第四十七話「そう、さしずめヴァンパイア先輩」
★
「兵どもの夢の跡ってか……」
慌ただしく騒がしかった一日も嘘のように静まり返る校内。
体育館で行っている文化祭閉会式。俺はその場にいなく、日が沈みかけたオレンジ色に色付く景色の中、誰もいない校門前のメインロードをなんとなく歩いていた。
無数の無人模擬店立ち並ぶ中、ゴミを放置している地面は廃墟さながらの散らかし具合。軍艦島かよと悪態をつく。
片手には街指定の業務用ゴミ袋。普通の家庭ゴミではないので役場の専門に電話して持っていってもらう。ただしゴミ袋の値段はお高め。焼却炉がない昨今、大体分別なしで捨てられるのでこれの貢献度は大きい。
ちゃんと分別すればいい話だろと思うだろうが、家庭ゴミと違い量が多い。
第一、後日生徒総出で片付けに取りかかれば大量に廃棄物を量産してしまうので近所に出すことは不可能だ。
どんな祭りでも大中小、客のマナーなど関係なく大漁のゴミが出る。
騒いだ後は汚くて目を背きたくなるもの。ならソウルイーター先輩や緑川先生の負担を軽減できるように予めある適度収集しておく。
お偉方はここ通って帰るんだ。なら綺麗にしておけば学校の心象も多少は良くなるだろう。
綺麗好きとしてはやり甲斐がある後始末。思わずニヤけてしまいそうだ。
一見ただのボランティア活動。でもソウルイーター先輩の後夜祭作戦はなおも進行中のようだが、あの様子だと失敗は明白。ならば休み明け以降まだお昼を共に過ごしているので、その余波をやり過ごす為の布石でもある。毎日呪いめいた愚痴など聞かされたくはない。
嬉々として目に映るものを一通り回収した頃、校舎脇に謎の集団がたむろっているのを偶然目撃する。うちの制服着ているもののアウトロー気味な不真面目さが漂う。
「——おいおいwww ざけんなよ。何の為に私がリスクを侵してまで糞つまんねぇ副委員長として文化祭準備を遅らせたと思っているんだよ。ねえねえ、お前ら遊んでいたの? 今年の文化祭は大盛況、しかも平和そのものじゃないか。私が望んでいたのは混乱と混沌だぞ。こんなテーマパークみたいな秩序じゃねぇよ」
下に置いてあった空き缶を蹴り飛ばす。
中心にいる苦味があるビターチョコのような鼻にかかった低い声。おかっぱ頭で攻撃的な眼差し。
それは木に寄りかかり離れたこちらへも聴こえる声量で罵詈雑言を吐く。女の子らしからぬ汚い言葉使いだが、彼女には似合っていた。
灰原先輩とその一味か……。何処で選別したのかガラ悪い奴らを揃えている。
幸い俺の姿は死角に入っているので向こうから認識されることはない。さりとて関わりたくないな。
「「「すんません姉御!」」」
子分達が一斉に頭を下げる。
「あやまんなよ。情けねえ。折角何かの記念でお偉方や他校の生徒会を招待したこの好機に、武者小路……あの腹立つクソ女の高慢ちきな鼻っ柱折れると目算立てていたのにさ」
「イベントとか模擬店とか、何故か全て事前に仕掛けていたトラブルを解決または回避しているみたいで。色々と策を講じたんですが実を結びませんでした」
側近ぽいモヒカンが丁寧に説明するも黒ずくめの女王様は気分は優れない模様。
「私にみっともない言い訳するな! 世の中結果が全てなんだ。失敗した現実は受けいれる。ただし何らかの落とし前はつけるさね。それが組織だ。——で、他校のチーマー達を呼んで難癖つけて暴れさせる計画はどうなった? あれは外注に金を注いでいるんだ、それなりの成果では満足しないぞ」
「すんません駄目でした。カ量を疑われるどころかよりにもよって武者小路に喧嘩を売り弁舌力を見せつけられて、生徒達の信頼度は増すばかりです」
「はぁ、揃いも揃って役に立たない手駒達だね。この灰原がとことんナメられぱなしで卒業なんてありえないんだ。こうなったらお前達、今、文化祭開幕式で暴れてお偉方達の心象を悪くしてこい。骨は拾ってやるよ」
「そんな⁉」
なるほど、これが悪名高い灰原先輩グループ。表向きは大人しいが裏では汚れ仕事も辞さない集団か。
こいつらが裏で暗躍していたのか?
道理でやけに出来すぎなトラブル続きだった筈だ。あのまま放置していたら成功しなかっただろうな。
うろ覚えだがうちのクラスの見知った奴も数名いる。奴らが問題起こしたのももとを辿れば灰原へ行き着く訳か……。
さてさてどうしたもんかな?
このまま見ぬふりもできるけど文化祭のクライマックスで皆の苦労を台無しにするのは夢見が悪い。ならばやることは一つか……。
「あの〜灰原先輩、お取り込み中申しわけありません」
「ん? ……はいはい、後輩君何ですか? 閉幕だから呼びに来たのなら私は体調不良で欠席ですよ。身体がだるくてここで休んでいたんですって————いや……多分、聞かれていたのなら猫かぶる必要もないかね。一年坊主よ、私達になんかようか?」
「大音量で物騒な話が耳に届いたので、無謀だけど止めてみようかと。丁度よく自主的にごみ掃除の最中だったので」
これみよがしに一杯入ったゴミ袋を見せる。
「おいおい、私達はゴミじゃねえよ。ってかよせよせ、これだけの人数お前程度でどうにかできるわけないだろ三下WWW」
「あんたのくだらねえ個人的プライドの為に生徒達やソウルイーター先輩が築き上げたものを壊すのはいただけない。今日の為に皆頑張ったんだからさ」
「私はあの女が大嫌いなんだよ。だから泣かしたいのさ」
ふざけて言っているぽいけど本気度が見え隠れしていた。
「俺もあの人が融通利かなくて硬すぎて嫌いなんすよ。でもね、努力家なのは認めてますんでそれを妨げる権利はあんたらにはない」
「ほう、武者小路の知り合いか? 私が灰原だって分かって歯向かうのなら容赦しねえよ。まぁどのみち内容聞かれたのなら制裁受けて、ここでの出来事を公言しませんと誓約書を書いてもらわないとならないけど」
「力ずくはポリシーに反するから話し合いで解決を模索しませんかね? 上等ないい豆があるんすよ」
「人間のコミュニケーション手段は古代から拳って相場が決まっている。力で白黒つけるのが単純明快な解決方法さね。珈琲は大好きだが話は別だ」
歯から八重歯がこぼれた。
「女の子らしからぬ野蛮なことで——おや、あの牙見覚えがある。どうやら灰原先輩、何処かでお会いしたことがあるようだ」
「知らねえ。野郎の顔ばかりみているから見分けなんてつくかよ」
あのアマカミされても痛そうな牙。さしずめドラキュラ。思い出した、真夜中校内で襲われそうになったことがある。
「月のない夜以来すっね、ヴァンパイア先輩」
俺は腕にくっきり刻印されている灰原先輩が噛んだ痕をみせる。
「うん? それは……。あんたは夜中床を磨いていた掃除フェチじゃんか」
「妖怪のようにウロウロしていたあんたに言われたくない吸血鬼」
そう、俺達はすでに出会っていた。
俺が夜中に生徒会室を徹底的に清掃していた時、月も出てない闇夜の廊下で。灰原先輩が女子のロッカールームから沢山の荷物を持って出てきたところを遭遇する。
小競り合いのあと霞のように消えた。
それが灰原先輩だったのか。
「姐御、こいつ俺のクラスの蒼山海青ですよ」
「ああ、私の勧誘何度も断ったクソか。なるほどな、だから同じはぐれ者の匂いがするわけだ」
何で夜中の女子更衣室から荷物を持って出てきたのか? 最近起きている窃盗事件。あのソウルイーター先輩を襲った男の仕業だと思っていたけど……もしかして……今までのことがみんな巧みなカモフラージュだったら……。
女子高生の使用済み衣類はネット裏で高く取引されている。ましてその信用度が高ければ相当な金額だ。
そういうことか……全て繋がった。
カリスマ美少女生徒会長である真面目なソウルイーター先輩を闇堕ち(バブみ)させた俺の天然甘やかし好きは罪が重い 神達万丞(かんだちばんしょう) @fortress4
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