師匠の上手な使い方!

「はぁ、はぁ、はぁ」

「おらおら、どうした! そんな様じゃウサギも狩れねぇぞ!」


 コーザさんからの指導が開始されたその日、まずやらされたのは走り込みだった。


「戦いに必要なのはまず体力だ。強くなりたきゃ死ぬ気で走れ!」


 最初、弟子入りを渋っていたコーザさんだったが、始まってしまえばそんな事忘れたとばかりの熱烈指導だった。

 カイ曰く「早く挫折して諦めて欲しいんだと思うよ」と言っていたが、そんな訳あるはずがない。何と言っても、この私が弟子入りしたのだ。コーザさんだって嬉しくないはずがないではないか。


「はぁ、はぁ、はぁ。コーザさん、手っ取り早く強くなる方法って無いんですか?」

「嬢ちゃん、そんな都合の良い方法あるはずねぇじゃねぇか」

「う~ん、……ハッ! そう言えば魔物を狩ると魔素を吸収して身体能力が上がるんですよね?」

「上がりはするが、魔物は普通の動物より強いんだ。魔物を狩るためにはまず嬢ちゃんが強くならねぇといけねぇ」


 コーザさんが呆れたように言い放つ。そして私の隣りでカイが「まさか!」と嫌な予感がしたと言わんばかりの顔で私を見つめていた。……何かあったのだろうか?


「コーザさんは今でも魔物を狩ったりしてるんですか?」

「当たり前だ。自警団の仕事は村の見回りだけじゃなく、森に入って魔物の間引きもあるんだからな」

「ふっふっふ。……私に秘策ありだわ!!」


 カイが頭を押さえて俯きだした。体調でも崩したのかしら? 全くカイは軟弱なんだから。


 ……


 …………


 ………………


「おい、嬢ちゃん。これは秘策というより……ただ俺が魔物を貢いでるだけじゃねぇか!」


 そう、これこそが私の秘策である。今、私の目の前ではホーンラビットという魔物がコーザさんの手により縛られ、横たわっている。

 私はこれでも村娘なので、ウサギの1匹や2匹簡単に絞められる。あとはしっかり血抜きして今日の晩御飯のおかずだ。


「こういうやり方は冒険者から嫌われるんだがなぁ」

「なら私は大丈夫ですね。今はまだ冒険者じゃありませんから」

「確かにそう……なのか?」


 ホーンラビットを絞めると不思議な現象が起きた。何と言うかこう、ズズズっと何かが体に入ってくる感覚があるのだ。


「何だか異物感が半端ないですね。この体に何かが入ってくる感覚は慣れる物なんでしょうか?」

「……それだけの感覚があるのなら、嬢ちゃんには才能があるのかもな」


 コーザさん曰く、この異物が体に入ってくる感覚の強さは人それぞれで、魔素の吸収効率が高い人程異物感を強く感じるらしい。


「よし、処理完了ですね。……ではコーザさん、次をお願いします」

「おい、嬢ちゃん。俺は嬢ちゃんの召使いじゃねぇぞ」

「勿論です。コーザさんは私の師匠ですよ?」

「……本当にそう思ってんのかね」


 コーザさんはぶつぶつ文句を言いながらも、森の奥へと入っていった。

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