03_怨虫
『復讐したくはないか。彼女に。そして、相手の彼に』
スマホに、表示されたメッセージに、浦野は顔に影を落とす。
「復讐……彼らに。そんなこと……そんなことできるわけ無いだろ!!!辛いし、苦しいし、悔しいし、苛立たしいけれど……かおるさんは、僕がいた時よりもこの男といるほうが幸せそうなんだ。僕は短い間だったけれど、彼女からもらった。ボッチの僕では、決して味わうことのできない大切な時間を。だから、だから……僕に大切な時間をくれたかおるさんを傷つけるようなことなんてできない!!!」
浦野はスマホに表示されたメッセージに拒絶の意志を示した。彼の心の叫びが、夜の暗闇に響き渡った直後、スマホに再びピコンという音が鳴り響く。それもひっきりなしに何度も鳴り続ける。
『どうしてだ。復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ、復讐しろ』
「うおおお!!!なんだ、音がやまない。何度も何度もメッセージが送られてくる。頭がおかしくなりそうだ!そうだ、スマホの電源を切ってしまおう」
慌てて、浦野は持っていたスマホの電源を消すと、絶え間なく鳴り響いていたスマホの通知音はピタッと止んだ。
「復讐しろ!」
スマホの電源は切った直後、前方から声が聞こえた。鳥肌が立つほど冷たく鋭い声だ。
「声がした……。誰だよ。誰なんだよ。復讐?メッセージを送ってきた人ですか?」
浦野は、恐る恐る下に向けていた視線を声がした前方に向けた。
すると、ムカデ型の化け物が口をがぱっと開け浦野の頭にかぶりつこうとしていた。
「へっ……」
あまりに予想外の光景に、思わず情けない声が漏れる。頭は混乱し、真っ白になっていた。目の前の状況を整理することができず、咄嗟に身体を動かすことができなかった。
何だよ。この化け物。こんな訳の分からない奴に命を奪われるのか。
お、終わった。さよなら。僕を愛してくれたみんな。今、あの世に旅立ちます。
浦野は目を閉じ、終わりの時を待つ。
そして、ムカデ型の化け物は、一瞬で容赦なく浦野の゙かぶりつくと、胴体から引きちぎった。頭部を失った浦野の胴体は、血液を激しく吹き出しながら力なく倒れた。
「遅かった……。また、怨虫による犠牲者が出てしまった」
遅れでやってきたのは、怨虫狩りの一人、明日野佳奈。目の前に、広がる悲惨な光景に拳を握りしめる。ムカデ型の化け物は、悲惨な光景を眺める彼女の隙をつこうとして勢いよく細長い胴体をうねらせて襲い掛かる。
「私をなめないで……」
明日野は、怒りのこもった眼光を輝かせ、ムカデ型の化け物の攻撃を躱すと同時に呟いた。
「怨虫よ。我が矛となれ」
すると、彼女の右手に着いている腕時計のようなものから、巨大な蝶がいきなり出てきたかと思うと、剣の形に瞬時に変形した。
剣と化した怨虫を、明日野は片手で掴むとムカデ型の怨虫に反撃する。剣の切っ先が、容易く硬質な怨虫の身体を引き裂いて、真っ二つにしていく。
身体を引き裂かれたムカデ型の怨虫は、地面に倒れ込み動かなくなる。
「おかしい。身体を真っ二つにしたのに、浄化して消えないなんて……まさか!?」
明日野は、嫌な予感がして周囲を見渡そうとした時だった。横から勢いよく、ムカデの頭が飛び出してき明日野の身体に噛み付く。
「ぐっ!?」
あまりの痛みに悶絶する声を明日野は上げる。
動かないと。このままだとまずい。なに、身体が動かない!?
明日野は、ムカデ型の怨虫に噛まれたところを見ると黒ずんでおり、それが、徐々に全身に広がっているのに気づいた。
毒、怨虫に噛まれたときに毒を注入されてしまった……。体の感覚がなくなって、麻痺してるみたい。
動けなくなった明日野は、なすすべもなくムカデ型の怨虫に身体に包まれ、ギュッと締め付けられる。怨虫の頭部が、捕食しようと明日野の頭に徐々に近づいていく。
明日野は、大きく見開く彼女の目にムカデ型の怨虫が口をしきりに動かす姿が映り込む。彼女の心臓は、死を予感し狂ったように激しく鼓動する。
「何だ、僕の身体に何が起きたんだ。血の中に僕は倒れているのか。何が起こってるのか、分からない。僕の身に何が起こってるんだ……」
ムカデ型の怨虫によって頭部を破壊されたはずの浦野の手足が動く。その様子を建物の屋上から眺め、微笑みを浮かべる女性がいた。
「やはり。彼の中には、あの怨虫が育っていた。さて、実力がどれほどのものか見させてもらうわ」
そう言うと、浦野を観察する女性は、頬に手をやるとニヤリと笑った。
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