#10
この世界には魔法があり、精霊(神)が実在すると信じられ、その為多くの自然現象は神と精霊の名のもとに説明がついてしまう。そして説明が付けば、それを魔法で再現出来、結果自然科学の分野を理論的に究明しようとする研究者が存在しなくなっている。
だからこそ、説明のつかない現象は、“神意”または“精霊(神)の悪戯いたずら”で話は終わってしまうのだ。
例えば、静電気は「風精霊の悪戯」、磁気は「地精霊の悪戯」、そして自然発火や(メタンガス等への引火に
★☆★ ☆★☆
さて。石炭の入手が出来たなら、これをコークス化することで使い勝手が更に良くなる。
これは、薪まきを蒸し焼き(無酸素燃焼)して炭化させたものが木炭であるのと同様に、石炭を炭化させたものがコークスだからである。ただ薪より石炭の方が構造的に強固である為、そのままではコークス化し難づらい。結果、粉砕してなるべく小さい粒状にしてから蒸し焼きにする必要がある。つまり、薪より手間がかかるのである。
その一方で、コークスは木炭より高い火力を発揮出来る。つまり、鍛冶師ギルドにとって必需品となる「高火力燃料」として考えた場合、これが理想的なのである。
◇◆◇ ◆◇◆
「親父、調子はどうだい?」
「だから貴様に親父呼ばわりされる覚えはねぇ、と何度言えばわかる?」
「じゃぁ
「帰れ。」
いつもの通りの掛け合いをして、“リックの武具店”に入っていった。
「ちょっと教えてほしいことがある。あと手押しポンプの
「手押しポンプの方は難航している」
手押しポンプが難航している理由は、そもそもこの世界・この時代の鍛冶は基本的に「大きいことは良いことだ」というのが一つの理念になっているからである。
大規模建造物にロマンを求めるのは、いつの時代もどこの世界も共通する技術者
特に難航しているのは
結局、粘土と獣脂で防水シリコン(もどき)を作るアイディアを提供した。耐久性という一点で疑問は残るが、こまめにメンテナンスすることでその性能を維持することが出来るだろう。ついでに「
「で、教えてほしいことってのは?」
「親父さんが鍛冶に使う燃料について、だ」
「……それは鍛冶師ギルドの秘密だが?」
「やっぱそうか。ではその燃料である木炭を供給することが出来るかもしれない、と言ったら? 或いは、木炭以上の火力の燃料を供給出来るかもしれない、という話には興味はないかい?」
「……どこから木炭の存在を嗅ぎ付けてきた? それを供給出来る? どうやって? それに木炭以上の火力の燃料? それは何だ?」
「現時点では秘密。当然だろ? 鍛冶師ギルドだけで知られる木炭と、ギルドでさえ知らない新燃料。この場で明かすことは出来ないよ。
もっとも、今現在では実物はないから、仮に明かすことが出来ても見せられないけどね」
「で、それをどうしようって?」
「本音を言えば、木炭がどの程度世間に知られているのかを知りたかった。結構普通に知られているんなら、親父さんと直接取引を、ってことも考えたんだけどな。
鍛冶師ギルドの
その時が来たら、ギルドに紹介してもらえないか?」
「……良いだろう。但し、その品質を確認してからになるがな」
「当然でしょ。もっとも、それが出来るのは早くても冬のことだろうけどね」
◇◆◇ ◆◇◆
「孤児院改造計画」に於いて行おうと思っているのは、次の通りである。
1. 剣術指南(職業訓練)
2. 読み書きと簡単な計算、そして礼儀作法(職業訓練)
3. 針子の下請け(収入源)
4. 薬草・香草の栽培(収入源)
5. 炭焼きとコークス生成(収入源)
収入源としている技術も、そのまま卒院後を
たとえば、針子の下請けとして一定の評価を得られれば、卒院後元請である服屋に針子見習いで採用され易いだろう。薬草・香草の栽培もそうだ。炭焼きやコークス生成は、その技術そのものが鍛冶師ギルドの秘匿事項だという以上、卒院後はギルドに囲い込まれる可能性が高い。その後はそのまま炭焼きをしても、または鍛冶師見習いとしても生活出来るだろう。
加えて卒院年齢を12歳から14歳に引き上げ、12歳になった院生たちを冒険者登録させ、
そして、導入すべきは浴場であろう。
この世界ではまだ、浴場は一般的ではない。
俺の生家では普通にあったが、水を貯めて入浴するということの意義が理解されていない為、ただの「貴族の
そのうえ水を湯にする燃料代も
だが、その
なら、浴場を設営し毎日入浴させ、残り湯で
そして豊富な水を使えれば、他にも出来ることは増えてくる。
料理にも、洗濯にも、園芸にも。
あとは、トイレの改善。現在は穴を掘りそこに排泄し、それが一定量に達したら埋めて新たなトイレになる穴を掘る。院生たちが一番嫌がる、その為悪いことをした際の罰に使われ易い仕事である。
けど、堆肥としてそれを利用することが出来れば。
大腸菌や寄生虫など、色々問題は多いが、うまく出来ればこれも商品になる。
こうして、「孤児院改造計画」は着々と進んでいくのである。
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