第六四話 学園の状況

 俺とガラテヤ様は、一階の教室に空いていた大穴から校舎内へ入り、様子を見ながら誰かしら状況を知っていそうな先生を探すことにした。


 まあまあな損害とは聞いていたが、流石に空襲並みとまではいかなくとも、前世のテレビで目にした紛争地域の破壊された建物より少しマシな程度には、学校も破壊されているようである。


「……おお、ジィンさん、ガラテヤ様!ご無事で何よりでございます」


 辛うじて生き残った、メインとなる教室棟の二階へ続く階段を上ろうとしたところで、丁度その階段を降りてきたムーア先生と鉢合わせになった。


「ムーア先生!」


「ご無事で何よりです、ムーア先生」


「いやいや、勿体無いお言葉です、ガラテヤ様……。長いこと、何かを守る仕事はしてきたつもりだったのですが……力及ばず、学園としても学業を中断せざるを得ない状況となってしまいました」


 ムーア先生は踊り場で脚を揃え、ガラテヤ様へ跪く。


「貴方が謝ることじゃあありません、ムーア先生。むしろ、復旧できそうな状況にまで留めておいて頂いたことに感謝を申し上げますわ」


「……ありがたいお言葉、感謝致します。しかし人的被害については、あまり良い報告はできそうにありませんでしてな……既にお聞きになっていれば、私の口から特段お伝えすることは無いのですが……」


「いえ、まだですわ。……何か、あったんですの」


「はい。……学生やギルド職員から、数名の犠牲が出ているのと……犠牲者こそ両手の指で収まってはいますが、怪我人が多く出ており、街の復旧もいつ始まるかの見通しすら立っていないのです」


「……マジか」


「……犠牲者の中には槍術の『コルタ・リゲルリット』先生も含まれておりまして……学生を守るために、強化人間五人と戦って相打ちになったと、その守られた学生からは聞いております」


「そんな……」


 リゲルリット先生といえば、試験を担当する際に噛んだことが印象深い先生だ。

 こんな思い出しか語れないのもどうかとは思うが、必修の講義で槍術の基礎を説明してもらった経験もあるため、その先生が犠牲になったと聞けば、ショックの一つや二つも受けるというものだろう。


「また、校長の『ノイン・ロック』先生も、息はありますが、意識の方はいつ戻るか……」


「フラッグ革命団……こっちでも随分とやってくれたみたいだな」


「お二人とマーズさん、ロディアさん、ファーリさんの三名は、ベルメリア領での戦いに参戦したとお聞きしております。そして……今、ここにいらっしゃらない三名がどうしているのか、も」


「……ムーア先生。こんな状況で、お願いすることでは無いと思ってはいるのですが……俺と、手合わせしてくれませんか」


「……ほう、手合わせ、ですかな」


「はい。……俺、模擬戦の時は剣が無かったじゃないですか。だから、今度は……この刀で、戦って、知りたいんです。今の俺が、どこまでムーア先生に渡り合えるか」


「……これも、良い機会でしょう。あの戦い以降、休みが続いておりましたのでな……丁度、身体が鈍っていたところです。受けて立ちますぞ、騎士ジィンよ」


 断られるかと思っていたが、ムーア先生は意外とノリノリで付き合ってくれるようだ。

 落ち着いた老紳士という印象だったが、この人は思っていたよりもバーサーカーなのかもしれない。


「ありがとうございます、ムーア先生」


「ちょ、ちょっとジィン!?身体は大丈夫なの?」


「大丈夫です、もうすっかり治りました。それに、模擬戦ですから。ガラテヤ様は……俺の応援を、よろしくお願いします!」


「え、ええ……それなら良いのだけれど……」


 俺はムーア先生に案内され、これまた辛うじて無事だった訓練場のリングに立つ。


「それでは、始めますぞ」


「ええ、行きますよ、ムーア先生!」


 互いに一礼した後、剣を抜く。

 次の瞬間には鍔迫り合いが発生した。

 たかが模擬戦、されど模擬戦。


 俺とムーア先生は、今度こそ「剣士」としての戦いを始めるのであった。

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