第七十五話 異常発生 後半

 確かに、ケウキの頭部は吹き飛ばされた。

 頭部どころか、首元まで綺麗さっぱり抉られている。


 しかし。


「……おいおい」


「何か、おかしい」


 ケウキは脳の全てを失っても尚、何事も無かったかのように再び動き始めた。


「嘘でしょ……!?首が、無いのに!?」


 脳震盪で倒れたハズのケウキが、頭部を失っても動いている。


 このケウキには他に予備の脳があって、そちらへ肉体の制御を移したのだろうか?

 しかし、ケウキが別の脳を持つなどという話は聞いた事も無い。


 これが運悪く新種の魔物に出会ってしまった、というのならば、まだ良い方である。


 さらに妙な点として、首の断面に骨や肉といったものが見当たらず、ただ「真っ黒」であるということが、より俺達の不安を掻き立てた。


「マズい、足が……動かない……」


 マーズさんは、とうとうケウキの「奇妙さ」にやられてしまったのか。

 大剣を落とし、その場で棒立ちになってしまっている。


「ジィン!ファーリちゃん!私もそっちに行くわ!マーズには後方で待機してもらって、サポートはロディアに……ロディア?」


 声に反応して後方へ目をやると、そこにはキョロキョロと辺りを見回すガラテヤ様とマーズさん。

 二人の姿しかない。


 前方へ視線を移しても、そこにいるのは首無しのケウキと交戦しているファーリちゃんだけ。


「あれ、ロディア……いなくないですか?」


「いつの間に……?さっきの『死の国デッド・ゾーン』が効かなかったから怖くなって逃げた、のかしら?」


「いや、ロディアはそういうことするイメージ無いですけど……まさか、俺達以外に敵が?」


「それらしい気配は感じられなかったけれど」


 そういう敵が他にいるのか、怖気付いて逃げたのか。


 俺達もロディアも、この山に「連れて来られた」という共通点が妙に引っかかるため、何かそこに起因するものによって連れ去られるなり、吹き飛ばされるなりしたのだろうか。


 今はケウキへの対処で手が離せないが……ロディアの行方が心配だ。


 一体、この山で何が起きているというのか。

 何から何まで妙なことばかりである。


「ガラテヤ様!ロディアがいない以上、仕方ありません。引き続き、マーズさんの側にいてください!一人っきりにして、マーズさんまでいなくなったら大変です!」


「いや、それならジィンが下がって!嶺流貫レールガンを一発撃ったくらいじゃ、私のリソースは無くならない!ジィンの魔力残量、正直キツいでしょう?」


「よく分かりましたね」


「さっきから斬撃飛ばしてるんだもの、それくらい分かるわよ。さ、代わって!」


「じゃあ、そうさせてもらいます!」


 俺は「駆ける風」で速やかに後方、マーズさんの元へ。

 それと同時にガラテヤ様は「風の鎧」を纏い、「飛風フェイフー」で前線へ。


「ガラテヤお姉ちゃん、魔力、大丈夫?」


「大丈夫よ。私、貯められる魔力量には自信あるんだから」


 雷を纏いながら首無しのケウキに善戦するファーリちゃんと共に、空中を飛び回ってケウキの懐へ潜り込む。


 そして、ファーリちゃんに気を取られているケウキの胸を、「刹抜さつばつ」抉り取った。


「ジジジ、ジジ……」


 首を無くし、もはや言葉にもならない魔力の爆発音を鳴らしながら、首無しのケウキはそのままバランスを崩して地に伏せる。


「離れて、ガラテヤお姉ちゃん」


「分かったわ!」


 二人はケウキからそれぞれ距離をとった。

 そして、ガラテヤ様は後方へ。


 最後の力を振り絞ってか、ケウキは残った両前足の爪をファーリちゃんへ向けて発射する。


 しかし、ファーリちゃんはガラテヤ様へその爪が向かわないよう、あえて自分だけ残ったのだろう。

 待ってましたとばかりに、全身に纏っていた雷をナイフへ集約させる。


 そして発射された爪の上に飛び乗り、瞬時に跳躍。


「……【闢雷びゃくらい】」


 瞬く間に、残ったケウキの身体を粉々に切り裂いた。

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