12月12日  スペイン風邪(第四部 感染症に揺れる時代に)

 スペイン風邪という病気がかつて流行った事は知っていましたが、歴史上最も世界を震撼させる程の感染症とは、この本を読むまで知りませんでした。ペストについては知っていましたが。

「風邪」という語感から、軽いものと間違った解釈をしていました。

 正式な名称はH1N1亜型インフルエンザという事で、インフルエンザに位置づけられます。1918年から1920年流行なので、まさにスターリング少年がラスカルを森から連れて帰った年に流行し始めたのです。


 原作でもこの脅威について書かれてあり、お年寄りの夫婦がスペイン風邪で、周りも知らない間に亡くなっていたという悲劇的なニュースが取り上げられています。夫の方は、井戸のポンプにしがみつき、妻の方はその側でバケツの柄をしっかり握りしめ亡くなっていたという痛ましい出来事。きっと何としてでも水を飲もうとしていたのでしょう。


 その十一月、戦死する人よりスペイン風邪での死者数の方が上回っていたとも……。世界大戦中に、です。


 この辺りは、私達もコロナによる辛い状況を経験してきたからこそ、痛みが伝わってきますよね。しかも現代のようにリモートで何だかんだ出来る世の中ではなかったので、尚の事、きびしかったと思います。それにしてもこの辺の記述がしっかりしているのは、さすがに新聞記者出身なだけありますね。


 スターリングの住んでいるウィスコンシン州は、人口もそんなに多くはない地域。でもここでもスペイン風邪を防ぐ事はできなかったのです。スターリングもスペイン風邪にかかってしまいました。入院が必要な程の重症ではありませんでしたが。

 それでお父さんはどうしたかと言うと、農場を経営している自分の兄、フレッド叔父さんの所にスターリングを預ける事にしたのです。しかも電報一本送る事なく、いきなりの来訪です。いえ、両方の家には当時電話があったんです。

 しかも、当然という感じだったそうで。

(汗)

 これには、当の病人のスターリング少年でさえ、子どもながらに気を使っています。それはそうですよね。

 例えば、もしコロナ禍で「ウチの子がコロナになったから、そして自分はひとり親で仕事忙しいから、しばらく預かってくれるよね」と、いきなり訪ねて来られたら、頭の中が、?でいっぱいになります。


 でもこの家は、快くスターリングを受け入れてくれるのです。フレッド叔父さんは訪問した際は留守でしたが。でも例えワンマンで自信過剰で、時には心無い言葉も言う問題人物でも(^_^;)、基本、面倒見の良い人。リリー叔母さんは聖母のような人で、母親を早くになくしたスターリングを息子のように思い、気にかけてくれています。すぐにスターリングに手作りのパンのトーストとコーヒーを用意してくれます。そして病気のスターリングを暖かな部屋で休ませてくれたのです。自分の息子達は、寒い部屋を使っているのに。このリリー叔母さんの心遣いにより、スターリングは、すぐに回復し、元気になりました。

 

 この、温かく介抱してもらうところは、本当に心が安らぐのです。アニメの方でもこの農場は出てきますが、スターリングが農場を訪れる理由は違っていました。話がややこしくなるからでしょうね。


 そして初めて読んだ時にはお父さんの非常識な行動に驚かされたのですが、コロナの時代を経て思うのは、スターリングのお父さんも決死の覚悟だったのではないかという事です。

 例え非常識と思われても息子を守りたい一心だったのかもしれません。

 ここでもし父親である自分までスペイン風邪にかかってしまったら、前述の老夫婦みたいな事になりかねません。

 コロナの流行初期にも、色々ありましたよね。一人暮らしで重症化し亡くなってしまった方もいたし、交通機関も利用できず病院にも行けなかったり、タクシーを利用した人が非難されたり。

 スターリングのお父さんにとっては、妻が若くして病死し、長男も徴兵されているので、何としてでもスターリングを守りたかったのかもしれませんね。

 でも農場でも、アライグマのラスカルと離れようとしないスターリング。実はアライグマは感染症に大きく関わる動物でもあるのですが……。それは次回へ。





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