#23 初めての任務 その⑩

男は不敵な笑みを浮かべると急に葵達の方へと走って来た。


神原 朱珠

『なあ、どないするん?』


綾女 葵

『皆、球体は持った?

取り敢えず、2人体制で散らばってヨツバちゃんからの連絡が来るまで時間を稼ぐわよ!』


そう言うと葵は朱珠の手を引き男の右方向へ向かって走り始め、如月警部も葵達の後ろに続いき、黄泉は紫月の手を引き来た道を引き返し、白華は橙羽の手を引き男の左側へと走り始めた。


紫月が振り返ると、男は葵達の方へと方向を変え走って行った。


朝顔 紫月

『リーダー!』


その声を聞き立ち止まる黄泉。


百合 黄泉

『人通りの少ないリーダー達の方向へ行くとは思わなかったわ。

でもその方が都合が良いわね。』


朝顔 紫月

『そうだね。』


2人は刀と拳銃を握り締め葵達の方へと走り始めた。

一方、白華と橙羽も同じく刀と拳銃を握り締め葵の向かった方向へと向かっているのであった。


日廻 橙羽

『リンドウちゃん、同じ所に行くなら最初から皆こっちに走ったら良かったんじゃないの?』


林藤 白華

『少し姑息ではあるけど、攻撃の許可が降りた時に、追われているメンバーが囮になって、残りのメンバーがその隙に遠方から攻撃出来る様にだと思うよ。』


日廻 橙羽

『えっ! 遠方から? って事は・・・。』


林藤 白華

『頼りにしてるよ。』


橙羽に向かって優しく微笑む白華と、青褪める橙羽。


葵達の姿を発見した白華と橙羽は、少し遠い位置にある茂みに身を隠し、その直ぐ後ろを着いて来た紫月と黄泉も同じく茂みに身を潜め男を観察していた。


葵達の周辺は黒い霧に包まれており、男に対して攻撃をし始めている様子であった。

だが当たり前ながら、朱珠は拳銃を右手に握り締めているものの、使った事の無い拳銃の取り扱いに苦戦している様だ。

そんな中、白華のスマホにヨツバから着信が入った。


林藤 白華

『もしもし、許可は貰えた?』


四葉 緑莉(電話)

『たった今、貰えたよ。今、どんな感じ?』


林藤 白華

『少し深刻かな。

ターゲットなら目の前に居るんだけど、ユリちゃんやヒマワリちゃんが一発でターゲットを消滅させられる程の距離では無いから・・・。』


四葉 緑莉(電話)

『blancは、その辺りのサポートが劣っているもんね。』


林藤 白華

『如月警部もリーダーやバラちゃんの方に居て、ターゲットはリーダー達の方へ向かって行ってしまったからね。

少し想定外だったなって・・・。』


四葉 緑莉(電話)

『リーダーやバラちゃんの方へ行っちゃったの? 大丈夫かしら?』


林藤 白華

『大丈夫。きっと何とかする。』


四葉 緑莉(電話)

『健闘を祈ってるね。』


林藤 白華

『うん。また後でね。』


白華は電話を切ると、拳銃を所有している中で1番経歴の長い黄泉にターゲットを狙ってほしい旨を伝える事にした。


林藤 白華

『ユリちゃん、相談したい事があるんだけど・・・。』


百合 黄泉

『良いわよ。』


黄泉は白華が話し終わるより先に拳銃をターゲットの方向へ向け狙いを定め始めた。

その姿を眺め、申し訳無さそうな表情を浮かべる白華。


林藤 白華

『・・・有難う。』


そうこうしていると、少し離れた位置に居る葵が白華達の方に気が付き、葵に向かって親指を立ててOKサインを送る白華。

葵は静かに頷くと再び男の方へと目をやった。

だがその一瞬の不可解な動きを男は見逃していなかった。


男は葵の目線を追い白華達の存在に気が付くと、入社したばかりで1番瞬時な動きに対応が出来ていないのが朱珠だと見抜き、急足で朱珠に近寄ると朱珠の左腕を引き、朱珠が男の盾になる様に朱珠を人質に取ったのであった。


神原 朱珠

『嘘やろ!怖いねんけど!』


『煩い!黙れ!』


大粒の涙を流す朱珠と勝利を確信したかの様な笑みを浮かべる男。

男は葵や白華の方を見渡しながら、挑発をしたり暴言を吐き捨てている。

 

だがそんな最悪の状況の中、意図的になのか、咄嗟に離してしまっただけなのかは分からないが、朱珠は男に左腕を引かれた瞬間、右手に握り締めていた拳銃を手放していたのであった。


如月警部

『僕が着いていながら・・・。』


綾女 葵

『リーダーとして失格ね。

でもリーダーがちゃんとしていない分、うちのメンバーは優秀だったみたい。』


男が勝利を確信している中、黄泉は体を地面に伏せて男に狙いを定めていた。

黄泉の姿が無い事に気が付き辺りを見渡す男。


『目付きの悪い女は、どこへ行った?』


男は焦りながら辺りを見渡し、葵に対して足元に落ちている拳銃を男の所まで持ってくる様に促した。


綾女 葵

『それは出来ないわ。』

 

『この女が、どうなっても良いのか?』


男は朱珠の首の辺りに当てた腕を、先程よりも少し強く自分の方へと引き寄せた。

呼吸が苦しくなり顔を歪める朱珠。


綾女 葵

『分かったわ。

但し条件を聞いてもらえるかしら?

その手渡した銃口を彼女に突きつけるというのなら、彼女を危険な目に合わせてしまったリーダーの責任として、私から始末してもらえるかしら?』


如月警部

『綾女ちゃん!』


綾女 葵

『大丈夫よ。如月警部。

これもリーダーとしての責任なのだから、これで私が消えてしまったとしても仕方が無いわ。』


そう言うと葵は男の元へ行き、男に拳銃を手渡した。

男は拳銃を手に取ると葵に向かって銃口を向け『じゃあ、望み通りにしてやるよ。』と不敵な笑みを浮かべるのであった。

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