第173話クソ親父

「それで? この責任は、どう取るつもりなんですか?」


「うう……廉太郎も光ちゃんも容赦ない……」


 ボロ雑巾みたいになったアカツキさんを見下しながら、美作さんが静かに問い詰める。あ、言っとくけど八割美作さんがやったんだからね?! 俺は暴力反対だよ!


「あの時は、まさか本当にゾンビになるなんて思わなかったんだ。民間信仰っていうくらいだし、どれも胡散臭くて信憑性に欠ける物ばかりだったからな。あのゾンビパウダーだって、ちょっとしたパーティグッズ的なもんだとばっかり……」


 ちょっとしたパーティグッズでゾンビにされちゃ堪らん。てか、こういうのって国内に入る時に検査とか入らないの? 明らかに怪しい薬が入った手紙を簡単に日本に入れるなよ。税関仕事しろ。


「暫くして、あいりからゾンビになったって手紙が来た時には肝が冷えたね。あの時のやつじゃん! って。それで慌てて日本に帰って来たわけ」


 来たわけ、じゃねぇよ! なんでそんな軽い感じでいられるの?! え? 海外暮らしが長かったせい? ハイチの陽気な気候にあてられちゃったの?!


「てか、ちょっと待ってくださいよ! じゃあ俺に言っていた、好感度マックスにしないとゾンビ化が治らないとかってのは……?」


 そう、今の話をどう切り取っても、以前この人が言っていた話と大きく食い違うのだ。


「ん? あぁ、あれね。あれはちょっとしたいたずら心というか……彼女のパパからの挑戦状? 的な?」


「は?!」


「だってよぉ! なんか声でゾンビ化の兆候が〜とか言うし、あり得ないと分かっていてもそんな話を聞いたら少し泳がせてみたくなる、そんな学者肌な部分が出てきちゃったんだもんよ〜! それに、彼氏がいるなんて話、聞いてなかったんだもん! 廉太郎の話はちょこちょこ出てきてたけど、その男とまさか付き合ってるなんて、お父さん大ショックよ! ちょっとばかし意地悪したくなるじゃん?!」


 美作さんと目が合い、互いにコクンと頷く。


「いてててててて! 分かったって! 謝るから指引っ張らないで!」


「じゃあ好感度チェッカーってのも嘘?!」


「好感度チェッカー? あぁ、あの温度計の事ね! いやぁ〜あれも咄嗟の思いつきで渡した物だったんだが、まさか本当に信じちゃうとはなぁ〜!」


 美作さんに指を引っ張られているというのに、懲りずにヘラヘラするアカツキさん。てかこの人最初っから今まで、何一つ本当の事言ってなくね?


「なんか普通にショックなんですけど……」


「何、もしかして本気にしちゃってた? 普通に考えてあり得ないっしょー! 好感度が可視化なんて出来るわけないじゃん! 漫画の読み過ぎだわ! 素直な事は良い事だが、ちゃんと見抜けないとね〜!」


「美作さん」


 ギリギリギリ……


「いててててて! だからそれやめろって! 思ってるより痛いんだから! 関節取れちゃうでしょ?! まぁ悪ふざけもこのくらいにして、今回のでよーく分かったんだ。あの子をここに置いといちゃいけないってな」


 美作さんから解放されたアカツキさんは、引っ張られた指先をプラプラさせて繋がっている事を確認している。そんなアカツキさんの指なんかより、もっと気になる発言があった。乙成をここに置いといちゃいけない? 今確かにそう言ったよな?


「乙成をここに置いといちゃいけないって……?」


「あぁ、あいりを連れて帰る。ハイチにな」


「え」


 一瞬静まり返るプレハブ小屋。先程までのろくでなしの雰囲気は影を潜め、今のアカツキさんは教授と言われれば納得のキリッとした顔に様変わりしていた。


「ハイチにいる、嫁さん(ハイチ人)の親父さんに診てもらう。数ヶ月かそこら……場合によっちゃ、ずっと向こうに住む事にもなるかもな」



 そんな……! 乙成が居なくなっちゃう……?!


 


 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る