12月14日  もう一つの感染症(第四部 感染症に揺れる時代に)

 ラスカルの物語が書かれた背景に、実はもう一つの感染症が何らかの形で関わっていると考えられます。

 作者であるスターリング・ノースは、ラスカルを森へ放した二年後に、ポリオウィルス感染から急性灰白髄炎にかかり、それが原因で足に麻痺が残ってしまったのです。いわゆる小児麻痺です。日本でも赤ちゃんの頃には、混合ワクチンとして、このポリオワクチンを接種しますね。


 原作にスターリングが十二才のクリスマスに長女セオとその夫からプレゼントとしてアイススケート靴をもらったと書かれています。この時の喜びを振り返る場面で、三回の冬をこのスケート靴で楽しめた、足が不自由になり車椅子生活になるまでは……とあります。なので、その年を含め、三回となると、十四、五才の頃と推定されます。

 そう考えると、自伝的小説を書き、自転車の前カゴにラスカルを乗せて疾走していた頃を振り返る気持ちは、どんな特別な思いだっただろうと胸に込み上げるものがあります。


 それでも中には、この病気があったからこそラスカルのお話を書く事になったかもしれないと推察される方もいます。


 もし、足の麻痺が無ければ、その後、起こる第二次世界大戦中、記者として、海外に派遣されていた可能性も考えられるからです。ほんの僅かな事で人の運命は大きく変わってくるものです。


 急性灰白髄炎にかかり、亡くなられる方もいるので、無事に治り、大学へ行けたのはある意味、スターリングの幸運だったのかもしれません。

 病気の療養中は、このお話の中で、口うるさい役で登場する長女のセオが親身になってくれたとの事。もちろん他の家族も、でしょう。


 ちなみにこの作品の舞台となった中西部には、少し前の年代の家族史とも言える「大草原の小さな家」があります。この中で主人公ローラの姉のメアリーが猩紅熱にかかり失明するというのが子ども心にショックだったのを憶えています。

 専門家が調べ、これは猩紅熱(溶連菌感染症)ではなく、ウイルス性脳髄膜炎からくる失明だと、今では結論付けられているそうです。

 溶連菌感染なら、もっと身近なので怖いです。溶連菌は普通の人でも陽性の人は結構いると言われるし、最近も苺舌が子どもの間で流行っていると聞くからです。


 昔でなく今も、たとえコロナが五類になったとしても、感染はずっと人類の課題ですよね。今もインフルエンザ、アデノウイルス等、地元では流行り続けています。


 当たり前の生活が当たり前でない事を目の当たりにした時代を忘れてはならないですね。



 そして病気も人の運命を新たな可能性に向かわせることがある事を思うと、セリアで買ったラスカルの来年の手帳を手に、つくづく不思議な気持ちになります。

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