#2 吹き返す呼吸:取り戻された日常

8時55分、

高校の正面玄関で上履きに履き替える朱珠。

ふと顔を上げると一昨日出会った

謎の少女が廊下に立っていた。


謎の少女

『随分ゆっくりとした登校ね。

授業開始まで後、5分よ。』

 

神原 朱珠

『ほんまに来てくれたんや!』


謎の少女

『出来ない約束は、しないわ。』


謎の少女の顔を眺め、

安堵の表情を浮かべる朱珠。


しかし、階段の踊り場を見上げた途端、

朱珠は顔を強張らせながら、

慌てて階段の方へと走って行った。


階段の踊り場には、

白髪の長い髪を靡かせた少女を筆頭に、

両目が見えない程に長い髪を垂らした少女と、

朱珠の事を見下ろし含み笑いを浮かべている

ボブヘアーの少女の姿があった。


白髪の少女達は、

階段を降り朱珠に近寄って来た。

 

月下 美優(げっか みゆう)白髪の少女

『おはよ。』


黒田 黎空(くろだ りあ)ボブヘアーの少女

『いつもの持って来てくれた?』


神原 朱珠

『もうお金も無いから、無理言うたやろ。』


俯いたまま小さな声で返答する朱珠。


黒田 黎空

『はっ? じゃあ、私達に昼抜けって事?』


朱珠に迫りよる黎空。

朱珠は目に涙を浮かべている。


謎の少女が近寄ろうとすると、

美優が口を開いた。


月花 美優

『黎空、もう良いよ。

この間と同じ話しを繰り返すつもり?

昼食ならコンビニで弁当でも買おうよ。

少しくらいは金、持ってんだろ?』


黎空は美優を眺め舌打ちをした後、

朱珠に『放課後は覚悟しといてよ。』と言い、

朱珠を突き飛ばして階段を上がって行った。


桃井 凛心(ももい りんご)両目が隠れた少女

『あ〜、怖い怖い。』


凛心も黎空が階段を上がり切った少し後で、

独り言を言いながら階段を上がって行った。


二人が階段を上がり切った事を確認した後、

美優も階段を2段上がり、

朱珠に背を向けたまま

『いつまでも同じ事、やらせないでよ。』

と言い経ち去って行った。


謎の少女

『虐めに加担しているのは、三人だけ?

それとも他にも居るの?』


謎の少女は階段の踊り場を眺めながら、

朱珠に近寄って来た。


神原 朱珠

『あの三人以外は、居らへん。』


謎の少女

『あなた昼食代まで払わされているの?』


神原 朱珠

『せやねん。 お小遣いのある内はな。』


謎の少女

『休憩時間も集られる様なら、

私の所に来ると良いわ。

私なら休憩時間内も

ずっと2年1組の教室に居るから。』


謎の少女は、階段の方へ振り向き、

『放課後、蹴りをつけるわよ。』

と囁く様に言った。


神原 朱珠

『は? 蹴り?無理やって!

私もあんたもボコボコにされんで!』


謎の少女

『大丈夫よ。 私に任せて。

それじゃあ、授業の後でね。』


謎の少女は朱珠の方へ振り向き、

手を振った後、階段を上がって行った。


------------


一限目の終わりを告げるチャイムが

校内に鳴り響く中、

謎の少女は、

椅子に座ったまま廊下の方を眺めるも、

二限目、三限目と

朱珠の姿が現れる事は無かった。


三限目の終わりを迎えるチャイムが鳴り始め、

教員が教室を出て行ったのを追う様に、

謎の少女は席を立ち

早足で1年生の教室へと向かった。


教室には、

ぽつぽつと1年の生徒が残ってはいたが、

そこに朱珠の姿は無かった。


謎の少女は、

朱珠を探しに屋上や校庭にも行ったが、

この休憩時間内でも昼休みにも

朱珠の姿を見つける事は出来なかった。


------------


昼休みを終えるチャイムが鳴り響く中、

教室に足を運ぶ朱珠。


教室の引き戸の斜め前に、

少し曇った表情をした謎の少女が立っていた。


目が合った瞬間、俯く朱珠。

その姿を眺めながら近寄る謎の少女。


謎の少女

『何故、私から逃げるの?』


神原 朱珠

『迷惑を掛けたく無いねん。

私と居ったら、あんたまで・・・。』


謎の少女

『それなら、

あなたが私から隠れ回るから、

三限目が終わった後も、

お昼休みもあなたを探し回っていたから、

もう既に迷惑を感じているわ。』


神原 朱珠

『さらっと綺麗な顔してキツい事言うなぁ。』


そう言いながらも、

朱珠の心の中は少しだけ暖かい気持ちになっていた。


謎の少女

『あの白い髪の子がリーダーなのかしら?』


神原 朱珠

『うん。 多分そうやと思う。

やけどな、最近はボブの子の方が

突っかかってくる様になったねん。』


謎の少女

『それならそうと、

上手く事を運ばないと

少し厄介な事になりそうね。』


神原 朱珠

『えっ! まだこれ以上、

厄介事に巻き込まれるん?』


謎の少女

『大丈夫。 私を信じて。

ただ、あの白い髪の子は、

あなたを必要としている感じがしたわ。』


神原 朱珠

『私を必要? どうゆう事?』


二人が話していると4限目のチャイムが鳴り、

引き戸を開き教員が顔を覗かせ、

無表情で『授業が始まるぞ』と

声を掛けてきた。


神原 朱珠

『はい! 御免なさい!』


教員が顔を引っ込めて扉を閉じた後、

謎の少女の顔を不安気な表情で眺める朱珠。

 

謎の少女

『お手洗い以外で教室を出ない事。

6限目が終わったら

私が教室に迎えに行くまで

教室の中で待っている事。

この2つは、ちゃんと守ってね。 分かった?』


神原 朱珠

『分かった。 約束する。』


二人は約束を交わした後、

それぞれの教室へ戻って行った。


4限目の授業が終わり

5限目の授業が始まるまでの時間も、

5限目の授業が終わってから

6限目の授業の開始を知らせる

チャイムがなるまでの時間も、

謎の少女は朱珠の友達を装い

教室へと来てくれた。


しかし、その行動を遠くから眺め、

怪訝な表情を浮かべる

黎空の存在もそこにはあったのだった。

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