#3




 前世の俺は、もやしっ子~ヒキオタ~事務職の、文系街道を驀進ばくしん(?)していた。


 けど今生では、アウトドアに生きると既に決めている(というかこの世界の文化レベルでは、文系知的な生き様などは望めない)。


 一方で、俺は成長期以前のスパルタ教育に否定的な見解をもっている。


 肉体的には、成長期以前に高度な鍛錬をした場合、成長期が来たとき歪んで身体が作られる。例えばオリンピック選手のように、金メダルを取ればその後一生(コーチや解説者、書籍の印税などで)暮らせるのなら、その競技専用に身体を作っても良いのかもしれない。しかし、一般に生活するのであれば、偏った筋肉や一方向にのみ柔軟な関節など、邪魔物でしかない。


 だから、幼少期はあまり「身体を鍛える」ことを意識すべきではない、ということだ。


 とはいえこの(おそらく)「剣と魔法の世界」では、やはり剣は使える方が良いだろうから、適当な重さ・長さの木の枝を剣に見立てて、前世の居合道の動画を(思い出しながら)参考にして素振りをした。


 それ以外には、村の仲間(俺が領主の庶子とは知られていない)たちと木登りをするときは、必要以上に自分に負荷をかけて登ったり、川遊びの時も周りが呆れるほど力いっぱい泳いだりした。


 山村育ちの子供は、その遊びの中で、柔軟な筋肉を育てるものだ。




 勿論、狩りの練習(ごっこ)もした。


 石を投げたり、手製の弓を使ったり。さすがに獣相手にひのきのぼうを振り回す接近戦は、簡単には出来なかったが。


 代わりに、前世知識を利用して「スリング」(ひも遠心力で石を投げる道具)や「ボーラ」(2つまたは3つの石を紐で繋いで投げることで、標的をからめ捕る道具)などを作り出し、小動物相手の狩りは仲間内で一番の成績を挙げていた。ボーラで鹿を捕えようとして、逆に引き摺られて大人たちに怒られたのは、良い思い出である。




 魔法の訓練もした。


 魔法を使いすぎると意識を失うが、何度かの実験の結果(属性魔法は加護の儀式までは試すことも禁じられているが、共通魔法と無属性魔法の行使は禁じられていなかった)、体内魔力が尽きても体力も精神力も生命力も減ったという印象を受けなかった。だから尽きるまで体内魔力を使い、気絶して回復することで、所謂いわゆる「超回復」による体内魔力の限界値を底上げすることを行った。その結果、将来に副作用等があるかもしれないが……、さすがにそれは考えてもどうしようもないが。




 では、そもそも「魔力」とは?




 魔法書によると、魔力は身体の中と、外にあるのだという。


 前世知識をって翻訳ほんやくすると、体内魔力は「」と称すべきものだろうか?


 では外部にあるモノは?




 ここが、前世地球とこの世界との最大の違いなのだろう。


 前世地球にはなかった「力」。それが「魔力」。




 「力」まりょく(周囲にある魔力)を「力」まりょく(氣)で導いて、「魔法」げんしょうとして解き放つ。それが、この世界の魔法。




 なら、幼少期に成すべき魔法の修行は、まずは(体内の)氣の循環を高めること。


 それから、想像イメージ力を高めること。




 氣の循環、というと一般人には難しい、としか言いようがないが、前世に読んだ「氣」に関するマンガは、その基本は調息ちょうそく瞑想めいそうにある、と記していた。これはつまり、どんな時でもゆっくり呼吸をし、邪念に染まらず落ち着いて考えろ、という哲学論に行き付くのだが、魔法の修行として考えても、結局はそこになる。


 その挙句、高めた氣を使って【生活魔法】などを行使してみれば、ある程度の成果はわかる。




 そして想像力は、正確な知識があると深く、高く膨らませることが出来る。


 古代ギリシア人は天災に神の争いを想像することしか出来なかったが、平成日本人は天災に超大国の秘密兵器を想像出来る。それは人間が使える道具であって、すなわち応用が利く。それだけ多様な事象を派生して連想出来るのだ。


 物理法則に関する知識のレベルは、前世の記憶チートを持つ俺はこの世界の一般人のレベルを超越している。なら当然、この世界の魔法使いが使えない魔法が使えても不思議ではない。




 また、前世知識に照らして考察すると、この世界の属性魔法そのものに対して、一つの疑念が生じている。




 その結果生じた一つの仮説。俺の中でそれが証明されたのは、10歳の加護の儀式の時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る