第2話 酔いどれエルフの定食屋飲み

スタジアムジャンパーを羽織り、ニット帽をかぶり、サングラスをつけた肌が妙に白く、スタイルの良い女性。彼女はおもむろに取り出した千円札を券売機に入れる。選んだ物は、サバの味噌煮定食。そしてハイボール。


 周囲の人々を警戒しながら定食が出来上がるのを待っている。今か、今かと出来上がるのを待っていると、


「ハイボールのお客様!」


 と呼ばれ、自分の事だと気づくと、定食と一緒に食べたかった為、少し閉口する。しかし、氷が溶けてぬるくなるのもアレかとグイとジョッキを上げて飲み干す。


「う、うんまぁ!」


 半分程飲み干したところで、「鯖の味噌煮定食のお客様ぁ」と呼び出しがかかった。その女性はサバの味噌煮定食を受け取る側とは逆側、券売機の方に向かうと、再びハイボールの券を購入し、それをサバの味噌煮定食を受け取る時に渡す。


「も、もう1杯」


 彼女は半分に減ったハイボールとサバの味噌煮定食を前にして、手を合わせる。それは命を、魚、お米、麦、野菜と作ってくれた方への感謝を込めて。


「いただきます! まずはサバだな」


 一口分サバの身を切り分けてぱくりと、ハイボール! と思ったが、白米に手を伸ばす。ぱくぱくと食べ、お味噌汁で喉を通す。


「うま……なんなんだこの食べ物は、うますぎる! ご飯のお味噌汁はシメにしようと思っていたのに……おそるべし」


 次はサバの味噌煮でハイボールを楽しむ。目をつぶり、その味わいをかみしめる。1杯目のハイボールがなくなったところで「ハイボールのお客様」と呼ばれるのでそれを受け取り、座ると女性は開眼した。


「昼のみモード突入!」


 説明しよう。昼呑みモードとはお酒を提供するお店。あるいは自宅で居酒屋のように時を過ごす事である。その場合このような定食屋であれば定食を頼む事で、ツマミになるおかずが数品。そしてシメのご飯とお味噌汁までついてきてリーズナブルなのである。

 さらにこれら定食屋の利点がもう一つある。


「この店のお漬物、好きなんだぁ」


 そう、お漬物が食べ放題だったりする。サバをメインに時折お漬物、冷奴などをつつきハイボールを飲み終わる。この昼のみモードにおいて大事な事は泥酔してはならない。ほろ酔いもいけない。お店に迷惑をかけるような事があっては今後酒類提供がされなくなるかもしれないのである。


「もう1杯、と行きたいが、ここいらで上がらせてもらうか」


 ご飯に佃煮とお漬物を乗せてシメにする。お味噌汁と食べるご飯のありがたい事。米粒一つも残さずに食べると、彼女は手を合わせた。


「ご馳走様でした!」


 こんな人目を忍んで定食屋にやってくる彼女は芸能人なのか? それとも正体を明かせないようなシークレットな人物なのか?


「おい! セラ、何してんだお前?」

「あっ! 犬神さん。あぁやめて! 帽子を取らないでぇ」


 ニット帽をはぎ取られた彼女は綺麗な金色の長い髪が風に舞う。それ以上に目を引くのは横に伸びた長い耳。彼女はセラ・ヴィフォ・シュレクトセットはハイエルフである。なんの因果か日本に迷い込んでやっていきた異世界からの住人。

 そして目つきの悪い青年、犬神さんの家に居候している。


「こんなところで何を?」

「それはこっちの台詞だ。さては酒飲んでたな?」

「は、ハイボールを二杯だ。そんなに飲んではいない。昼のみモードをだな」

「なんだそりゃ? 落伍者確定ってか? 笑えねーよ。俺は今日の晩飯の材料を買いに行っていた。今日は皿うどんでビールをきゅーっとやるつもりだが、お前さんはいらんよな?」

「いるに決まってるだろう! いや、いりますぅ! ひとりで飲んでごめんなさぁい!」

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