夢のようなお話

「グレン様。この状況は、いったい……」

「ルイス。紹介するよ。これがうちの妹と弟だ」

「はあ……」


 昔からアルバーン公爵邸に出入りしていたルイス。

 もちろん、ミリィとクラークがグレンの妹と弟であることは知っている。

 紹介する、という言葉を使ったグレンの意図がわからず、ルイスは困惑する。

 ルイスの困惑が伝わったのだろう。グレンは軽くため息をついてから、説明を始める。


「……ミリィは、一部では麗しの獣人お姉さまなんて言われてるらしいが、こっちが素だ。クラークも、外ではもっと愛想がいいが、家ではこう。二人とも、家族の前ではこんな感じなんだ」


 グレンが言うには、ミリィとクラークは、外行き用の顔と素の自分を、しっかり使い分けているそうだ。

 流石は公爵家の人間、といったところか。

 外でのミリィは、女騎士志望のキリっとしたクール獣人美女。

 クラークは、笑顔が可愛い癒し系獣人少年。

 しかし、本来の姿は反対ともいえるようで。

 ミリィは「お義姉さま」と繰り返しながら取り乱す、クールビューティーの面影もない女子で、クラークはやや不愛想にも見えるクール系男子だったのだ。


「……まあ、家族だからこそ知る姿、ってやつだ。驚かせたかもしれないが、うちの妹と弟のことも、よろしく頼むよ。二人とも、きみのことを大歓迎してるから」

「家族……」

「ああ。きみはもう、俺たちの家族だ」


 グレン、ミリィ、クラークの三人が、ルイスにあたたかな視線を送る。

 狼耳系美形獣人三兄弟の視線を一身に受けたルイスは、あまりの輝きに「私、場違いじゃない!?」となどと思ったりもした。

 ルイスもふわふわ金髪小柄美人であるが、元より見目のいい者が多い中でもさらに美形のこの獣人三兄弟には叶わない。

 グレンだけでもきらっきらなのに、三人揃うともはや眩しい。

 目がくらみそうになりながらも、ルイスはグレンの言葉を噛みしめていた。


 家族、だから。

 その言葉に、ルイスの胸がほわんと温かくなる。

 婚約から間もない、今日この家に越してきたばかりのルイスに、ミリィとクラークは素の姿を見せてくれた。

 家族として認めてもらえたようで、嬉しかった。


「その……実は私は、お二人にはあまり好かれていないのでは、と思っていたので、正直驚きましたが……。家族、歓迎されている、と聞いて安心しました」


 ルイスの言葉に、ミリィとクラークがはっとする。

 二人はこれまでルイスに冷たく接し、無視にも近い態度をとってきた。

 自分は嫌われている。ルイスにそう思わせるには、十分な対応であった。


「ごめんなさい、誤解なのお義姉さまぁ!」

「うん、誤解。そう思わせるようなことをしたのは、こっちだけども」

「私たち、本当は、お義姉さまのことが大好きで……。二人に結婚して欲しいと思っていたの。でも、いつかお兄様が他の女性を番として連れてきたらと思うと、怖くて……」

「兄さんの恋心がきれいさっぱり消えて、他の女性を隣におく。僕たちは獣人だから、そんな未来が来てもおかしくない。だから、あえてルイス義姉さんとは距離をおいていたんだ」


 ミリィとクラークは語った。

 四人で仲良く過ごしていたのに、グレンが番を見つけ、縁が切れてしまったら。

 ルイスを悲しませることになってしまったら。

 ルイスにいて欲しかった場所に、他の女性が立つことになったら。

 恋も愛も番に塗り替えられて、ルイスを忘れる兄の姿を見ることになってしまったら。

 そう思うと、怖くてルイスに近づけなくなってしまったそうだ。

 

 ミリィとクラークも、仲のいい二人が番システムに引き裂かれることを恐れていたのだ。

 番だと判明する前のルイスとグレンが、そうだったように。

 ルイスなど、番システムの恐怖に追い詰められすぎて、無理に彼に関係を迫ったほどである。

 怖いのは、当事者だけではなかったのだ。


「……そう、だったのですね」

「うん。だから、兄さんの番だとわかった今、僕たちがルイス義姉さんを避ける理由はない。大歓迎」

「ルイスお義姉さまが番だとわかって、家族一同大盛り上がりだったのよ! 初恋の君が番だったなんて、獣人にとっては夢のような話……。お兄様、本当によくやりましたわ! ルイスお義姉さま、今までごめんなさい。本当は、こうして『お義姉さま』と呼びたいと、ずっと思っていたの」

「クラーク様、ミリィ様……」

「『様』はいらない」

「ミリィと呼んで、お義姉さま!」

「で、では……」


 こほん、とルイスが咳ばらいをする。


「クラーク。ミリィ。これから、よろしくお願いします」


 ルイスの緑の瞳が、優しく細められる。

 彼らは、小柄で優しい雰囲気のルイスのことが、昔から大好きだった。

 兄の番のふわっとした微笑みに、ずっと二人の仲を応援していた弟妹は悶えた。

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