第四回 「緑ヶ丘剣舞高校生徒会長『武者小路ソニア』」



 九月に入り夏が終わっても相変わらず暑さは続く。俺は当分晴れな異常気象にお天道様の馬鹿野郎と悪態をついた。アマテラスは女の子なので野郎じゃないとボケツッコミを入れながら……。

 学校へ向かいながらハンカチで汗を拭う。


 入学までは心が踊っていた桜並木の通学路も今ではイバラの道だ。今朝見た変な夢のせいで青々と茂っている葉っぱを見上げると、半年前からトラウマになっている理不尽なヤジがリフレインして俺の心臓を鷲掴みにする。

 相変わらず繊細な心に驚くが、終わった事だからそろそろ切り変える時期ではないか? されどそう簡単には割り切れないのが人間だ。


 家はさほど離れてないから徒歩で毎日通っているけど、我が学び舎剣舞高に近くにつれ気持ちはマイナスへ傾く。もし運命の食パンくわえている女子がぶつかっても今ならスルーするだろう。なんならゴール前からシュートを決めてもいい。華麗に空振りする自信がある。


「おはようさん海青、相変わらず陰険というか暗いべさ。なんかあったん?」

「おっす白石。余計なお世話だよ。お前こそまた男に告られたんだって?」


 こいつは白石彼方(しらいしかなた)、中学から続く俺の少ない友人だ。

 昔から俺は硬派らしくないから何事も弁明が嫌いで、信念を曲げず絶対正義を貫いているので他の奴らにウザがれ相手されなかった。でも彼方は、『蒼山の本質は理解しているつもりだべ、お前はただ馬鹿で不器用なだけさ』と未だに友人でいてくれてる。


 ちな北国の出身なので少し独特の訛が特長。


「なして知っているべさ? みったくないから隠していたのに」

「黒川経由だよ」

「あのタコ助……殺すべ」


 色白で童顔、プニプニのモチ肌、女みたいな体つきで華奢だが性は男に属する。仲が良かった男友達に何度も告白された経験がある為付き合う友人を選んでいた。

 俺はそのお眼鏡に叶った一人らしい。

 確かに魔性の魅了はあるかもしれないが生憎俺はノーマル。もしラノベのラブコメ主人公ならヒロイン候補にあげていたかもしれないが、良くて脇役か通行人がお似合いなモブには縁遠い話だ。


「今日もつまらん一日が始まるのか」

「まーたソウルイーター先輩校門前にいるんじゃない?」

「勘弁してくれ。俺はあの人と顔合わせたくない」

「はははっ、海青の天敵だべさ」


 ソウルイーター先輩……学校一の美少女で、一目見ると魂を吸い取られるほど呆然となるのでそう言われている。名付け親は俺。広めたのは白石と黒川。


「おはようございます!」


 噂をすればなんとやら、聞き覚えがあるフローラルな花と甘い桃の果実みたいな声色が耳に流れてきた。

 出くわす。嫌な予感が当たった。


 校門前まで進むと白いセーラー服を着た物腰の柔らかい可憐な美少女が生徒達に挨拶を交わしていた。それは俺にも。


「おはようござ--」

「おはようございます生徒会長」

「ソウルイーター先輩……どうも」


 挨拶が途中で止まったのを気にせず俺は軽く返す。お優しい生徒会長もカースト下位にいるようなぼっちには興味を示す価値もないというわけだ。

 魂を持って行かれそうな綺麗な瞳がまた俺を捉える。

 ソウルイーター先輩、天使のような微笑みはそのままに声は渇いていた。


 武者小路ソニア(むしゃのこうじ そにあ)。

 緑ヶ丘剣舞(つるぎのまい)高校の現生徒会長で人気者。

 品行方正、公明正大、正直者。絵に描いたようなカリスマで、正義感が強すぎたせいもあって入学式に俺と衝突した。まあ…向こうは俺みたいな石ころ風情なんて空気ぐらいにか感じてないだろうけど。

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