第103話前田の受難

 俺は前田廉太郎。今絶賛片思い中の24歳だ。もっとも、来月には25歳になる。もういい大人だ。いい大人が、片思い中! なんて言うのも恥ずかしい限りではあるが、現状そうなのだから仕方ないだろう。



 そして俺は今、ひとつの思いを胸に、おしゃれなデパートのある一角にやって来た。


 そう、ここはホワイトデーの為に作られた特設スペース。ありとあらゆるバレンタインデーのお返し達が、所狭しと並んでいる。


 ここでセンスの良いプレゼントを買って、乙成に喜んでもらうんだ!


 そして……



 そして、お返しを渡した時に伝えるのだ。


 付き合って欲しい、と。


 ホワイトデーに告白なんて、完璧じゃね? 狙ってましたよ? って感じは出さずに、あくまで自然に。この前のバレンタインのお礼も含めた、日頃の感謝を伝えて、乙成がプレゼントを受け取った所で告白……!


 これだろ。もうこれしかないわ。逆に、これを逃したら俺はいつ乙成に告白すんの?


 さて、問題は何をあげるか、だな。こういうのって食べ物の方がいいの? アクセサリーとかはちょっと重いかな? まだ付き合ってないし、いきなりそんなハードルの高い物をお返しに渡したら、本気で警戒されてしまうかもしれない……。それに乙成が気に入る物を見繕う事が出来るか自信がない。みんな忘れてると思うけど、俺は人生で一度も女の子と付き合った事がない。


 う〜〜〜〜〜〜ん。どうしたものか……



 などと考えながらフラフラと売り場を歩いていた時、ふいに誰かと肩がぶつかった。


「あ、すいません……! って……」



 偶然にもぶつかった相手、それはここ最近で一番厄介で、出来ればもう会いたくない相手だった。



「前田くんじゃないですか。偶然ですね!」


 朗らかな笑顔を向けて俺の方を見る男、美作光太郎。乙成の母親である麗香さんの彼氏で、俺は何故かこの人に敵対視されている……と思う。


 先日も美作さんからの天網恢恢乙女綺譚の変な夢を見たし、俺はだいぶこの人に毒されているのだと思う。無茶苦茶不本意だが。


「本当に偶然ですね……美作さんもバレンタインのお返しを買いに来たんですか?」


「ええ。麗香さんとあいりに。前田くんもですか? よかったら一緒に見てまわりませんか? 僕も手伝いますよ、


 ん? お母さん?


「あ、いえ、母親からのお返しを探しに来たんじゃなくって……」


「え? 違うんですか?」


 こいつ……! まるで俺が母親からしかバレンタインのチョコを貰えないのを決め付ける様に……!

 まぁ、実際そうなんだけどな。でも今年は違う! てか、この人知ってるんじゃないの? 俺が乙成からチョコ貰ったって。もしかして認めないつもりか? 現実を受け止めろよ、いい大人のくせに。


「俺は今日、からのプレゼントのお返しを探しに来たんです!」


 よし! こんなチクチク攻撃に負けずに、ちゃんと牽制する事が出来たぞ!


「ああ、あのの事ですか」


 ぐふうっ……! こいつ、笑顔でなんて事を! いや確かに本命かどうかなんて分からないよ? 分からないけども、あの感じは義理って感じではなかったと信じたいんだよ! え? 違うよな? 義理だったら泣くんだけど。一回家に帰りたくなってきた……。


 いや違う違う! こいつ美作のペースに乗せられたらダメだ! この人は俺がこうなる事を見越して、地味に精神を削ってきているのだ。気をしっかり持て! 負けるな俺!


「あぁ〜、はは、まぁ義理……かどうかは分からないですけれど、とにかく貰った物はお返ししないとですよね〜! え? 一緒にまわります? 俺は全然いいっすよ! 美作さんがいいって言うならですけど?!」


 よ、よし! 努めて大人な返しを出来たぞ! やっぱり俺が大人にならないとだよな、こんな時は。美作さんって、ちょっと子供っぽい所とかあるし? 多分6歳くらい年上だと思うけど。俺がちゃんとしてないとだよな! ………………もう既に疲れてきた。か、帰りたい……。


「そんなに前田くんが一緒にまわりたいなら……いいですよ。あいりにプレゼントをあげるのなら、僕と被ったら大変ですしね。一緒に行きましょう」



「じゃ、じゃあとりあえず端から見ていきますか!」


 

 

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