#24
オリベさんを
「まずは縫い目で解体して。
次いで、それぞれの寸法を測ります。
セラさん、数字を覚えましたか?」
「私覚えたよ!」
「え? ミリア?」
「うん!」
ちょっとびっくりしてセラさんの方を見ると。
「大丈夫。100までの数字を書けるし読めるわ。
あとは簡単な足し算・引き算も。
この調子じゃ、すぐ私も置いて行かれそうね」
「ちなみにあたしは全然だ」
「シアはもう少し勉強しなさい」
アリシアさんの頭が残念なのは仕方がないとして。
「じゃあミリア。
解体した生地の寸法を測って、セラさんに報告して。
セラさんはその数字を記録して。
ミリア。寸法を測るとき、気になったことがあったら、オリベさんに聞いて」
「うんわかった!」
「ええ、わかったわ」
ミリアは元気が良くて宜しい。
セラさんは頼りになりそうな雰囲気が安心感を誘う。
アリシアさんは、……もう賑やかしで良いでしょう。邪魔になったら別の仕事をしてもらうから。
生地の解体が終わったら、次いで型紙作り。
「ミリア、厚紙にその寸法で型を描いて型紙を作るんだ。その際
「うんわかった!」
「……型紙?」
「ああ、これがオリベさんたちの知らない知識・その二だ」
「その二、なの?」
「その一はすぐにわかる」
見ていると、ミリアは迷うことなく型を描き出した。
「何故寸法がわかる? 測り糸も使っていないのに」
「答えはセラさんの持っている数字です。
セラさん、見せてあげてください」
メモに記されたたくさんの数字。意味が分からなければ、十分暗号である。
「この数字がここの長さ。この数字はこちらの長さです。
これがその一、ということです。
測り糸を使っていると、どの糸がどの長さを表しているかわからなくなりますし、一つの糸は一つの寸法の為にしか使えません。またその糸を紛失してしまったら、また測り直しです。
けど、長さの基準を決め、それで測った寸法を数字で記録しておけば、同じ長さをいつでも描くことが出来るんです」
「そんなものが……」
「あの定規。あれに目盛が付いていて、その目盛上の数字をミリアが読み上げてセラさんが記録しました。それで事足ります。
今回は既に形として作られた服から採寸し直していますけど、同じように人間相手でも同じことが出来ます。
……こうして型紙が出来上がりました。後はこのサイズで生地を切り、縫い合わせれば服が出来ます。
型紙さえあれば、20どころか200でも2,000でも、同じサイズの服が作れることがおわかりになるのではないでしょうか」
「確かにその通りだ。こんなやり方があったなんて……」
「服が出来上がったら、目盛付き定規もプレゼントします。
それまで貴女はここで、型紙作りのノウハウをしっかり学んでいってください」
「良いのか? こちらとしてはとても助かるが、型紙作りのノウハウを学びそれを店に持ち帰れば、うちの店は孤児院に仕事を依頼する必要がなくなるぞ」
「いいえ、その心配はありません。
言いましたでしょ? 『針子見習いになる為の訓練だ』って。
考えているのは分業です。
採寸は店員、
技術のいる部分の針仕事と仕上げは店の針子。
そうしてそれぞれの領分に仕事を集中すれば、もっとたくさんの仕事をもっと高度に出来るようになるでしょう。
勿論もちろん、その為にはお店の針子さんたちも読み書きと、簡単な計算程度は出来て当然、と言えるようになる必要がありますけどね」
「え?」
「うちは、今はセラさんとミリアだけですが、遠からず全員が読み書き計算が出来るようになります。
つまり、貴女が懸念していた通り『孤児院の子供たちを使えば、専業の針子はいらなくなる』恐れはあるんです。
貴女たちが読み書き計算など不要、と思っているのなら」
◇◆◇ ◆◇◆
オリベさんがカルチャーショックを受けているとき。
「アレク君、いる?」
シンディさんが孤児院を訪れた。
「シンディさん、どうしました?」
「鍛冶師ギルドのギルドマスターが、アレク君に会いたいって」
「おや、こちらから遠からず
いつお邪魔したら良いですか?」
「アレク君の都合が悪くなければだけど、今すぐ良い?」
「呼び出しておいて、今すぐですか。まぁ良いですけど」
ミリアとセラさんに
「あたしも行く」
「え? アリシアさん、どうして?」
「ここにいてもやることがない。
それに、ちょっと剣呑な雰囲気だからな」
「そんなことはありませんよ。別に鍛冶師ギルドはアレク君に喧嘩を売ろうとしている訳では……」
「アレクも今言いかけたが、呼び出した側が『今すぐ』って言っている時点で、喧嘩を売っているようなものだと思うが?」
「それは……」
「アリシアさん、大丈夫です。
俺の知識がギルドの
けど、同道してくれるのなら有り難いです」
そういう訳で、三人で鍛冶師ギルドに向かうことになった。
◇◆◇ ◆◇◆
「貴様が冒険者のアレクか!」
「そういうアンタは一体誰だ?」
着いてそうそう、いかにも
「貴様! ギルドマスターに対する口の利き方を考えろ!」
「そもそも呼び出したのはアンタらだし、自己紹介もせずに俺のことを『貴様』呼ばわりしたのもこのおっさんだ。
勘違いするなよ? 俺は『来てやった』んだ。
無視することも出来たんだからな」
「フン、呼び出しに応じなければ、ギルド傘下の鍛冶師は全て、貴様にナイフ一本売らないよう廻状を回すだけだ」
「ならば俺は余所の町で俺の知識を広める。
ついでに【リックの武具店】に伝えた手押しポンプの技術を引き上げ、余所の町で商品化する。その時に『ハティスの鍛冶師ギルドに売るときは、定価の5割増しで吹っ掛けろ』と指示を出すだろうな。
間違えるな。交渉に使えるカードは、俺の方が多く持っているんだ」
手押しポンプの話がどこまで伝わっているのかはわからなかったが、その発明品の存在は既に知られている
「何だと……。手押しポンプも貴様の発明だというのか?」
「リック! どういうことだ?」
「フン、どうもこうもありゃせんわい。
その小僧は無償またはなるべく安い値段で普及させることを条件に、俺の娘に知識を授けたんだ。
幸いまだ手押しポンプの販売は始まっとらんからな。
小僧が売るなというのなら、俺のところじゃ売れないな」
「ぐぬぬ……」
「で、友好的に話を進める為には、自己紹介からというのが相場だと思うが?」
「フン、確かにその通りじゃわい。それに口の利き方を
儂はギム。この街の鍛冶師たちを統べるギルドマスターじゃ」
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