第二十八回「学校一の嫌われ者海青はお節介焼き」


  家事が一段落した俺は自室にて明日の予習をしていた。ラジオをつけていると夜二十一時の時報が鳴る。 昔からコーヒー会社が提供しているので、毎日のようにCMが流れているから歌が頭の中にこびりついていた 。


 眠たくなってきた俺はこだわりの珈琲を飲み、背伸びと共に視線を写真へ持って行く。

  壁のコルクボードには藍梨と動物園や遊園地などで撮った時の写真が飾ってあった。白石と黒川も付き合ってくれたので一緒に写ってる写真が多い。アメリカから日本へ帰化したばかりなので未だに友達が少ない藍梨への気遣いだ。

 協力してくれたあいつらには感謝しかない。


 だからだろうか、放課後の出来事が気になっていた。 白石から相談を受けた衣装作りに関してのこと。まだ製作してくれと正式に依頼が来たわけじゃないので早合点はしたくない。

 だから、どうしてあんなにカオスになったか、まだ状況を掴めないので白石と同じ文化祭準備委員の五十嵐へ詳しい話を聞くことにした。

  幾ら五十嵐が真面目ちゃんでもこんな早くには寝ていないだろう。


 俺はスマホで五十嵐の短縮ダイヤルへタッチ、本人が出るまでに珈琲を飲もうとカップへ手を伸ばすと、『こ、こんばんはぁ!』ワンコールも置かず瞬間に出たのでバランスを崩し椅子から落ちる。


「こんばんは。夜分遅くに済まん」

『 ど、どうしたの蒼山君?  いきなり電話してくるなんて珍しい。 いつもならメールでワンクッションを置いてから通話に切り替えるから……』 

「委員長の事だから勉強していたんだろ? 悪いな前触れもなく。ちょっと時間いいか? 相談というか確認というか。今回直接話した方が要点を掌握しやすいと配慮した」 

『 大丈夫だよ。 今休憩中で焼いたクッキーを食べていたところ。 多分蒼山君の聞きたいことは衣装のことだよね? こちらこそごめんなさい。どうしても皆からがやりたいと押し切られて……』

「ただのオープニングセレモニーだろ? 劇やるわけじゃないだろうに。なんでそんなに盛り上がってしまったんだ?」


 五十嵐が作ったクッキーか、興味がある。砂糖多めで美味かろう。


『年に一度のお祭りだから皆バカ騒ぎしたいんでしょ。 思い出作りは学生時代にとって大切なことだから』

「気持ちはわかるけど。俺もあわよくばダチの数を増やして、暗いぼっちの後夜祭もしくはクリスマスは回避したいものだ」


  だが独占欲の強い藍梨が俺を解放してくれる要素がどこにもないので、また家族だけの寂しい年末になりそうだ。

 もみの木の切り出しは任せておけ。陶芸家のじじいに鍛えられた俺の斧テクが火を吹くぜ。

  でもたった一人で年越しの鐘を寂しく聴くよりはましだろう。 ならば今年も妹の為、蕎麦打ちに力が入るというものだ。

 

『私と違って蒼山君は白石君達がいるでしょ。 少数精鋭だけど賑やかだよ』

「友達いないのか?」

『残念ながら。勉強と家族が一杯いて小さい子の面倒を見なきゃいけないから友達作ってる暇がないの。それに私地味だから 中々人の間に入っていけないんだよね』

「そうか。友達は俺だけか。人のこと言えないが中々寂しい学生生活だ」

『え?』

「違うのか?」

『蒼山君、私が友達でいいの?』 


 五十嵐は驚く。俺は変なことくちばしたっか? 白石によく海青は常人と掛け離れたことを思いつくと指摘されるが、的外れではないようだ。


「何度も困ってる時に助けてくれてる。今更だ。これはもう友達、いや親友かもな」

『ありがとう。でもそれは蒼山君も同じでしょ? だから白石君の為に衣装なんとかしようとしている』

「この企画自体無謀だとわかっているが、白石が泣きついてくるんだ。何とか力になってあげたい」


 実は型は古いがミシンは持っている。大量生産に耐えられる企業向け仕様だ。なんなら北海道のおばさんから譲ってもらった 年代物の毛糸編み機も活躍可能だ。

 これならすぐに毛糸のパンツも編めるのだが、心が篭っていないと兄としてダメだろう。


『確かに無謀だよね。せめて統一していれば 楽なんだけど。 勝ち組キラキラネーム集団は誰も私の声を拾ってくれなくて……』

「全部オーダーメイドじゃお金がいくらあっても足んないし、 役員達で制作してもいい恥晒し。最悪学校の印象が悪くなる」

『そうだね。しかも指導してる側の生徒会、さしずめ武者小路生徒会長のせいになってしまうでしょうね。実際は私達実行委員会の暴走。好き放題やった結果なんだけど……』


 やっぱりそうなりますか。

 でもここで生徒会長がダメ出ししたら最悪生徒達のやる気を阻害し生徒会長の 人気の一気にガタ落ちる。

 さりとて、このまま進めたら間違いなく、オープニングで躓く。結果ソウルイーター先輩は笑いもの。このままじゃ真っ赤な鼻のトナカイさんしか就職できないぞ。


 それに五十嵐のこの様子だと、まだまだ問題は山積みのようだ。困ったもんだな。俺は無関係だからいいんだけど、どうにかサポートしてあげたい。


 それにソウルイーター先輩の契約が残っているので、その間、毎日暗い顔をつけ合わせるのも辛いものだ。

 ならば俺のできることは、持てる限りのスキルで陰ながら支えてあげることだけ。 


 俺の大切なお昼休みを取り戻す為にも一肌脱ぐしかないようだ。


「第一、元副会長がいてそのザマは何なんだ? あの人は何をやってた?」

『実は紅羽先輩が文化祭準備委員長なんだよ』

「おいおい、それが何でこんなことになったんだ?」

『あの人はどちらかといえば快楽主義もしくは放任主義。 統制してるのではなくて 煽ってる。 お祭りだから後先考えないで派手にやろうと』

「確かに言ってることはわかるが、なんで 誰も疑問に思わなかったんだ?」

『本当にね。考え見れば簡単なことなのに、紅羽先輩は自分の言葉を通す力あるんだよ』


 それは政治家向きの厄介なスキルだな。話術に長けているということか。確かに生徒会向きだが、紅羽先輩を評価するにはまだ情報が足りない。 

 それにイベントを無事に成功させることが最重要。ひとまずは保留だな。


「それよりも気になっていたんだが、声にエコーがかかってないか?」

『うん、実は今お風呂に入ってるんだよ』

「済まん。そうか……悪かったなすぐに切るよ」

『待って待って! わざわざ切ることないよ。このまま話を続けましょう。お風呂に入ってる方が血行が良くなるからいいアイデアも浮かぶでしょ」


 実に理にかなっているが問題点はそこじゃない気がする。モラル的にどうなんだという話。白石に話したら説教されそうだ。


 五十嵐は変わっている。普通、女だったら恥ずかしがるもんなんだが、 受話器腰だからだろうか堂々としていた。

 うちの妹だったら間違いなく慌てふためくだろう。


『でも、チョット待って、ダブルワークはたいへんだよ。クラスの出し物執事&メイド喫茶だから』

「まじか? それ全然知らないぞ」

『ええー? まだ黒川君教えてなかったの? サプライズするからだまっていて……』

「それいつのことだ?」

『半月前』

「く・ろ・か・わ……後で殴る」


 多分、俺が妹の参観日に出席している時だ。やられた。あいつ完全に忘却しているな。


「でも、そのわりにはみんな進んでないな」

『リーダーの黒川君が危機感ないから』


 あー、リーダーの素質ゼロな奴ここにもいたわ。

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