第六章 悪性胎動

第六十三話 凱旋

 二週間後。


 村の復興も最低限は終え、何とか意識を取り戻したマーズさんとファーリちゃんを馬車に乗せた俺とガラテヤ様は、一旦王都へと戻ることとなった。


「……これから、どうなるんでしょうかね」


「さあ……。学園も、少なくない損害を被ったらしいから……しばらくは休校だって、王都の被害状況を伝えにきた伝令の人が言っていたわよ」


「帰って、少し休んだら……レイティルさんのとこに行きましょう。ロディアと、いなくなった父さんの捜索を、早く始めたいです」


「そうね。……でも、どうかしら」


「どう、とは?」


「探して出てくるものなのかしら。行方不明者って」


「探すだけ無駄、とでも」


「そこまで言うつもりは無いわ。でも、ただの人探しとは訳が違うというのは確かよ。死んだ現場を目撃されたり、遺体が見つかった場合は『死者』として扱われるでしょう?ただ、人が見ていない時とか、そもそも周りに目をやれない時に跡形もなく吹き飛んだ人は、『行方不明者』として扱われる。……行方不明者の中で、果たして何人見つかることやらって感じよ」


「……特にロディア、ですか」


「ええ。……不安も募っているところ申し訳ないのだけれど、そろそろ王都に着くわ。学園に戻ったら……まずは先生達から話を聞きつつ、ギルドに寄ってみましょう」


「分かりました。こんな時ですけど、ランクも気になりますしね」


 馬車が王都の門を抜け、俺とガラテヤ様は、間も無くマーズさんとファーリちゃんを病院へ運び込んだ後、ウェンディル学園へと向かう。


 壁や噴水などが倒れていたり、扉や窓も、ところどころ破損が目立っていた。

 どうやら本当に、被害は少なくなかったようである。


 修理もまだ進んでいない校舎を横目に、まずはギルドへと立ち寄る。


「お、お待ちしておりました……!ジィンさん、ガラテヤさん、無事だったんですね!……あれ、あとの三人は……」


 校内のギルド支部へ向かうと、いつも俺達の相手をしてくれていた受付嬢が、こちらへ気付くなり書類を机に叩きつけて駆け寄ってきた。


「マーズさんとファーリちゃんは療養中、ロディアは行方不明です」


「……そうですか……そう、ですよね、ごめんなさい。あんまり聞かない方が良いとは思ってたんですけど……何やってんだろ、私」


「いいのよ、顔を上げなさい。そちらも、大変だったのでしょうし」


「ええ……うちの支部からも、王都での戦いに巻き込まれた者が何人も出ました。幸い、全員怪我で済みましたけど……現在、復帰できているのは私と、あと三人だけで、書類も……あっ、書類といえば!」


「どうしたんですか、いきなり」


「貴方達のランクが上がったんですよ!Cランクへの昇格に加えて、さらに、ジィンさん、ガラテヤさん、マーズさんの三人には、集団での作戦行動に向いた傭兵としての技能が極めて高いことを示す『守護冒険者』のライセンスが、ファーリさんとロディアさんには、『調査冒険者』のライセンス与えられたんです!……と、普段だったら笑顔で伝えた上で、冒険者カードを更新する上での講習や注意をしておきたかったのですが……今回は、状況が状況なので、更新だけ簡易的に済ませてしまいますね」


「更新?Dランクに上がった時はそんなのしたかしら?」


「あっ、いえ!今回は少し事情が違ってですね……」


 彼女の話を要約すると、ランクというものは、あくまでも「ギルド内でしか通用しない階級」である。

 よって、わざわざカードに書かなくてもギルド内で共有されている以上、最悪カードに「Gランク」と書いてあっても、ギルド内で「Bランク」と共有されていれば、その冒険者はBランクとして仕事を探すことができる。

 しかし、「守護冒険者」や「調査冒険者」など、ランク以外にあるライセンスはギルド外でも資格として使うことが少なくないため、カードに書いておくことが推奨されているらしい。


 学校で出されたテストの点数は学校、せいぜい教育機関でしか使われないが、英語検定の資格は職場を探す際にも役に立つ、このくらいのものだろう。


「へー……。色々とありがとうございました。じゃ、俺達はそろそろ失礼します」


「もう行っちゃうんですか……。分かりました。お忙しい中、ギルドへお立ち寄り頂きありがとうございました。お二人の顔だけでも見れて、とりあえず安心しました!」


「こちらこそ、ありがとう。いつもお世話になっていた貴方が無事で安心したわ。それじゃあ、また」


 まだ、この国が日常を取り戻しているとは言い難いだろう。

 フラッグ革命団も、大損害を被ったのであろうとは思うが、まだまだ滅びたという話は聞かない。


 行方不明者の捜索も含めて、彼らの我儘には、もう少し付き合わなければならなそうである。


 俺は落ちていた石を蹴りながら、吹いている風を全身で感じながら、先生達を探すのであった。

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