第165話温度計という名の好感度チェッカー
「ほらよ」
そう言って、アカツキさんがポイと投げて寄越してきたのは……なんだこれ? 温度計?
「温度計ですか?」
「違う違う! これはあれだ、好感度チェッカー」
……………………
「アカツキさん、嘘ついてますよね? どっからどう見ても、ただの温度計じゃないですか。流石の俺も騙されませんよ」
「だから違うって! お前さん、好感度チェッカー見たことないだろ? このアイテムは、まるで温度計みたいな見た目をしてるものなの!」
なんか急に非現実感が出てきたな……なんだよ好感度チェッカーって。青いたぬきのひみつ道具みたいな感じで言いやがって。
「……じゃあいいですよ、これが好感度チェッカー
「これはな、好感度を知りたい相手の近くで強く握ると、中の液体が上下するんだよ。ほれ、試しに俺の事を見ながら握ってみ?」
アカツキさんに促されるまま、俺は温度計を握ってみた。本当によくある一般的な温度計である。木製の板には目盛りがついていて、真ん中にはガラス棒に入った赤い液体。ちょっとレトロな感じもするが、アカツキさんが持っている物と考えると自然な気がした。
………………
……………………
………………………………
「なにも起こりませんけど?」
俺が握りしめた
「だからそれは、俺のお前さんへの好感度がまだないって事」
「なんかショック!」
「まぁまぁ、騙されたと思ってよ、これを彼女の前で使ってみんさい。ただの温度計なんかじゃないって分かるから」
******
翌日。俺の鞄の中には、昨日アカツキさんから貰った温度計が入っている。あの後家に帰ってからも何度か温度計を握りしめて試してはみたが、やはり何も起きなかった。壊れた温度計だと思ってはいるが、なんとなく家に置いておくのもな……と思ったので持って来てしまった。
「よお、前田ァ! おはよう!」
滝口さんだ。この人は朝から相変わらずヘラヘラしているな。
そうだ。昨日はアカツキさん相手だったから
「ん? どうした前田。なにそれ温度計? そんなもん持ち歩いてんの?」
「……」
俺は無言で鞄から温度計を取り出すと、滝口さんの方を見ながら強く握りしめてみた。
お? なんか動いて……
赤い液体は昨日とは打って変わってグングン上へとあがっていく。そしてある一定の所までくるとピタッと止まった。
「な、75……」
「は?! その温度計壊れてんじゃねぇの? 75度なんかだったら死ぬって!」
そう言って笑っている滝口さんの横で、俺は温度計を持ちながら静止してしまった。
なんて事だ……昨日はあれだけ触ってもうんともすんとも言わなかったのに。え、てか待って。75って事はさ、滝口さんの、俺への好感度が75%あるって事? 好きじゃん俺の事。
思いもよらない事実を知ってしまったが、これはひょっとしたらひょっとするかもしれない。でもまだ弱いな、たまたまかもしれないし。もう少し誰かで試して……
「あんた達、朝っぱらから何はしゃいでんの? 何それ温度計? なんでそんなもん持ってんのよ」
朝霧さんだ! よし次は朝霧さんで試してみよう……
再び温度計を握りしめる俺。不思議そうな表情を浮かべる朝霧さんと滝口さんだが、そんな事はお構い無しだ。
お、おおお……
56……さっきより下がったぞ……!
「56……か。なんかリアルな数字だな」
「何処がリアルなのよ?! ここは日本よ? デスバレーじゃあるまいし」
そんな朝霧さんのツッコミにも耳を傾けず、俺は手にした温度計をひたすらに凝視していた。
「前田、お前今日変だぞ?」
本当に青いたぬきのひみつ道具じゃん、これ。
「おはようございます! 皆さんお揃いで、何してるんですか?」
乙成だ!!!!!!
「乙成ちゃん、前田くんが変なのよ。温度計なんか持って……」
これはチャンスなのでは? 今このタイミングで好感度チェッカーを使えば、乙成の好感度が分かるのでは? いよいよ信憑性が増してきた好感度チェッカー。こいつで乙成の好感度を……
好感度チェッカーを握りしめる手に、一層の力が入る。正直、今までの二人は練習みたいなもんだ。本当に好感度が知りたい相手は、一人しかいないんだから。
56%で止まっていた液体がゆっくりと動き出す。じわじわと上がっていく赤い液体は、手前の二回とは比べ物にならないくらい長い時間、ある一定のラインを上下している様だった。
乙成の気持ちを表しているとでもいうのだろうか……
「と、止まった……」
そしてそのに表示された数字は……
73
朝霧さんより高く、滝口さんよりちょっと低い。
やっぱり……これは本物なんだな……!
ん? 待てよ。って事は、このメンバーの中で一番好感度が高いのって……
「前田! お前暑さでやられたのか! しょーがねぇから、オレが昼奢ってやるよ!」
俺の事が好きな滝口さんが、背中をバシバシ叩きながら先輩らしい言葉をかけてくる。
もう今日から俺、この人の事真っ直ぐ見られないかもしれないわ。
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