紙とキリトリ線の扉たち

暁野スミレ

1日 アドベントカレンダー

 マリちゃんの家に、アドベントカレンダーが飾られた。


 マリちゃんは小学4年生。

 ついこの前、お母さんと一緒にカレンダーを買って、一緒に組み立てたばかりだった。

 紙の仕切りの隙間に、色んな種類のオーナメントを仕舞う。箱型のカレンダーの口を糊付けしながら、お母さんはマリちゃんにこう言った。


「12月になったら、毎日1つずつ扉を開けましょう。それで、中に入っていた物をツリーに飾るのよ」


 リビングには、マリちゃんの背丈ほどのツリーが、まださらな様子で置かれている。


「クリスマスには、きっと素敵なツリーになるわね」


 お母さんが微笑んでいる。お母さんが笑っているのが嬉しくて、マリちゃんもにっこり笑った。


 そうして12月1日。

 マリちゃんは誰よりも早く起き出し、急いでカレンダーを開けに行った。

 紙とキリトリ線で出来た扉が、ぱつッと音を立てて開く。


 中には、マリちゃんの親指くらい小さな、木彫りの人形が転がっていた。

 マリちゃんが喜んで取り出そうとした、その瞬間。人形は突然、むくりと起き上がった。


『マリちゃん、どうしよう』


 それから人形は、大声で泣き出した。

 マリちゃんは驚くやら呆れるやら。しばらくの間人形をなだめ続けた。


、ってやつなんだ。

 このカレンダーだけ両面に扉があるんだよ。

 みんな好き勝手に反対の扉から出てっちゃって、残ったのはこの人形一体だけさ』


 ようやく泣き止んだ人形が、こう言った。

 確かに、開けた扉の中を覗くと、壁にもう一つ扉があるのが見える。


『せめて、この人形だけでもツリーに飾っておくれよ』


 マリちゃんは言われた通りに人形を吊るす。

 出来上がったのは、随分と寂しいクリスマスツリーだった。

 お母さんがこれを見たら、どんな顔をするだろう。マリちゃんの胸が、ぎゅっとした。


「人形さん。マリに任せて」

『えっ?』


 戸惑う人形を前に、マリちゃんははきはきとした声でこう宣言したのだった。


「マリが、いなくなった飾りを見つけるわ」

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