【七枚目:幼馴染】
遠くで船の汽笛の音が鳴っているのが聴こえてくる。
拓海はゆっくりと目蓋を上げると口を開いた。
「俺がまだ幼稚園生くらいの頃だったかな。俺ん家の隣に幼馴染が住んでたんだよ。ゆうちゃんって言うんだけど、毎日二人で遊んでたって母さんから聞いたことがある」
「すごく仲が良い友達だったんだね」
「あぁ——でも、引っ越しちゃったんだ。小三のころに。理由は覚えてないんだけどな」
「そうなんだ……」
透き通った晴天を、一筋の飛行機雲が切り開く。
「だから、手紙と一緒に写真を送ってたんだよ。最初は俺を写してもらった写真だったんだけど、そのうち自分で写真を撮るようになって。このカメラも初めて貰った給料で買ったんだ。」
たとえ何気ない風景だとしても、写真を撮ることで面白い発見をすることができる。そのことに気がついてからは、拓海はどんどんカメラの世界へとのめり込んでいた。
それを見つけるのが楽しくて、休日はよくいろいろなところに出掛けるようになっていった。
「ねぇ、帰るの明日だよね。今からちょっと歩かない?」
バス停のすぐ横にある階段を降りきると二人の前にはビーチが広がった。
悠斗は靴を脱ぎ捨てて波打ち際まで行き、こちらに向かって声を投げた。
「俺の写真も撮ってよ! ちゃんと映るかわからないけど」
水平線に半分沈んだ夕日が悠斗を照らしていた。確かにこの向きだと逆光になってしまう。
「まぁいいか」と拓海はファインダーを覗くと、打ち寄せる波を蹴っている悠斗が映る。
「動かないでくれよー」
と叫ぶと、
「ごめんごめん」
と返ってくる。
そして悠斗の動きが止まった瞬間——シャッターを切った。
一秒にも満たないその時間を、音を、色を閉じ込めて。景色の一部を切り取った。
「どう、撮れてた?」
拓海がカメラを確認すると、モニター画面は真っ暗になっていた。電源を入れようとしてみたが起動する気配はない。
「多分バッテリー切れた」
「えっ、じゃあ写真は?」
「シャッター音は鳴ったから撮れてると思うけど……」
「そっか」と悠斗は少し残念そうな声を出すと、数分前に脱ぎ捨てた靴を拾った。
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