第16話 洗礼


 「うひぃ……」


 俺はポーメリウス迷宮の洗礼を受けていた。

 街の中心に存在するポータルと呼ばれる次元の歪を進むと、待っていたのは樹海だった。

 背の高い樹木が乱立し、足元は腐葉土のようだ。

 進むごとに体重で地面がわずかに沈む。

 膝にはいいし、独特のにおいも嫌いではない。

 虫の行列がわらわらと進んでいる。


 ダンジョンにも虫がいるとは……!


「虫は嫌ブヒ……」


 単体なら別に平気なのだけど。

 こう群れて動かれると、気持ち悪いんだよね……。


「あ、コンコロ?」


 辺りを警戒しながらゆっくりと進んでいく。

 魔物の群れが飛び出してくるようなこともなく、低木に最近いっぱい食べたコンコロに似た果物がなっていた。

 小さいウリのような果物だ。

 食べてみると青臭さと僅かな甘さがある。

 含まれている水分も多そうだ。

 これがダンジョンの中にあるなら非常食はいらないかな?


 ちなみに1個あたりのCPは約50だ。

 地球で取れるウリは35カロリーくらいだったはず。

 甘みもあるし少し多いのかもしれない。

 摘み食いをしながら迷宮を進んでいく。


「ん?」


 正面の木の陰に植物の葉が見えるのだが、なんだか怪しい。

 直感、フードファイターの感だろうか? ミリアナ様の加護のおかげかもしれないが、その植物に生命力を感じる。


「……」


 俺は魔剣『グラビトン』を両手で構え慎重に進む。

 

「ッ! ――ぶひぃいいい!!」


 予想通り。

 敵の攻撃範囲に入った途端、植物に擬態していた魔物は襲い掛かってきた。

 横なぎに振るったグラビトンの鋭い刃が敵を胴体から両断する。

 それはまるで巨大な玉ねぎのような魔物であった。


「はぁっ、ビックリしたぁ……」


 一人での初戦闘。

 緊張した。 

 しかしグラビトン、いいねぇ!

 今までの薪割り用の片手斧と違ってリーチが長い。

 高身長の自分が使えばよけいにだ。

 【CP魔法】による補助も大きい。

 身体強化を常時得ているのだから。


 ただしCPを消費している上にお腹がすくのも早い気がする。


「うーん、食べれそうだなぁ」


 倒した魔物は大きな玉ねぎのような形をしている。

 葉っぱはビーツの葉のようで紫色をしている。

 真っ二つにした胴体部分は逆に白い。

 外周の部分は擬態用なのか玉ねぎの皮というか樹皮のような感じである。


 ずっしりと重い。

 もしこれが食べられるなら30人前くらいのサラダは作れそうだな。

 

「うーん、反省」


 狩った魔物を入れる袋がなかった。

 とりあえず大根を持つように葉の部分の付け根を持って持ち上げてみる。

 胴体の下部に葉っぱでできた足が4つあった。 ちょっと可愛いくて笑える。

 しかし、両手斧にこの魔物でもう手がふさがってしまった。

 台車とかあればべんりだなぁ。あぁでも道があまりよくないか。

 バンダナおじさんに魔法の鞄でもないか聞いてみようかな? 

 今日は様子見だしもう帰ろう。


 初ポーメリウス迷宮の収穫は大きな玉ねぎの魔物でした。


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