第53話仕組まれた飲み会
――あの子、乙成に気がある。あんたも男なら、取られない様に気をつけなさい。
先日の朝霧さんの言葉だ。まるで俺の心を見透かしたかの様に忠告されてしまった。しかし、そう言われたとて、俺にはどうしたら良いのか分からない。
今、乙成の一番近くにいるのは恐らく俺で、それは乙成の
じゃあ逆にリンはどうだ? リンも乙成にとっては友達であり、下手したら女友達という認識でいる可能性もある。これは考え様によっては、俺の方が頭一つ飛び抜けていると言えなくもないが、リンと乙成は「親友」だ。友達よりランクが上で、しかも最近会うようになったとはいえ、付き合いは二年以上。俺より昔に、既に二人は出会っているのだ。
「う~~〜〜〜ん……」
「前田くん、この前の
「うわっっっっっ!!!!!」
突然背後から朝霧さんに話しかけられて、俺は驚きのあまり執務室の自分の椅子から転げ落ちそうになった。
「ちょっと、何遊んでんのよ。ちゃんと今週末の事、滝口に言ったの?」
苛ついた様な顔で俺を見下す朝霧さん。今週末の事とは先日計画した、俺主催の飲み会の話だ。この飲み会で朝霧さんは、滝口さんに自分の気持ちを伝えるらしい。
「あ、あぁバッチリですよ! 滝口さんも楽しみにしてるみたいです!」
「そう……あいつ、変な勘繰りとかしてない?」
「へ?」
見ると、朝霧さんの顔が赤い。口元に手をやってモジモジしている。初めて見るいじらしい表情だ。
「だから……! 私が、その、告白とか……!」
どんどん声が小さくなっていく朝霧さん。こんなキャラだったっけ?
「いや、全く滝口さんは感づいていないと思いますよ?」
「そ、そう。それなら良かったわ」
それだけ言うと、朝霧さんは自席へと戻って行った。誰がどう見ても落ち着きがなく、席につくなりペン立てをガラガラと音を立てて倒していた。
「前田、ちょっと」
「はい?」
今度はトイレから戻ってきた滝口さんに背後から肩を叩かれた。目で外に出る様に合図をされる。俺は、叩かれた右肩をちょっと気にしながらも、滝口さんに続いて執務室を出た。ちゃんと手洗ったんだろうな?
「どうしたんですか?」
「なぁ、最近朝霧さんおかしくね?」
ド、ドキィ!!! もしかして滝口さんにここ最近の色々がバレたと言うのか?
「俺は何もいってないっすよ!」
「? お前何言ってんの? これはあれだと思うんだよ、オレの作戦が効いて来ていると思うんだ」
「へ? 作戦て?」
滝口さんは階段の手すりに体をもたれて腕組みをしながら得意気に笑っている。
「決まってる。オレがこの数ヶ月間、虎視眈々と計画していた事だよ! 好感度ゼロから、ちょっとこっちを意識しだしている所だ! 今週末の飲み会、仕掛けるチャンスだと思うんだ。お前はどう思う?」
「どうって言われましても……」
なんかもう、両方の事情を聞かされているせいでこんがらがってしまっているが、滝口さんは滝口さんで、今回の飲み会で朝霧さんに何かしらのアクションを起こすつもりで、朝霧さんは滝口さんに告白をするつもりなんだよな?
「問題はここからどうするかなんだよなぁ……」
「てか、滝口さんは朝霧さんに惚れさせて何をしたいんすか?」
俺の言葉に、滝口さんが一瞬ハッとする。まさか何も考えてなかったわけではない……よな?
「そこまで考えてなかった」
駄目だこの人は。マジでなんにも考えずに、今まで惚れさせる!! とか言っていたのか。
「あ、あれだ! 惚れさせたのちに、バッサリと振る! うん、これだよ! これがしたかった!」
「いや今考えたでしょ……てか、本当にそんな事するつもりなんですか? 普通にちょっと可哀想じゃないですか」
朝霧さん側の話も聞いてしまった事もあって、正直滝口さんの計画に乗り気にはなれなかった。てか、ここまできたら、もういっその事付き合ったら良いのでは? とまで思えてきている始末だ。酔っていたとは言え、ちょっと朝霧さんに惹かれた瞬間があったんだろ。
「前田、お前どっちの味方なんだ?」
「え? 俺は別に……」
「お前がそんないい加減な態度でいるって言うなら、俺は
え……? なんか嫌な予感がする。滝口さんは俺の目の前までズイッと近付くと、今度は俺の左肩に手を置いて耳元まで顔を寄せてくる。さっきも言ったけど、ちゃんと手洗ったんだろうな?
「お前達が日々、追い出し部屋でコソコソしている事だよ? 毎日アニメの声真似して、乙成に言葉責めしてるだろ? お前、オレの事変態だなんだって言うけど、お前も相当やべぇぞ?」
「っな……! 違いますよ! これには理由があって……!」
「とにかく、だ! お前は会社の人間にバラされたくないなら、オレに協力しろ! いいな?」
なんて事だ……。滝口さんの中では、俺が乙成に毎日言葉責めをしている様に見えていたのか……本当は逆で、乙成が俺に言葉責めを
滝口さんと朝霧さん。俺はこのいい歳した大人二人に挟まれて、週末に開かれる飲み会に向けて、しょーもない計画の片棒を担がされるはめになった。
本当に大丈夫なのかな……これ
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