第158話ちょっと可哀想って思った俺がバカだった

「え……な、なんでそれを……?!」


「だから言ったろうに。見たら分かるって」


 アカツキさんはガツガツとコンビニ弁当に食らいつきながらそう言ってのける。相当腹が減っていたのか、俺が買ってきた幕の内弁当はほとんど噛まずに飲み込まれていく。


「そんで君、名前は?」


「前田廉太郎です……」


 ぐびぐびと喉を鳴らしながらお茶を飲み干すアカツキさん。こんなギリギリの状態で、よく今までやってこれたな。


「前田か……なんか普通の名前だな。廉太郎は……まぁ悪くない名前だ。廉太郎、お前はどうしたらあの子のゾンビ化を治せるのか、それを知りたいんじゃないか?」


 初めて出会った。乙成がゾンビであるという事を理解している人に。何故かこの世界の人間は、乙成がゾンビであるとも思っていない様だからな。俺以外からゾンビというワードが出てきて、ほんのちょっとだけ嬉しい。てか、この人驚きもしてないけど何者?


「あなたは、ゾンビ化を治す方法を知っているんですか?!」


「あぁ~なんかずっと座ってたら尻が痛いわぁ〜」


 は?


「え……なんですか?」


「いやな、ここからちょーっと行った先に、俺の家があるのよ。そこまで連れてってくれないかなぁ〜〜ほら、今腰やっちゃってるからさ? もう痛うて痛うて!」


 そう言って、チラッとこちらを見てくるアカツキさん。湿布と弁当だけでは飽き足らず、俺に家まで送って行けと?


「いやそれは……」


「あ、いいの? じゃあ彼女ゾンビのままで。ふぅん、そっかそっか! まぁ別にいいけどね? あの子がゾンビのままでも、俺は全ッ然困らないし? あのまま放っておいてどうなっちゃっても、俺には関係ないからなぁ〜〜〜」


 な、なんか話し方まで変わってない? 登場時の可哀想な老人は何処へ行ったんだ? いや、最初っからこんな感じだった? さり気なく人の苗字を普通なんて言いやがるし。


「あぁ〜最近の若者は冷たいなぁ〜〜〜〜」


「もう! 分かりましたよ! 送って行くんで、そんな大きな声を出さないで!」


 結局、アカツキさんの勢いに押されて家まで送って行く事になってしまった。いつも思うんだけどさ、この世界の人ってなんか自分勝手な人多くない? そういうもん?


「俺の家はあっちだから」


 肩を貸してやりながら、俺達はアカツキさんの家へと向かう。足取りはそこまで重くない様だから、腰をやったって言っても軽度なものなのだろう。旅行帰りで自分の荷物が重いのに、アカツキさんが持っていたデカいボストンバッグまで持ってやる俺。ここまで来るともう聖人だよな?


 二人で肩を組みつつ歩く事数十分。てっきり何処かの簡易的なダンボールハウスの様な場所に案内されると思いきや、着いたのはプレハブの質素な小屋だった。


「意外と普通の家だなって思ってるだろ?」


「え……! いや、その……」


普段はもっと色んな所を転々としとるんだがな。さ、入れ」


 えっと……それは行政に立ち退かされているから転々としている……という意味で合っているのか? なんかちょっと触れづらいんだよ。


 施錠もされていないプレハブ小屋の引き戸を開けるアカツキさん。言われるがままにここまで来ちゃったけど、知らない人の家にあがるなんて大丈夫かな……? 俺、何かされたりしないよね?


「えーっと……コレとコレ……あとは……あぁ、コレがないとな……」


 部屋に入るなり壁際に置いてあった謎の草を調合しだすアカツキさん。明らかに怪しいのだが、なんとなく既視感を感じる……これは……


「ほれ」


「これは?」


「これはだ。お前さん疲れてるみたいだからな、ここまで送ってくれた礼だと思って、遠慮はするな」


 差し出されたのはドブみたいな色をした液体。ご丁寧に湯呑みで出してくれたのだが、見るからに不味そうである。


 ここまで来てようやく分かったんだけど、このお茶って麗香さんが前に美作さんに出してたのと似てるな。麗香さんのお茶の先生は何処かの仙人みたいな爺さんだと前に乙成が言っていた気がしたが、もしかしてこの人が麗香さんのお茶の先生なのかも。


「ん? どうした、飲まんのか」


「アカツキさん、麗香さん……乙成麗香さんって女性を知ってます?」


「ふぇ?! さ、さぁ? 知らんなぁ~~そんなオナゴは知らんなぁ~~~まぁいいから、早いとこ冷めないうちにお茶を飲まんか!」


 めちゃくちゃ知ってる人の反応だ! これはもう確定じゃないか。でも、なんで隠すんだろう? 知られたくない事情があるのか……?


 麗香さんの知り合いだと分かって、ほんのちょっと安心した俺は、アカツキさんの出すドブ茶をおずおずと口にした。


「うゥ……! マッズ……」


「ハッハッハ! これが効くのだよ!」


 慌てて持っていた水をがぶ飲みする俺を見ながら膝を叩いて笑うアカツキさん。この人、俺をからかって楽しんでない? 親切にしてやったのに……クソが。


「ゴホッゴホッ……それで、ゾンビ化を治す方法って……」


「おお! そうだったそうだった! あの娘の症状を見るに……」


「見るに……?」




「あぁ〜なんか、落ち着いたら茶菓子的なものが食いたくなったなぁ〜〜〜〜アレよ、ぷれみあむシュークリーム的なの食べたいなぁ〜〜〜〜」


「ジジイ!!!!!!!」

 


 

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