spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~[1]

@hiroshi_vii

#1 吹き返す呼吸:2人が出逢った日

11月のとある土曜日の正午過ぎ、

学校の屋上の手摺りを乗り越えて真下を眺める少女の姿があった。


少女の名前は、神原 朱珠(かんばら すず)。

彼女は5ヶ月前に大阪から、

この小さな町に転校して来た高校一年生の少女である。


元々、元気で明るく

常にクラスの中心に居る存在だったのだが、

転校してからは酷い虐めに合っており、

誰にも相談することが出来ずに

気を病むことが多くなっていた。


神原 朱珠

『母ちゃん御免な。

私もう無理やわ。 耐え切れへん。』


地面を眺めながら、呟く朱珠。


朱珠は、この日、

自らの命にピリオドを打つ為に、

屋上に立っていたのであった。


そんな朱珠の背後から、

一人の少女が

抑揚の無い言葉で語りかけてきた。


謎の少女

『死ぬの?』


神原 朱珠

『ひぃ!ビックリした!

あんた いつからそこに居ったん?』


振り向くと、

そこには青色の長い髪を靡かせた

綺麗な顔の少女が立っていた。


謎の少女は、

朱珠の問い掛けに反応することも無く

語りかけて来た。


謎の少女

『死ぬなら"その体"使わせてほしくて。』


神原 朱珠

『もしかして、あんたもあの子達の仲間なん?

悪いけどエスカレートしていく虐めには、

もう耐えられへんねん。

それに私、犯罪までは起こしたく無いんよ。

やから御免やけど、諦めてな。』


謎の少女

『何を言っているの?

私はその体を少し借りたいだけ。

勿論、生きているあなたの体をね。

もしも私があなたを、

その虐めから救う事が出来たら

私に協力してくれる?』


精神的に弱っていた朱珠は、

その少女の「救う」と言う言葉に感銘し、

気が付けば目には涙を浮かべ、

『私を助けてくれるん?あんがと。』

とお礼を言ったのであった。


その言葉を聞いた謎の少女は、

『それじゃあ、契約成立ね。』と言い、

ピンポン玉程の白と黒が半々に彩られた

球体を地面へ叩き付けた。


地面に球体が接触した瞬間、

球体の中から黒い煙が溢れ出し、

周辺はまるでモノクロ写真の様な景色へと

変貌していった。


神原 朱珠

『何なん! どないしたん? 怖いねんけど!』


朱珠は周囲を見渡しパニックを起こしていた。

そんな中、

謎の少女は表情一つ変えずに朱珠に近寄り、

『大丈夫。この空は怖く無い。』

『この空は"希望"なの。』と言うと、

謎の少女は朱珠の肩を押し、

朱珠を屋上から突き落とした。


神原 朱珠

『えっ! ちょっ! 嘘やろ!』


体が宙に舞う中、

朱珠は、涙を流しながら屋上を去って行く

謎の少女の背中を眺め、


『(今まで希望なんて無かったのに、

急に救世主が現れるなんて

虫が良過ぎんねんな。

少しでも人を信じた私が馬鹿やったわ。)』


『(最後に母ちゃんに逢いたかったわ。

まだまだ沢山、

美味しい手料理も食べたかった。

母の手一つで育ててくれたのに、

ほんまに御免な。 ほんまにありがと。)』


と体が地面に着くまでの短い時間の中で、

様々な感情を胸に抱くのだった。


そして大きな音と共に、

朱珠の体は地面に叩きつけられたのであった。


------------


地面に仰向けになり空を眺める朱珠。

朱珠は体に激しい痛みを感じながらも生きていたのであった。

そして不思議な事に体には傷一つ無かったのである。


屋上から降りて来た、

謎の少女が朱珠に近寄って来た。


神原 朱珠

『この空が何か関係してんねやろ?』


謎の少女

『ボールの着地地点から

半径20mの霧に覆われた世界では、

5分間の間、人間に外傷を与えようとしても、

痛みは伴えど人が傷を負うことは無いわ。

それより、どうだった?

今、どんな気持ち?』


神原 朱珠

『体が宙に浮いた瞬間、

最後にもう一回、

母ちゃんと逢っといたら良かったとか、

美味しい手料理を御馳走になっといたら良かったとか、

ほんまに私は、アホやな。

ほんま、生きてて良かったわ。』


涙で言葉を詰まらせながら話す朱珠。


謎の少女

『そう。 それなら良かったわ。

これでもう、あなたは大丈夫そうね。』


そう話すと、

謎の少女は朱珠の隣に仰向けに転がった。

眺める空は、再び青さを取り戻していた。


謎の少女

『綺麗な空。見て、飛行機雲。』


空を指差す謎の少女。

謎の少女の指を指す方向を眺める朱珠。


神原 朱珠

『なぁ。 協力って、私何したらええの?』


謎の少女

『その話しなら今日は、構わないわ。

それよりも今日は、早くに帰って、

逢いたかった、お母さんに会ってあげて。

話しは明後日、あなたを虐めている人から、

あなたを救出した後で良いから。』


謎の少女は、

空に指を指した状態で3度程瞬きをした後、

立ち上がり『じゃあね。ばいばい。』と言い、

小さく手を振ると校門の方へと歩いて行った。


神原 朱珠

『ほんまに出来た人やな。

自分の要求が一番最後やなんて。

私を気に掛けて着いて来てくれとったんかな?』


朱珠の通う学校は、不良が多く、

教員達も生徒の悪行を見て見ぬふりをして過ごしている。

現に、今だって大きな音を聞きつけて朱珠の元へ駆け付けてくれる教員や生徒は誰一人いない。


このお話しは、この二人の少女を含めた、

「7人の少女」の半年間にフォーカスを当てた少し不思議なお話しです。

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