第4話 酔いどれエルフと光の呑み友2 302号室ダンタリアンさん登場
犬神さんの住んでいる部屋は、少し古い3LDKのマンション、マンション名はドランカーレジデンス。犬神さんは部屋やネカフェ、コアワーキングスペース、カフェ、図書館の勉強室等様々なところでノートパソコンとタブレットを1台を持ち歩いて仕事をしている。所謂ノマドワーカー、最近は部屋で仕事をしない理由はセラさんが動画を撮影していたりして気が散るから。
それ以外にもこのマンションには少しクセの強い住人達が住んでいるのも理由だったりする。マンション名の通りか、酒好きが吸い寄せられているのだ。
そんな事は知らないセラさんは今日も今日とて小遣い稼ぎの動画配信。
「本日は、この新製品の酎ハイというお酒をだな! 飲んでみようと思うんだ! リスナーさんは飲んだ事あるか? あ、犬神さんは何処かだと? 煩いからとお外に仕事に出かけて行ってしまったぞ! 私の世界ではそんなふらりと何処かに行って仕事をするなんて考えた事なかったんだがな? キャラ設定痛いですって? 全く事実なんだがな。まぁ、では改めて」
ぴんぽーん!
「あれ、誰か来訪者みたいだ。一人の時は出なくていいと犬神さんに言われているので居留守という少し心が痛む技を使う事としよう」
ぴんぽーん! ピンポーン! ぴんぽーん!
“なってるよ!”
“NHKの集金?”
“宗教勧誘?”
「なんだろうな? 犬神さんなら鍵を持っているハズだし、もしかして忘れちゃったのか? ちょっと見てくるとしよう」
“仕込みか?”
玄関に向かうセラさんは覗き穴から外を覗いてみるけど誰もいない。気のせいかと思ったら再びピンポーンとインターホンが鳴るので、扉を開けてみたところ、
「うぇーい! 犬ちゃん飲もうぜぇ! お? 誰君? えっ? 犬ちゃん、女連れ込んでんのぉ!! マジでぇ! よく見たら可愛いじゃん? 名前なんつーの? アタシに教えて? よねぇねぇ!」
猛烈な勢いでピンク色の髪をした見知らぬ女性が普通に部屋に入ってくる。さすがにこの家は犬神さんの家、まさに城。その城に曲者を入れてしまってはいけない。いけないのだが、ずんずんと入ってきて、
「うぇーい! アタシのボトルキープはどこじゃい! お、アタシのじゃないけど魔王があった。これ呑も」
「ダメに決まってるだろ! それは犬神さんの呑んじゃいけないところにあるお酒じゃないか!」
“なんだ新キャラか?”
“セラちゃんとは違った魅力”
「ん? なんだこれ? ははーん、流行りの動画配信ってやつか? うぇーい! みんな元気ぃ? アタシは! みんなの? アタシの? だーんたーりあーん! 犬ちゃんの部屋の下に住んでる302号室の住人さ!」
“個人情報とは……”
“今から行きます”
「おーこいこい! 住所は」
「何言ってるんだ貴様! 犬神さんに私が追い出されちゃうだろ!」
「おう! 犬ちゃんがきたらアタシがやっつけてやんよ! 上等じゃああい!」
“二人目の光の呑み友だ!
“ダンタリアンお姉さま”
「ええッと確か犬ちゃんの家はこの辺に! あったあった! あいつ、几帳面だからオツマミの場所とかも綺麗に整頓されてんの!! ウケる―!」
“犬神さん、カッコいい! 結婚して”
“ならセラさんは俺が貰う”
「ああー! 勝手に戸棚をいじくりまわしてはいけないだろ! 犬神さんが本気で怒ったらどうするんだ! すまない、配信はイレギュラーの為、終了させていただく。あー、投げ銭ありがとうだぞ! あー、5000円も。それじゃあ、また別日に配信するからな」
コメント欄にガチのイレギュラー? 警察事案? 等と書かれているのを見て、セラさんは青い顔でこのダンタリアンを名乗る女性を見る。年の頃は二十代前半くらいか? 縦割れしているパープルアイはカラコンか、それとも本当の瞳なのか見つめていると吸い込まれそうになる。
「スルメ食おうぜぇ!」
「あの、で、出て行ってくれないか? 知らない人を入れちゃダメなんだ!」
真顔になるとダンタリアンさんはスマホを取り出し、一枚の写真を見せてくれる。そこには犬神さんとダンタリアンさん、そして他数人見知らぬ人達と野外でビールを片手にBBQをしている写真。
「これでもアタシが知らない人だと言うのかい? これはこの前の町内会BBQだぜぇ! ええっと、名前は?」
「せ、セラだ」
「セラちゃんね! まぁ、呑もうぜ! 魔王は最高の焼酎なんだから!」
「あぁ、それは犬神さんの!」
「いいのいいの! 犬ちゃんはアタシのマブダチなんだからさ」
そう言って犬神さんの部屋にある焼酎徳利を持ってきて、陶器カップにちょろちょろと魔王を注ぐ。そしてライターで炙ったスルメにマヨネーズと七味をダンタリアンさんは手際よく用意する。
「ほらかんぱーい!」
「あぁ、本当に大丈夫なんだろうな? かんぱい。わ、私焼酎は少し苦手で……ふぁああああ! おいしぃい! なんだこれぇええ!」
「はまったね! 基本クセが強いと言われている芋焼酎だけど魔王はフルーティーな香りでスッキリしてんのさ! 犬ちゃんは大根おろしだなんて表現するけどまぁ辛口のお酒だもんね。まぁこいつがスルメとよく合うのさ! 飲みねぇ、喰いねぇ!」
「いただこう!」
そう、二人は犬神さんが大事に取ってい残りストック4の魔王の1升瓶を開けて酒盛りを始めてしまったのである。そして酒カスもとい、酔いどれエルフのセラさんは一度その味を知ってしまうともう止められなかった。いい酒は回らないなんて言い出した者がいるが、焼酎などのスピリッツは意外と回りにくい。そして飲みやすいとなればどんどん飲み続け、ダンタリアンさんとも打ち解けていく。
「ダンタリアンさんは普段なにしてるんだ?」
「えー、アタシ? まぁ、人に言えない事? なぁーんちゃって! ウケるぅ! ぎゃははははあ! 魔王はさ、水で割ってもうまいんだぜぇ!」
全くもってダンタリアンさんの全体像が出てこない中で水割りを渡してくれるダンタリアンさん。
水割りの魔王、それに口をつけるセラさん。加水された事で味と香りが広がる。そう、驚くほどに上品なそれに俯いて感動。
「まったくもってこの世界のお酒という奴は私をどれだけ酔わせれば気が住むんだ! おきゃわりぃ!」
「呑むねぇ! はいどぞぉ」
「ありがとうだ!」
セラさんの住処、精霊達の住まうティルナノでもこんなお酒は存在しない。というか魔王なんて名前のお酒を出せるわけがない。そんなお酒を精霊達が作ったらその存在を消滅させられるだろう。
「あー、するめおいひぃ」
セラさんとダンタリアンさんは一升瓶の魔王を半分以上空にしたあげく、家主の犬神さんが買い貯めているオツマミを食い散らかす。
現在夕方の16時半。犬神さんは基本的に朝早く起きて早めに寝る。そして仕事の時間もメリハリをつけているので17時前には切り上げて帰ってくる。
もちろん酔っぱらっているセラさんはそんな事に気づいていない。
ガチャ。
「ただいま」
犬神さんの声が響く。するとダンタリアンさんがセラさんを見てニヤりと笑った。何事かと思った時、
「いやぁあ悪いねぇ! こんないいお酒、飲ませてもらってさぁ!」
「えぇ、ダンタリアンさんが飲もうって言ったんじゃないかぁ!」
「まぁ、それ俺の酒なんだけどな。しかも開けんなって言ってたやつな?」
そこには、心底ゴミクズを見るような目でセラさんとダンタリアンさんを見る犬神さんの表情。犬神さんは部屋にあるリカーラックからブランデーを取り出すとロックアイスを一つブランデーグラスに入れてそれを一口飲み、じーっと二人を見つめる。
「犬ちゃん、いつものレミーマルタン?」
「ふっ」
鼻で笑う犬神さん、怒っていなさそうと思ったセラさんは魔王の入ったグラスを犬神さんに見せる。
「犬神さん、このお酒すっごく美味しいぞ! 手に持っているのはわらび餅か? シメによさそうだな!」
そう言うセラさんに犬神さんはにっこりと微笑む。言葉はいらない、そんな犬神さんを見てふぁああああとセラさんは嬉しくなり、何かを言おうとした時。
「続けろよ酒カス共」
そう、犬神さんは呑んでいるのだ。酒カスと化した二人を肴にブランデーを飲んでいる。要するに激おこな状態であるという事。上品にブランデーグラスを持つと舐めるように一口飲んで、静かに見つめる。そんな犬神さんを見ているとセラさんは酔いが醒めてくる。
「あのですね? これはですね……」
「出てけよ。このわらび餅やるからこの部屋での生活のシメに食えよ」
「うわーん、ごめんなさーい! 犬神さーん!」
「出てけ」
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