二人を誘う風…肆…

憶測と謎

 うたげよくあさ、城で起きた事件の答えあわせのために話しあいがなされた。といっても、レオンが寝こんでいる間に彼ぬきで一度おこなわれており、彼はほぼほぼ教えられるがわだったのだが。

『まず、床が抜けたのは明らかに細工さいくのあとがあったのでまちがいなくワナじゃった。光を担当するおぬしが先行することを読んで、あの迷宮に招きいれたのじゃろう。

 サンリアが入ることまでも予想しておったかもしれん。サンリアがセルシアをともにろすこともできたはずじゃが、その場合はさそいの言葉ではなかったかもしれんな』

「セルシアがうらぎり者だっていうアレか。けっきょくウソだったんだよな?」

『むずかしいところじゃな。あの声の主、メイラエのアニマにとっては、本当のことじゃったのかもしれん。

 あれはたしかに、メイラエからセルシアに受けつがれるべきものじゃった。つまり、メイラエのものでもあったということじゃ。正気をうしなっておっては、おのれの剣をうばった者に思えてもおかしくはないのじゃ』

「閉じこめられたって言ってたぞ」

がい妄想もうそうだったってことですね……。

 しかし問題は、僕が音の剣をとりにいちどあのきゅう殿でんに立ちいったとき、あの迷宮にはだれもいなかったということです」

『そう。おそらく、アニマの状態で音の剣が持ちさられたことに気づき、自分で迷宮に入った。

 アニマに反転していたならば、例の入り方もまちがえたかもしれん。そこを待ちうけていたイグラスのサルレイに、ぞうをあおられバケモノのすがたに変えられた。

 つまり、音の剣をうばった者とともにいた女に閉じこめられた、じゃな』

「持ちさられた、いや僕が手にいれた時点で、メーおじはもう正気じゃなかった、と……」

『おぬしを宮殿に誘導ゆうどうした時点で、きっとみはんでいたのじゃろう。でなければただ正当に受けつがれてしまうからの』

 セルシアは怒りにくちびるがわなわなとふるえるのをおさえるようにゆっくりと息をはいた。

「……他人の人生を、なんだと思っているんですかね」

『きゃつらのたいのためには、なんだって道具に成りさがるのじゃ。ぼくに仁義をいてもしかたあるまい』

「思考し行動する自由をうばわれているのか。なげかわしいですね……大義なんて、食えやしないのに」

『その悲運を歌ってやるか? ワシの知る吟遊ぎんゆうじんは、はかなむのもとくいじゃと思うが』

「もう少し、時間が経つか、せめて正体見たりとなるまでは無理ですね!」

 彼はニヤリと笑ったが、両の目は怒りをあらわにしており、その予定はないとなによりもゆうべんに物語っていた。


『……すまぬ、だっせんしたの。

 ああ、ちなみにアニマについてじゃが、メイラエがヨナリアを理想の女の子としてとらえていれば、ああいう名のり方をすることもある。理屈や常識はほぼうしなわれ、感覚がゆうせんされるんじゃな』

「男の子を理想の女の子として見るってどういうことよ…どんだけかわいかったのよ」

「今の僕とうりふたつでしたが」

「……ますます混乱するからやめて?」

 サンリアはセルシアのノースリーブからむきだしになっている、女性というにはたくましすぎるうでのえんそうきんを見ながら首を横にった。

『さて、そして、おそらくサルレイのしかけたワナがまんまと発動した。レオンとサンリアが迷宮に入り、セルシアもあとを追う。

 ワシは先にいちど階下の迷宮を魔力でおおまかに把握はあくしとったし、そこでメイラエがバケモノとなりはてていることも分かっておったから、追わずにまずメイラエの居室をめざした。事態解決の手がかりを探すためじゃ。

 奴の日記は勤勉きんべんではなかったが、その日のことはしるされておった。サルレイが接触してきた日じゃ』

「その時はまだ正気だったってことか?」

『一日ほどていこうできたようじゃな。

 これは恐ろしいことじゃ。メイラエは強い術師じゃったから。サルレイの術師としての能力は、恐らくどのしちしんけんをもしのぐ。おのれの権能けんのうにたいしおよそ万能であると考えられるお前達の剣を、じゃ』

 事前に聞いていたらしいサンリアとセルシアの顔がくもる。レオンはきょとんとした。

「この剣がすごいのか?」

『すごいんじゃよ! そこをまず分かれ! というかちゃんと使いこなせ! というかおぬしはまずはよう本来の形まで成長させよ!』

 じーちゃんが急に怒って羽ばたいたので、レオンはあわてて反射的にごめんごめんとじーちゃんのかた、もとい羽のつけねを押さえた。


『はー。たまに頓狂とんきょうが出るから調子くるうわい。

 ま、正直一対一ではだれも勝てん。剣を集めて対処するしかなかろう。

 しかし、おそらくじゃが、さすがにそこまで強い術師はそうそうおらんじゃろう。だいどう……も、かくやといったところじゃ。

 ……それに、直接対決をさけてことをはこぶ手も考えに入れておく。ワシらの目的は、あくまでイグラスを打ちたおすこと。敵を出しぬき一気にふところに入れば、かの者とたいする場面は今後ないかもしれん。

 もちろん、かんすれば先まわりされつづける可能性もあるが……どのみち進んでみなければ分からん』

「そんなに強いなら、なんで今直接俺らに手を出してこないんだ?」

『ふむ……、……自分に万一にも危険がおよぶのをけているのじゃろう。

 メイラエは強いといっても剣をあやつれるわけではないから攻撃手段にとぼしかった。じゃからこれを利用してバケモノにしたてあげ、剣の主どもを一網いちもうじんにするのが一石二鳥だとでも考えたのじゃろうな』

「僕一人を倒すよりも、僕ら三人をまとめて、ということですね……。しかし、僕が城になど見むきもせず旅立つことも考えられたのでは?」

『そこは、しゃくじゃが、ワシの動きまで読まれていたということかの。黒の男が聞き耳を立てていたのは、城をおぬしらがどうあつかうかを把握せんがため、というところか。

 もし放置し出立するようなら、バケモノを街にときはなつこともしたかもしれんな』

「なにもかも計画のうちってことかよ。なんか、ムカつくな」

『ああ、まちがいなく、バケモノが倒された場合のことも考えているじゃろうな。次の剣か、その次……かならず近いうちにまた仕掛けてくるじゃろう。近さでいえば次は雷、水……』

「おじいさんは違う世界が近いとか遠いとか、分かるんですか?」

『うむ、ちょうの者の役目として、なんどか旅をしておる。メイラエやカオンとも既知きちであった。雷の長も水の長も、無事にしておるといいのじゃが……』

「俺、父さんのこと、いろいろ聞きたいな」

『……すまん、ムリなのじゃ。この体に、すべての記憶をうつすことはできなくての。人となりなどは記憶しているが、個々のエピソードなどは壊滅かいめつしておる。

 道にしたって曖昧あいまいなものじゃ。本来ならもっとすんなりと案内できたはずなんじゃが。

 これは本当にワシの落ち度じゃ、もうしわけない』

「いや、じーちゃんは悪くないだろ。俺もごめん」

 じーちゃんがフクロウになったけいを思いだし、レオンは悪いことをしたなとくちびるをんだ。


『いや……そしてレオンには……こくな話をする。

 メイラエの日記に書かれていたのは、大魔導師サレイが来た、という一文じゃった』

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