヌケ。ぼったくってんじゃねぇぞハゲが』

「んだとォ!? これは地毛だ!」

『あっあっ、おふたりとも、どうか穏やかに……!』


「さぁこいしさんも参戦だ! 今ようやくユッケを食べ終わりました。少々生臭さに苦戦しているようです」

『わ、私は他人の意見を聞くことも大変意義のあることだと思いますよ。誰かに感化されることも、決して悪いことばかりじゃありません。大好きなアーティストが昔そう言ってました』

「ほう」

『そ、その人が言うには、「意見を曲げないことが強いんじゃない」と。自分の否を素直に認めることは、何だか議論に負けたような気がするけど、本当はそっちの方がよっぽど度量が要るんだ……と。いつか見た有名な本に書いてあったそうです』

「それはそれは、有名な本に」

『ええ。本の著者は、かつての哲学者が”「変化」以外に永久なものはない”と言っていたと言っていました』

「つまり、哲学者が名言を言っていたと著者が言っていたとアーティストが言っていたと貴女は言っているワケですね」

『はいっ。それで、その哲学者が影響を受けたのが……』

『ややこしいわ!!』


『伝言ゲームが過ぎて何が何だか良く分かんねぇよ! 一次情報元ネタ何処なんだよ!? 大体それってお前の意見じゃなくて、誰かの受け入りを単にコピペしてるだけじゃねぇか!』

『うぅ……! すっすみません……!』

「ケッ。そういうテメェはどうなんだ? さっきから偉そうに人に説教してるが、テメェの貴重なご意見って奴も聞かせてもらおうか」

『簡単な話だろ。とにかく全員死刑にすれば良いんだ!』


「というと?」

『分かるだろ? 世の中にゃ、このハゲみたいに、どうしようもない悪党ってのはいるんだよ。とにかく悪い奴が悪い。私は悪くない。政治家が悪い、宗教が悪い、教育が悪い、親が悪い、時代が悪い、環境が悪い……』

「テメェはいつだって結論ありきなんだよ」

『は??』

「箸が転がったって『あいつらが悪い』じゃねぇか。正義ヅラだけしやがって、文句しか言えねぇのか。テメェこそもっと議論しろ。もっと他人から学んで、少しは建設的な意見を出したらどうだ?」

『オゥオゥオゥ……さすが本物のヅラ被ってる奴ぁ、言うことも違うねぇ!』

「これは地毛だっつってんだろ! 俺はまだ若いんだ!」

『ふたりとも落ち着いて……きゃあっ!?』

「ユッケが! ユッケが空を飛んでおります!」


※※※


「何だコイツら!? カンペが読めねえのか!?」

「視聴者から苦情の電話が殺到しています!」

「電話線切っとけ! クソが! 俺の番組でなんてことしてくれてんだよ。もういい、放送事故になる前に、コイツら食中毒で殺せ。命よりも数字の方が大切だからな。ユッケに毒を仕込むんだ」

「それが……」

「何だ、どうした!?」


「さっき彼らが食べていたのが……すでに毒入りなんです」

「何だと? そんな訳あるか!」

「彼らは本当に人間なのでしょうか……?」

「馬鹿いうな。もういい、分かった。CMいけ。俺が殺る」

「天野さん!」


「オイお前らコラ! で何やってんだッ!」

「あ?」


『あ……』

『ヤバイ』

「司会者がキレた」


 ……ただいま映像が乱れておりますので、しばらくお待ちください……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る