第25話
『斎藤 みほり』は表情にこそ出さなかったが、内心で舌打ちをし『手加減せぇや白豚ぁあ!?』と罵っていた。
あまりにも他の参加者と食べるペースが違いすぎる。
テレビ番組だったらカットしての編集もできるがぶっつけ本番大会では無理だ。
このオープンのお遊びでそんな本気だすなよと。
幸いスポンサーは大喜びで拍手しているので問題はなさそうだが……。
「ふぅ……」
しかし賞金一万円とは少ない。
トロフィーを貰えるのは良い。 ポスターなどで広告費も入るし次回もなんらかの形で呼ばれるだろう。
大食いタレントのトップと言っても若手芸人に毛が生えた程度のギャラしかないのだ。
大食い全盛期の頃なら20万30万は当たり前だったのに。
大食いタレントへの風潮は厳しい。 特に日本では。
そりゃみんなウィチューブに行くわけだ。
『白木 琢磨』の所属事務所は決して大きくない。
株式会社EATTLE。
大食いバトル大好き社長が一代で作った新しい会社である。
存外大食いタレントの起用とは難しい。
まず月の食費だ。
雇用条件で月の食費を会社が持つのだが、なんと平均30万である。
白木琢磨に至っては50~100万とぶっ飛んでいる。
そりゃ案件漬けにでもしたくなる。
もっとCM案件がくれば嬉しいのだが、なかなか取れない。
実力はあるのにいまいち人気のでないのが『白木 琢磨』という大食いタレントであった。
「まったく」
なにかきっかけさえあれば。
たしかに太っているクソデブだが、それは個性だ。
タレントとしては十分個性としてなりたつ。
才能あるタレントを活かせない。
それは会社の、マネージャーとしてのプライドを傷つける。
呑気に鼻の下を伸ばし腹黒アイドルと喋っているクソデブをみながら、今後の戦略を練る『斎藤 みほり』の元に大絶叫が飛び込んできた。
「――――うああああああああああああああああああああああ!?!?」
「っ!?」
彼女の視界にも絶叫の元凶が見えた。
逃げ惑う人々、スマホを構え動画をとる人々、その場で腰を抜かす人々。
『斎藤 みほり』は違った。
一人ウィチューブ用に持っていた撮影カメラを構え、即座に前へと向かった。
危険を顧みず自身のタレントの元へと走り出すのだった。
◇◆◇
凄い悲鳴が聞こえた。
あまりにも必死なその声に、まだ大食いをしていた人たちもその手を止めた。
「なに?」
ステージ裏にいた人たちが走り出した。
必死の形相で指を後ろにさしてなにか叫んでいる。
『――――グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
「ひっ」
「「「うああああ!?」」」
ステージ上に上がった乱入者が怒りの咆哮を上げた。
大気がビリビリと震える。
肌がひりつくほどの怒りの咆哮。
大食い中だった参加者は恐慌状態で逃げ惑う。
たくさん残っているローストポーク丼がぶちまけられた。
もったいない。
「クマさんブヒ」
それは大きな赤熊だった。
はく製にされた熊は茶色かった。
山の主は大きな赤熊だと、山の主の怒りに触れるぞと。おばちゃんたちが騒いでたっけ。
「ひぃやっ、たすっ、けて……」
水樹姫が咆哮に当てられて腰を抜かしてしまったらしい。
どうしよう?
抱っこしたら炎上しないかな?
お姫様抱っこならギリ許されないだろうか。
『ガァアアッ!』
速い!
熊の走る速度は時速60キロを超えると言われているけど、超巨体が一瞬で距離を潰してくる。
「きゃああああ!?」
俺は気づいたら泣き叫ぶ彼女の前に飛び出していた。
「――っ白豚ああ!?」
凝縮される時間の中で、カメラを構え走っているみほりんが見えた。
珍しく心配した表情をしている。
だから俺は心配するなとサムズアップしておく。
「はぁああああああああああああ!!」
『グルッゥアア!?』
四足歩行で疾駆してきた赤熊の突進を迎え撃つ。
まさか人生で熊と相撲をとる日がくるとは思わなかった。
ぶつかり合いの衝撃に全身の肉が揺れた。
腰を落とし足を踏ん張り耐える。
下から頭で押し上げるような突進を見せた赤熊は驚いたように顔を上げた。
「でかいブヒ」
身長は同じくらいか、体重は向こうの方が上だろう。
300キロ以上あるんじゃないかな?
異世界でメッテジと対峙してなかったら泣き叫んで逃げてたと思う。
「ついてなかったな?」
『グルル?』
負ける気がしない。
体が力で満ちているから。
こちらの世界でもミリアナ様の加護は健在だ。
【CP魔法】による身体強化が俺に全能感を与える。
美味しい料理を食べたばかりだからだろうか?
漲ってるぜッ!
「はぁああああああ!!」
『グゥラァッ!?』
爪でひっかけようとした腕を払い鼻っ柱に張り手をかます。
『ガッ――』
体勢を崩した赤熊の腕をとり一本背負い。
ステージ外へと投げ飛ばす!
「ぁ」
みほりんの元へ投げ飛ばしてしまったが、ワザとじゃないよ。
そんな睨まないで!?
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