私の知略に死角なし!
「たのもー! コーザさんは居るかしら!!」
私は扉をバーンと開けて、中に居るであろうコーザさんを呼びつける。ここは村唯一の自警団の建物。ここに勤めているコーザさんに用があってやって来たのだ。
「よう、嬢ちゃん。今日も元気だな。で? 俺に何の用だ?」
「こんにちは、コーザさん。今日はコーザさんの弟子入りに来たの。出来れば訓練は今日からお願いするわ」
「……カイ、説明を頼む」
「ご迷惑をお掛けします。……実は、かくかくしかじかで」
コーザさんが一緒に連れて来たカイに説明を求める。私と話す人はよくこうやってカイに説明を求めて来るのだが、その理由は未だに分からない。……それにしても、「かくかくしかじか」で何故伝わるのだろう? もしかすると男性同士でしか使えない秘伝の会話術でもあるのだろうか。
「相変わらず嬢ちゃんの発想はぶっ飛んでるなぁ。……けど、俺に拳闘士の訓練は無理だ。確かに俺は昔、拳闘士として冒険者をしていたが……俺に人様を指導する資格なんてないんだよ」
「どういうことかしら?」
「俺は才能の壁に打ちのめされ、挫折して今この村の自警団をやってるんだ。そんな俺に、拳闘士の指導なんて出来る訳ないだろう?」
「そんな話どうでもいいわ。訓練はいつから始められるの?」
「……聞いて来たのは嬢ちゃんだろう」
昔、誰かから聞いた話なのだが、人は魔物を倒すと魔物から魔素という物を取り込み強くなれるそうだ。けれど、魔素の吸収効率や吸収できる上限は人によって異なるらしい。
大方、コーザさんはその辺の才能が無くて挫折したのだろう。けれどそれは私にとって何の関係もない。この村で拳闘士の経験があるのはコーザさんだけなのだ。基礎訓練だけでもしれもらえれば、魔素吸収の才能なんてどうだっていい。
「コーザさん、諦めましょう。姉さんは一度言い出したら、それはもう決定事項なんです……」
「お前も苦労してるんだな。……はぁ、分かったよ。交代で見回りに出ている時以外なら訓練をつけてやる」
コーザさんは溜め息を吐くと、ぼやくように弟子入りの許可を出した。
「カイ、どう? 渋るコーザさんを説得したわ。私の知略は完璧でしょう?」
「……姉さんのそれは、知略じゃなくて力業だよ」
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