12月8日  車と馬の競争(第二部 古い世界、新しい世界)

 車と馬車の競争。今、考えるとふざけて聞こえますが、当時は両方が移動手段として使われていた時代です。村はこの噂で持ちきりになり、どちらが勝つか賭ける人も現れます。



 始まりはちょっとしたご近所トラブルでした。元々そんなに仲良くなかったであろう、サーマン師とコンウェイさん。サーマン師は、主流ではない宗教の宗派に属していて、少し癇癪持ち。自慢の車に乗っています。そしてスターリング少年の飼っているアライグマ、ラスカルを目の敵にしています。

 コンウェイさんは農場主で、農場には自慢の名馬、ドニーブルックがいます。このドニーブルックという馬に、ラスカルはとても懐いています。ドニーブルックもラスカルが大好きです。馬とアライグマがいつも仲が良いわけではなく、スターリングの叔父さんの経営する農場では、気性の激しい馬とラスカルが喧嘩になりかけた事もありました。

 ドニーブルックはとても優しい馬なので、小さくて、ちょこまかうるさいラスカルとでも仲良くできるんですね。また、馬が犬のような小さな動物と仲良くなる習性がある事も、この本の中には書かれています。


 とは言え、馬の飼い主、コンウェイさんは、ラスカルが畑の作物を荒らす事に対し、苦情を訴えに来た人物達の一人ではあるのですが。


 元々、サーマン氏は車好きの馬嫌い、コンウェルさんは馬好きの車嫌いでした。

 それなのにある日、サーマン氏がコンウェイさんを強引に誘って自分の車に乗せると、猛スピードで車を走らせたのです。コンウェイさんは言葉に出来ない位の恐怖を味わいました。

 その仕返しに今度は、コンウェイさんがサーマン氏を馬車に誘い、馬を暴走させ、サーマン氏を恐怖のどん底に突き落とします。


 まぁ、目には目を、どっちもどっちという感じですが。それで結局、みんなの前で車と馬の対決をしようという事になったのです。こうなると、むしろ仲が良いんじゃないかと思うんですが。


 スターリング少年も、この競争の前、ちょっとワクワクした様子。


 もちろんそのままでは、不公平なので、車の方にハンデを与える形で、馬が二周する間に車は四周……のように決めます。


 結局、この勝負は、コンウェイさんが勝ちます。サーマン師の車は、ホラー映画の定番のように、スタートでなかなかエンジンがかからず苦労するうちに、他の箇所も不具合が出てしまったのです。それでも直線コースなら巻き返しも可能な位、サーマン師の車は順調に走ったのです。が、道を曲がるたびにスピードを落とさないといけないという車の弱点が響きました。

 勝利に湧くゴール地点で、名馬ドニーブルックは、アライグマのラスカルに鼻をこすりつけ、喜びを分かち合うのでした。



 こうしてコンウェイさんに勝利の女神は微笑みます。

 実は、コンウェイさんの車嫌いにも、もっともな理由があったのです。遠くからでも車のクラクションの音がすると、農場の馬達はひどく怯えるのです。馬はデリケートな動物ですからね。

 先月、日本でも金沢競馬場でレース中に照明が切れるという驚くようなニュースが報道されました。驚いた馬により落馬した騎手が三名、骨折した馬も一頭いたそうです。


 これは個人的な考えですが、スターリングが少年だった時代、町の人達も、いずれは馬でなく、車が移動、輸送を担う時代が来ると薄々わかっていたんですよね。それでいてのこのイベントへの盛り上がりです。


 でも、だからこそ、馬の勝利に喜び、優しい名馬ドニーブルックを称賛し、快い秋の日を過ごしたのかなぁと。

 一つの時代の終わりを飾る人、物、出来事というのは、不思議と心を打ち、忘れられないものなので。





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