#4 吹き返す呼吸 その④
正面玄関まで走り息を切らす朱珠。
謎の少女は、
隣で何事も無かったかの様に平然と佇んでいる。
神原 朱珠
『あんたなぁ、あかんで!
こんな事したら、あんたまで虐められんねんで!
私の事は、もうええから・・・。
一回でもホンマに来てくれた事、
一生忘れへん。 ホンマにありがと。』
謎の少女
『「ありがと」?
それはおかしいんじゃない?
私はあなたを救えてもいなければ、
私の行動は、
あの子達を余計に挑発させてしまったのよ。』
神原 朱珠
『やり方は、間違っとったかもしれへん。
せやけど助けに来てくれたんは事実やろ?
私は、それが嬉しかってん。』
謎の少女
『たまには怒っても良いのよ。』
神原 朱珠
『え?』
謎の少女
『やり取りを見ていれば分かるわ。
あの子達は、脅迫めいた事を言えば、
あなたが何だって願いを叶えてくれると思ってる。
でもあの白い髪の子は違うと思うわ。
神原 朱珠
『違う? あの子がリーダーやねんで!』
謎の少女
『リーダー?
それは人を指導したり、
纏める事が出来る人に与えられる称号よ。』
神原 朱珠
『じゃあ、あの子は
リーダーとしての素質が無いって事?』
謎の少女
『あなた言ったわよね。
「最近はボブの子が突っかかってくる」って。
あなたは、
あの白い髪の子の目を見ても分からないの?』
このままだとエスカレートするばかりよ。
少なくとも、ここにいる間は集られるわ。』
神原 朱珠
『それは、私も分かってんねん。
せやけど怖いねん。
痛いのも怖いし、逆恨みで
母ちゃんに何かされるのも怖いねん。』
謎の少女
『それなら大丈夫よ。
これがあれば、
継続的に痛みを負う傷が体に付く事は無いわ。
但し、一時的な痛みは我慢してね。』
謎の少女は、朱珠に向けて
白と黒が半々に彩られた球体を差し出した。
謎の少女
『説明は、不要よね?』
神原 朱珠
『落としたら、ええんよな?』
謎の少女
『壁に打ち付けても良いわ。
球体に衝撃を与えるといいだけの話しだから。
球体は一度きりの消耗物。
球体が破損した位置から
約20秒程で半径20mの範囲まで霧が広がるの。
効果が適用される時間は5分程度の
短い時間だけど、
その間、霧に覆われた空間の中に居る人間に
大きなダメージを与えても感じるのは痛みだけで
損傷を負う事は決して無いわ。』
不思議そうな顔で球体を見つめる朱珠。
謎の少女
『それと、あなたのお母さんの事も安心して。
私のチームの子を1人見張り役として、
あなたの家の前に立たせているから。』
神原 朱珠
『えっ? 嘘やろ?
何で家、知ってんの? 怖いねんけど!』
謎の少女
『人間は、怖いモノよ。』
神原 朱珠
『てか、一つ聞きたいねんけどな。
この球体って何の為の道具なん?
もしかして・・・拷問用・・・とか言わんよな?
そのチームの事も気になってんねんけど・・・。
聞いてもええんかなぁ...?』
謎の少女
『そうね。
先ずは、そこから話しておかないと、
私もあなたにとって不安の種でしか無いわね。
付いてきて。』
朱珠は、謎の少女に言われるがまま、
謎の少女の後ろを付いて行く事にした。
謎の少女
『そう言えば、まだ名前 教えていなかったわね。
私は、綾女 茜(あやめ あかね)。』
神原 朱珠
『私は神原 朱珠・・・って、
家の情報知ってんやったな。』
綾女 茜
『昨日、コンビニから出て来たあなたを、
たまたま見つけて、
跡をつけただけだから名前までは知らないわ。』
神原 朱珠
『たまに言う発言が、怖いねんなぁ〜。』
青ざめる朱珠に対して、
茜はぶつぶつと独り言を呟いている。
綾女 茜
『バラちゃんか・・・。良いわね。
運命を感じるわ。』
神原 朱珠
『バラちゃん? 運命?』
綾女 茜
『私のチームは6人構成なの。
偶然にも6人全員、
苗字に花の名前が付いていたから、
7人目にあなたが来てくれるとなれば丁度良いわ。』
神原 朱珠
『丁度良い?』
綾女 茜
『約束したでしょ?
虐めが無くなれば、協力してくれるって。』
神原 朱珠
『そうは言ったけど、
それって私にも出来る事なん?』
綾女 茜
『週に3日から5日程、
16時から22時までの5時間から6時間、
市内や町内をパトロールしてもらうお仕事よ。
時給が980円とそこそこ良いから、
週6働いて10万円を超える
お給料を得ている子も居るわ。
学生の間は適用されないけど、
成人を過ぎれば、時間に応じて時給が
100円から200円上乗せされたりもするの。』
神原 朱珠
『ふ〜ん。 にしても、
協力って仕事の協力やってんな。
それって茜ちゃんのお父さんの会社なん?』
綾女 茜
『違うわ。
都道府県毎の市区町村が雇っている
【blanc(ブラン)】という組織なの。』
神原 朱珠
『茜ちゃんには感謝してんし、
お給料が10万円貰えるのは魅力的やから
協力したい気はあんねん。
でもよく分からへん仕事に就くのは
怖いねんな・・・。』
綾女 茜
『別に無理を言うつもりは無いわ。
決めるのはあなたよ。
ただ、国にも認められていて、
警察官とも連携を取っているお仕事だから、
その辺りは安心して。
チームメイトも良い子ばかりだし、
あなたが一人前になって不安が消えるまで、
私が側に居てあげるから。』
2人が話しながら歩いていると
茜のスマホが鳴り出した。
茜は立ち止まり、スマホを手に取り話しだした。
綾女 茜
『もしもし。 もう着いたの?』
どうやら茜の電話の向こう側には、
朱珠の家の前で見張をしている
チームの一員が居るようだ。
綾女 茜
『バラちゃん、安心して。
今、私の所の優秀なチームメイトが
あなたの家に到着したみたいだから。』
神原 朱珠
『はぁ・・・。』
綾女 茜
『不安だったら話してみる? 普通の女の子よ。』
茜から渡された電話に出る朱珠。
神原 朱珠
『もしもし。 初めまして。 神原 朱珠です。』
電話の向こう側の少女
『こちらこそ初めまして。
私は、朝顔 紫月(あさがお しづき)
といいます。』
電話から聞こえる事は、
透き通る様で落ち着いた優しい声だった。
神原 朱珠
『アサガオ・・・。
ホンマや! 花の名前!』
朝顔 紫月
『変わった苗字でしょ。
全国でも50人程しか居ないらしいんだ。
急に変な人達に関わって不安かもしれないけど、
あなたが帰るまでは、
私がお母さんを見守ってるから安心してね。』
神原 朱珠
『あ・・・ありがとう御座います!』
朝顔 紫月
『改まらなくて良いよ。 もっと気楽に話そうよ。』
神原 朱珠
『あ・・・有難う・・・。』
朝顔 紫月
『ふふふ。 約束ね。
リーダーに聞きそびれた事があるから、
もう一度、
リーダーに変わってもらっても良いかなぁ?』
神原 朱珠
『分かりま・・・。 わ、分かった!』
『聞きそびれた事があるから変わってって。』と、
小声で話しながら朱珠は茜にスマホを手渡した。
綾女 茜
『変わったわ。 何かしら? 』
朝顔 紫月
『リーダー、ゴメンね。 何でも無いんだ。
「緊張しているみたいだけど良い子そうだね」
「安心した」って伝えたかっただけ。』
綾女 茜
『そう。 なら良かった。
その言葉を聞けて、私も安心したわ。
じゃあ、引き続き見張の方をお願いね。』
朝顔 紫月
『うん。 リーダーも気を付けてね。』
綾女 茜
『有難う。』
茜は電話を切ると、朱珠に背を向けた。
綾女 茜
『じゃあ、もう少しだけ付いて来てくれる?』
神原 朱珠
『うん。』
そして二人は、再び廊下を歩き始めた。
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