第十六話「アイリは行動派アメリカ系妹」


 

 下校途中特売のスーパーをハシゴして買い出し完了後、両手に一杯エコバッグさげて帰宅。玄関には見知った靴が揃えておいてある。藍梨だ、甘えたがりな俺の大事な妹。

 今日は藍梨が泊まり込みで遊びに来ていた。週一で迎える暖かい食卓をありがたく噛み締めながら、独り暮らしは意外と寂しいことを実感する。


 藍梨の為に奮発した夕食がつつがなく終わると手持ち無沙汰なので軽くフローリングワイパーを使い床磨き。

 雑巾がけも好きだけど熱が入りすぎてワックスがけまでに発展するのは明白だ。そうなったら藍梨がむくれるので泊まりに来ている時は凝ったことはやらない。

 それはいいのだが……、


「兄上様、どうしたでござるか?」

「藍梨、重たい。先に進ませない気か?」

「これは愛情の重さでございまする」 

「クラスの男子にもこんなコミニケーションしているのなら兄は不安だぞ」


 相変わらず戯れてくるわが妹は後ろから重心を預けしがみつく。発育の良いおっぱいを背中に押し当てて。見た目がアメリカンなパツキン美少女だから、兄以外にもこんなことやっているんじゃないかと憂いが募った。向こうは赤の他人でも簡単にキスするから。

 

「心配御無用。学校では大和撫子を通しているので、こんなはしたないことはいたしませぬ」 

「ならなぜ俺にはやる?」

「それは妹の特権だからでござるよ。毎日は会えないのです。だから一日ぐらいアイリが独占しとうございます」

「なんて健気な妹」


 思わずほろり。

 兄心を把握している藍梨。うい奴。予定している食後のデザート作りに俄然気合いが入る。


「なので今日はなにやら兄上が心ここにあらず状態でござるから、この愚昧は杞憂と知りながらも憂いを抱いているしだい」

「藍梨、ちょっといいか?」 

「なんでございましょう兄上様」


 最近気になっているアレのことを妹に話すことにした。客観的にみて武者小路ソニアはどんな奴なのか気になる。


「最近何となく視界に入る女子がいる」

「なんと、兄上に春が来ましたか」

「いや、その類(たぐい)じゃない。ただ単に気になるだけだ」

「兄上様もお年頃です。嫁候補の異性もできましょう。——で、その女の名前と住所は? 特徴も詳しく教えていただけると誤爆は避けられるので」


 人の話を聞かないのはあの母親似だ。

 藍梨の声質がツートーン低い。


「なにをするつもり?」

「なに、昔馴染から米軍のダイナマイトを裏ルートにて購入したから一族根こそぎ始末しようかと……てへ♪」

「絶対にやめなさい」


 平気で殺傷力高いブツを購入したとか恐ろしい子。それにしても軍のアイテムが中学生のお小遣いでも簡単に手に入るってどうなのよ? 昨今両国の交友関係はグローバル過ぎないか?


「もちろんアメリカンジョークでござるよ。一介の小娘にそんなたいそれたことなどできるわけがないのです」

「いやいや、お前のじいちゃん生前は軍最強独立部隊の隊長だったろ? 今でもお嬢の為なら死んでもいいっていう輩が一杯いるじゃないか?」

「ははは、拙者は一時期艦長経験もあるでござる」


 アメリカンジョークだろ? どこまでが本当か知らないけどな……。祖父が戦死後も軍で預かっていたが、荒んでいたから隊員達及び母親の意向で蒼山家へ引き取る事となった。

 ここまで素直になるのに時間がかかったのは言うまでもない。


「それでその女子が頑張り屋なんだよ。何でもかんでも一人で受け持って、自分の体力以上のことをする」

「ほうほう、兄上様と同じでござるな」

「いや、違うだろ。俺はそこまで良いやつじゃねえよってか、話が進まないからそれ置いといて、とにかく真面目すぎていつか壊れないか見てなれない」


 俺が警察に補導されたり、学内で揉め事を起こす度にわざわざやってくる。普通ならいくら面識あっても責任ある立場でもここまでやらないだろう。

 そこまでイチ学生であるソウルイーター先輩を駆り立てるものは何なのか?


「ふむ。なるほど。兄上様はどうしてそんなにその女の子が頑張っているのか不思議だということですね?」

「何か理由があるのかな」


 妹を引き剥がし食後のデザートの準備を始める。

 メニューはシュークリームだ。


「そこまで頑張るのならあるでしょうね。例えば家族や友達ににいいところを見せたいとか、いい大学もしくは一流企業に入りたいとか、もしくは……」

「もしくは?」

「好きな殿方に認めてもらう為でござる」

「そのジト目はなにかな? マイエンジェル」 

「別にぃーでござる」


 俺は押し退けたせいで機嫌が損ねそうな妹の為にデザート制作へと取り掛かる。


 当然ですがアイリは兄上に認めてもらいたくてがんば——、「玉子がない……。シュークリームが作れないな」藍梨は何かを言いかけたまま俺の報告で情報を上書きされる。


「ガーン!」


 冷蔵庫を開けると生クリームとカスタードクリームを作る玉子がなかった。先ほど追加注文で作った出汁巻き玉子で全て使い切ったのを失念……。

 シュー生地は予め用意してあったのに、俺としたことがぬかったわ。

 

「すまん、藍梨、今から玉子買いに行ってくる」

「ええ! もうスーパー閉まっているでござるぞ?」

「だから隣町の二十四時間営業までバイクで」

「ならば兄上様、アイリもいきたいでござるぞ!」 

「駄目だ。女の子が出歩く時間じゃない」

「一分でも長く兄上様と共に過ごしたいでござる。駄目ですか?」


 上目遣いでこちら側を伺う。

 藍梨を連れて行くとポテチとかジャンクフード系買うからなぁ。健康を阻害したらもう俺の家に遊びに行くという大義名分が使えなくなるから、控えているようだがたまに羽目を外すから油断できない。


「分かったよ。一緒に行くか」

「はいでござる」

  

 地下ガレージに安置してある黒塗りの単車。大型までは行かないけど主であるが如くの重厚感と、メンテナンスと洗車もマメに行っているので王者の貫禄あり。

 俺の愛車にアイリとまたがる。

 妹のいざ! という掛け声と共にガレージのシャッターがオープンした。

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