#16 初めての任務 その③

一方、紫月と黄泉と橙羽は、

小さい子の啜り泣く声が聞こえるという、

駅の近くにある交差点で見張りを立てていた。


百合 黄泉

『全くね。』

 

朝顔 紫月

『今日も現れてくれないかもね。』


百合 黄泉

『私達とは、波長が合わないんじゃない?』


朝顔 紫月

『そうかもね。』


紫月と黄泉が話している隣で、

暗い表情を浮かべる橙羽。


そんな橙羽の顔を覗き込み、

『ヒマワリちゃん、元気?』

と優しく話しかける紫月。


日廻 橙羽

『元気だよ。

でも、お腹空いちゃって・・・。』


百合 黄泉

『どうりで大人しいわけね。

お昼、食べて来なかったの?』


日廻 橙羽

『うん。 お財布忘れちゃって。』


そういう側から、

橙羽のお腹は鳴っていた。


百合 黄泉

『凄い音・・・。

あんた、女子として終わってるわよ。』


日廻 橙羽

『何よ! ユリちゃんの馬鹿!』


百合 黄泉

『馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿煩いわね!』


睨み合う黄泉と橙羽。

そんな2人に近寄り、

『まあまあ、2人共落ち着いて!』

苦笑いを浮かべる紫月。


橙羽から遠ざかる黄泉。

 

百合 黄泉

『そんなお腹で側に居られると、

こっちが恥ずかしくなるから、

コンビニで何か見て来てあげるわよ。』


日廻 橙羽

『えっ! 奢ってくれるの?』


急に笑顔を浮かべる橙羽。


百合 黄泉

『何で私が、あんたに奢るのよ!

明日、持って来て。』


日廻 橙羽

『明日! 来月じゃ駄目?

橙羽、お金使っちゃって、

お財布に、200円くらいしか無いの。』


百合 黄泉

『あー、もう仕方無いわね。

出世払いで良いわよ。 それで、何が良いの?』


日廻 橙羽

『梅おにぎりと、

小さい紙パックの牛乳が欲しい。』


百合 黄泉

『紫月ちゃんは?』


朝顔 紫月

『じゃあ私も、

レモンティーお願いして良いかな?』


百合 黄泉

『分かったわ。

じゃあ、行って来るわね。』


黄泉は、そう言い残すと、

コンビニへ向かった。


日廻 橙羽

『アサガオちゃん、

ヨツバちゃん家に、

ペンとメモ帳忘れちゃったから、

ペンとメモ帳貸してもらっても良い?

来月、お金返すの忘れそうだから、

メモしておきたいの。』



橙羽の問いに、紫月は笑顔で、

『良いけど、多分あの言い方は、

奢ってくれるんだと思うよ。』

と答えながら、

小さなショルダーバッグに手を伸ばした。


その言葉を聞いた橙羽は笑顔で、

『じゃあ、大丈夫!

ペンもメモ帳要らない!』

と言いスマホを取り出し、電話を掛け始めた。


日廻 橙羽

『もしもし! ユリちゃん!』


どうやら、

電話の先には黄泉が居る様だ。


電話の向こうの百合 黄泉

『何よ。』


日廻 橙羽

『やっぱり、梅おにぎりと牛乳止める。

ミックスサンドとね! カフェオレとね!

ピザまんが欲しい!』


電話の向こうの百合 黄泉

『はっ! 最初のになさい!』


日廻 橙羽

『ユリちゃんのケチ!』


そう言うと橙羽は、電話を切った。


------------


一方、コンビニの中で、

橙羽の態度にキレる黄泉。


百合 黄泉

『何なのよ! あの子は!』


そう小言を言いながら、

お握りコーナーへ向かうと、

お握りコーナーには何も無く、

隣のサンドイッチコーナーに、

唯一ミックスサンドだけが残っていた。


飲み物コーナーの牛乳も売り切れており、

カフェオレとレモンティーのみが並んでいた。


百合 黄泉

『何なのよ・・・。

このコンビニ、あの子とグルなの・・・。』


------------


黄泉は、

紫月と橙羽の元へ戻ると、

紫月にレモンティーと肉まんを渡し、

自分の分の

レモンティーと肉まんを取り出すと、

残りの食料が入った袋を橙羽に投げ渡した。


投げ渡された事もお構いなしに、

橙羽は袋の中に、

ミックスサンドとカフェオレ、

そしてデザートのピザまんが、

入っているのを見て喜んでいた。


日廻 橙羽

『アサガオちゃん! 見て見て!』


貰った物を袋から取り出し、

自慢する橙羽。


朝顔 紫月

『良かったね。』


日廻 橙羽

『うん! ユリちゃん有難う!』


無言で眉を顰めながら、

カフェオレを飲む黄泉。


そんな黄泉に、紫月は苦笑いを浮かべ、

『ごめんね。

私が余計な事、言っちゃったから・・・。』

と言うと、


黄泉は、

『良いわよ。

紫月ちゃんには、怒っていないわ。

ただ、あの子の顔を見ると腹が立つだけ。』

と一言返すも、

橙羽は食べるのに夢中で、

何も聞こえていない様子だった。


朝顔 紫月

『私が全部、出すよ。』


百合 黄泉

『良いわよ。

それより、紫月ちゃんリーダーに

領収書の事言ってないでしょ!』


朝顔 紫月

『うん。 忘れてて・・・。』


百合 黄泉

『忘れていたんじゃ無くて、

言い出せなかったんでしょ?』


朝顔 紫月

『・・・。』


百合 黄泉

『そんなに気を遣っていたら早死にするわよ。

戻ったら、私が言ってあげる。

レシートは、持ってるんでしょ?』


朝顔 紫月

『うん。』


実は、

紫月が朱珠の家の前で見張りをしていた日、

紫月の事が心配だった黄泉も、

一緒に見張りをしていたのであった。


百合 黄泉

『そうゆう所、リーダーも成ってないわね。

普通、忘れないでしょ。』


朝顔 紫月

『仕方ないよ。

リーダーも忙しいんだから。』


百合 黄泉

『そうは言っても、

高校2年組は週に5日6時間、

同じ時間、働いている訳でしょ?

リーダーだからって通らないわよ。』


口角は上がっているものの、

少し俯き肉まんを口にする紫月。


そんな2人の会話をよそに、

橙羽はサンドイッチとピザまんを完食し、

カフェオレも飲み干していたのであった。

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